著者
塚田 英晴 深澤 充 小迫 孝実 小針 大助 佐藤 衆介
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.166-169, 2009-07-15

飼料の国内自給率の向上や中山間地域の振興を図る一つの方策として、林地の畜産的利用が近年注目されている。一方、日本の森林は、多くの野生哺乳類の生息地として重要な役割を担っており、林地への放牧導入が林床植物の種構成や草冠構造への影響を通じて、野生哺乳類の生息環境の質や量にも変化をもたらすことも予想される。林地の野生哺乳類に対する牛による放牧の影響については報告例がほとんど認められないが、低木を含む放牧地での研究では、植生の被度、草高およびリターなどの減少を通じて小型哺乳類の個体数を減少させることが報告されている。また、牛以外の反芻動物による影響としては、シカ類の増加による森林植生の変化が、小型哺乳類相の貧弱化を招く可能性が英国の研究で指摘されている。したがって林地への牛の放牧導入を推進する上で、野生哺乳類と共存しうる林内放牧の適正水準に関する情報が重要となる。しかし、林内放牧が野生動物の生息に及ぼす影響に関する日本での研究報告はほとんどなされていない。本研究では、林地への乳牛の放牧を新たに導入した一農家の事例において、放牧が小型哺乳類に及ぼす影響に関し、捕獲数およびいくつかの環境指標をもとに評価したので報告する。