著者
大原 弘子 赤塚 朋子 友田 薫 萩原 葉子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第56回大会・2013例会
巻号頁・発行日
pp.18, 2013 (Released:2014-01-25)

<目的> 高等学校家庭科の学びが、高等学校の基礎学力の総体というシチズンシップ教育と関連が深く、「将来の多様な選択肢を提示し、その土台をつくり、踏み出す1歩を支える教科」という位置づけを提案してきた観点から、本研究では、高等学校家庭科と大学入試センター試験問題とのかかわりをさらに探り、高等学校家庭科の学びが高等学校の基礎学力の総体とどのような関係にあるのかを明らかにすることを目的とした。<方法> 2008年~2013年における大学入試センター試験問題のうち、2012年を基準に、国語、地理歴史、公民、数学、理科、外国語の各教科のうち、1000人以上の受験者があった24科目の問題を対象とし、高等学校家庭科教科書との関係に注目して、キーワード検索を行い、分析検討した。教科書は、栃木県の履修率が65.9%(「高等学校家庭科の履修単位数をめぐる現状と課題」日本家庭科教育学会誌 第54巻第3号)を占める「家庭基礎」を用い、教科書出版社の教育図書、大修館、実教出版、開隆堂、東京書籍、第一学習社の各社1冊ずつの計6冊を対象とした。<結果> 前回の大会で「高等学校家庭科の位置づけの再検討―大学入試センター試験問題とのかかわりから―」を研究発表した後、反響が大きく、年数を5年間として再度調査することとした。大学入試センター試験問題は、高等学校段階における基礎学力をはかる手段となる。そのため、実際に、センター試験問題と家庭科教科書を照らし合わせてみたところ、家庭科の学びが、24科目のうち平均9.6科目と関係があり、センター試験問題を解く際には、かなりの頻度で思考の助けになっていることが明らかとなった。 試験問題に関係するキーワードを、教科書の該当ページに領域別に色分けした付箋で貼っていく作業を行った。各社の教科書の編集方針によって、その違いはあるものの、概ねどの教科書にも領域別に色分けした付箋が貼られた。 キーワードの5年間の平均数は、65であった。そのうち、毎年出てきたキーワードは、「遺伝子組み換え」、「食の安全」、「世界の食生活」、「子育て」、「介護」、「社会保障」、「地球環境問題」、また「環境」、「家族」、「男女平等」に関することであった。4年間出てきたキーワードは、「消費者」、「少子高齢化」、「トレーサビリティ」、「年金」、「フェアトレード」、「ワークシェアリング」であった。近年の傾向としては、「NPO」、「世界の衣服」、「待機児童」があがってきた。今回の英語の試験問題には「まちづくり」が登場している。 教科としては、現代社会、地理、歴史、政治経済などの社会科や理科総合、化学などの理科について予想通り多く見られた。新学習指導要領から登場する理科の「科学と人間生活」とのマッチングが今後予想される。高校生に他教科と家庭科の関係が深いことを知ってもらうことで、家庭科に対する印象がかわることを示唆している。 高等学校家庭科の現状は、「家庭基礎」2単位履修を選択する傾向も否めず、高等学校の1学年のみの時間数という厳しさもみられる。教員配置も各学校に1名のところが多く、「受験に関係ない」教科という意識が大多数の学校では、家庭科の学びの意識そのものが停滞する雰囲気が学校全体を覆っているといわざるをえない。 本研究の結果をふまえ、家庭科の学びが、高等学校の基礎学力の総体と関連が深く、大学入試センター試験問題を解くうえで、総合的なヒントになることがわかった。高等学校家庭科の授業は、実は、大学入試センター試験問題を解くうえで、これまでの学びの総復習になるともとらえることができる。また、1学年より2学年や3学年での履修や、2単位よりも4単位の履修の方がより確実に学びが生かされるのではないだろうか。大学入試センター試験問題が、高等学校家庭科の学びと関係が深いことが明らかになったことで、この両者が現代生活に資するものであることも確認できた。
著者
倉元 綾子 高橋 桂子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第56回大会・2013例会
巻号頁・発行日
pp.58, 2013 (Released:2014-01-25)

【目的】家庭科は生活課題を取り扱うことから,問題解決能力(現実の領域横断的な現状に直面した場合に,認知プロセスを用いて,問題に対処し,解決することができる能力。問題解決の道筋が瞬時には明白でなく,応用可能と思われるリテラシー領域あるいはカリキュラム領域が数学,科学,または読解のうちの単一の領域だけには存在していない。PISA)の育成に大きな役割を果たすことが従来から指摘されてきた。また,平成20年度学習指導要領改訂では家庭科に「生活の課題と実践」が加わったことから,問題解決型の授業がますます重要視されてきている。本報告では,韓国・家庭科における実践的推論プロセスにもとづく授業の導入について明らかにする。【方法】ユ・テミョン,イ・スヒ著『実践的問題を中心とする家庭科の授業-理論と実践』(2010年,ブックコリア)および韓国教育課程に関する文献資料などを分析した。【結果】(1)韓国の家庭科では,2007年の教育課程改正以後,問題解決型学習,プロジェクト学習,実習中心学習,特に実践的推論プロセスの本格的導入が進められている。(2)『実践的問題を中心とする家庭科の授業-理論と実践』は,新教育課程に向けて,プログラム開発・実行・評価など家庭科教員の教授能力を高めることを目的としている。(3)同書は,第1部 実践的問題を中心とする家庭科の授業の理解,第2部 実践的問題を中心とする家庭科の授業の設計,第3部 実践的問題を中心とする家庭科の授業の実際から構成されている。(4)第2部 実践的問題を中心とする家庭科の授業の設計は全5章から構成されている。授業の中心的観点の明確化,実践的問題の開発,シナリオ製作,授業における質問の開発,評価のための質問項目の開発などを具体的に扱っている。実際に授業を開発し実施するうえで訓練を必要とする部分についても多様な事例を用いて具体的に説明している。(5)第2部の各章(節)は以下のとおりである。第1章 授業の観点(教育プロセスを重視した授業設計,教師の授業観点,実践的問題を中心とする授業と能力形成を中心とする授業の事例),第2章 実践的問題開発(教育プロセスを基礎とする実践的問題の構成,子どもの個人・家族・家庭生活の実態を基礎とする実践的問題の構成,米国の実践的問題を中心とする教育プロセス),第3章 実践的問題のシナリオ製作(直接製作した実践的問題のシナリオ,新聞資料を活用した実践的問題のシナリオ,写真資料を活用した実践的問題のシナリオ,映像資料を活用した実践的問題のシナリオ),第4章 質問の開発(三つの行動体系と関連した質問,推論段階にともなう質問例,実際の授業での質問の構成例),第5章 評価のための質問項目の開発(評価における二者択一的観点,二者択一的評価ツール)。(6)同書第3部 実践的問題中心家庭科授業の実際は2つの章から構成されている。第2部を基礎にして,実践的問題を中心とする授業の中心的要素が授業過程全体を通してどのような役割を果たしているのか,授業を作る過程を通じて実践的問題を中心とする授業を理解するようにしている。さらに,実際に授業を開発し実施する過程の理解を助けるために事例を通して具体的に説明している。(7)第3部の各章(節)は以下のとおりである。第1章 実践的問題を中心とする授業のプロセス(実践的問題を中心とする授業の準備,実践的問題を中心とする授業の流れ),第2章 実践的問題を中心とする授業の開発と実施(授業の観点,実践的問題の開発,実践的問題を中心とする授業の実施)。(8)『実践的問題を中心とする家庭科の授業-理論と実践』の実践編は豊富な事例と具体的な説明を用いて,実践的推論プロセスにもとづく授業に取り組むことができるようにしている。
著者
萬谷 恵三子 佐桑 あずさ
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第56回大会・2013例会
巻号頁・発行日
pp.44, 2013 (Released:2014-01-25)

【研究目的】 東日本大震災後、中学校段階における防災教育は、「地域の過去の災害や他の地域の災害例から危険を理解し、災害への日頃の備えや的確な避難行動ができるようにすること」、「学校、地域の防災や災害時のボランティア活動の大切さについて理解を深めるようにする」という方針が文部科学省により示された。中学生は災害時に活動の担い手となる事が期待できるが、防災という視点で有益となる地域情報は日常生活の中では得にくい状況であると考える。 そこで本研究では、災害時に中学生が地域で活動できる具体的な内容とそのために必要な地域情報を理解するための授業計画・実践を行い、防災力を育む事を主眼においた中学校家庭科の授業開発を目的とする。【調査方法】(1)自宅から防災拠点校までの避難ルート、安全または危険な箇所、災害時に必要な人的資源の情報を1つにまとめた地域防災マップを作成した。授業は2012年12月から2013年の1月の期間に、横浜市内の中学校2年生130名を対象に行った。(2)家庭、学校、地域における防災対策や意識についてアンケート調査を実施した。また授業前と授業後で防災チェックシートに記入させ、授業評価を行った。【調査結果】(1)防災意識と対策の実態 家庭内で食糧や衣料品の備蓄や家具の転倒防止対策は50%以上が「している」と回答しており災害に備えている事が分かった。また家庭で避難方法・連絡の取り方について話しているかについては「はい」と「いいえ」が50%の同率であった。学校での防災教育で具体的に学びたい内容としては「災害時にとるべき行動」「非常食」などの被災後の対応や生活に関する事が多く、次いで「地域で起こりやすい災害」「地域の安全・危険な場所」など身近な場所の実態に関する内容となった。地域で発生しそうな災害については「家の倒壊」が最も多く、次いで「地すべり」「がけ崩れ」の順に多かった。地域の避難場所については80%の人が知っているが、食糧・道具の備蓄状況や避難訓練・防災訓練の実施状況については50%以上の人が「わからない」と回答しており、中学生にとっては得にくい情報であることが分かった。(2)授業後の防災チェックシートから見る意識の変化  防災意識についての自己評価は、[自然災害や被災後の生活の不安]、[自然災害についての知識]、[自身・家庭・地域の防災意識]、[自身・家庭・地域の防災対策]、[災害について話し合うことの必要性]、[地域の理解]、[災害時の自身の役割]に関する合計30項目とした。30項目に対し、授業前と授業後に「とてもそう思う」から「思わない」の5段階で回答を求め、平均値を出し比較した。授業後に評価が低くなったのは9項目、高くなったのは21項目であった。 評価が低くなった項目は、「被災後の生活」「地域の自然災害」「自然災害」への不安、「自身・家庭・学校の防災意識」、「日頃から被災した場合の行動・地域のことを家族と話す必要性」、「地域がすき」である。防災知識を得た事で、より学校や家庭での防災対策の必要性を感じると同時に災害に対する不安は少なくなったと考えられる。 最も評価が高くなった項目は、「地域の安全な場所・危険な場所を知っているか」「地域に住んでいる人とコミュニケーションをとれているか」であり、次に「災害時に役に立てる」「災害について友達や学校で話し合うことの必要性」であった。地域防災マップを作ることを通じて地域への理解が深まり、またグループで災害時に中学生ができることについて話し合う事で自身の役割について考えた事が評価につながったと考える。 防災に関して自身、学校、地域についての理解が深まり、話し合う必要性を確認できた一方で、家庭内で災害や被災後の生活について話し合う必要性についての評価が低くなった。学んだ事を家庭でも共有し、具体的な対策へも発展させる授業展開について今後検討する必要がある。