著者
園田 陽一 塚田 英晴
出版者
日本環境共生学会
雑誌
環境共生 (ISSN:13463489)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.129-138, 2023-10-18 (Released:2023-10-19)
参考文献数
46

We focused on the current situation and issues of roadkill research in Japan. Road crossing infrastructures, which are developed as roadkill countermeasures, are important from the viewpoint of improving the permeability of wild animals and eliminating the barrier effect. Road crossing infrastructures are required to harmonize with the landscape from the viewpoint of biodiversity offset.
著者
塚田 英晴
出版者
Hokkaido University
巻号頁・発行日
1997-03-25

1. 今日,野生動物と人間との共存の重要性が認識され,とりわけ,人間と野生動物との生活・生息空間が重なる状況での「重複型共存」の重要性が高まっている。野生動物の餌づけは「重複型共存」を考えるにあたり,重要な課題である。2. 本論文では,環境の保全が優先されるべき知床国立公園において観光客によるキタキツネへの餌づけがおこなわれている問題を取り上げ,そのような餌づけが及ぼす影響を,1) 採食生態の変容,2) 行動域利用の変容,の点から明らかにし,3) 餌づけが発生するメカニズムを,キツネの行動習性や環境要因から検討した。そして,a) キツネ自体への影響,b) 自然環境への影響,c) 地域住民への影響の3つの点の評価から,知床国立公園という地域の管理原則上,観光客によるキツネの餌づけが適切か否かを判断した。さらに,以上の結果を,キタキツネ以外の動物の餌づけで報告されている影響と比較して,その違いの要因を議論した。2. 餌づけがキツネの採食習性と生物群集に及ぼす影響やその可能性を行動観察と糞分析から検討した。観光客から給餌されたエサは,得やすさとは無関係に,主食となる自然のエサの不足する時期に利用が増加した。したがって,給餌は代替的エサの一つとして利用されているにとどまり,キツネの採食習性に与える影響は小さいと考えられる。けれども,餌づけによって成獣の生存率が高まり,その結果,キツネの個体数密度が増加していることが示唆され,エサとなる動物種や競合種との関係を通じて生物群集に影響を及ぼしている可能性が示唆された。3. 季節的に大きく偏った分布を示す2つのエサ資源,観光客からの給餌とサケ科魚類,とキツネの行動域との対応関係から,エサの分布の変化がキツネの行動域変化に及ぼす影響を検討した。さらに,間接的に,餌づけによってエキノコックス汚染が地域にどのような影響を及ぼすかを評価した。キツネの行動域は,エサの分布の変化に対応して拡大縮小したが,その内側には,年間を通じてファミリー単位で占有される定住域が存在した。また,エサに分布に対応した行動域の拡大は,定住域から日帰りで往復可能な範囲までに限られる傾向が認められ,定住域の防衛と関連していると考えられた。したがって,餌づけを通して行動域変化に影響を与えているものの,排他的な定住域をもつ基本的な行動域の利用様式が維持されていることが確認された。また,エサの分布と関連した行動域の拡大により,実際に餌づけされている地域の周辺まで,エキノコックス汚染が拡大する可能性が示唆された。4. 観光客とキツネとの間で発生する可能性のあるエキノコックス症の問題に関連する要因を明らかにするため,キツネが餌づけられる要因を行動観察を通じて検討した。観光客にエサをねだり行動自体は,成獣よりも子ギツネで獲得される割合が高く,その獲得には道路脇で営巣することが強く影響していた。また,給餌場面でキツネが人に対して示す態度には変異があり,給餌の際に観光客と直接接触してエキノコックス症を感染させる恐れがあるほど人に馴れた個体は,幅員の狭い未舗装路沿いを中心に生息していた。したがって,具体的な対策はこれらの個体を中心におこなうことが効果的だと考えられる。また,キツネの営巣習性の理解は,キツネのエサねだり行動の獲得をコントロールするための基礎として重要だと考えられる。5. 餌づけば,キツネ自体やその生息環境に対して一部ではあるが確実に影響を及ぼしていた。そのため,知床国立公園における観光客の餌づけは,自然環境の「保全」を優先する知床国立公園の管理原則上,適切でないと判断される。また,餌づけがキツネに及ぼす影響とニホンザルやツル類に及ぼす影響とを比較した結果,両者の間には違いが認められ,その要因として,餌づけ主体の目的の相違,餌づけ方法の相違,餌づけ対象の相違の3つの要因が抽出された。この要因に基づき,北海道におけるキタキツネの餌づけ問題の課題を整理した。
著者
塚田 英晴 深澤 充 小迫 孝実 小針 大助 佐藤 衆介
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.166-169, 2009-07-15

飼料の国内自給率の向上や中山間地域の振興を図る一つの方策として、林地の畜産的利用が近年注目されている。一方、日本の森林は、多くの野生哺乳類の生息地として重要な役割を担っており、林地への放牧導入が林床植物の種構成や草冠構造への影響を通じて、野生哺乳類の生息環境の質や量にも変化をもたらすことも予想される。林地の野生哺乳類に対する牛による放牧の影響については報告例がほとんど認められないが、低木を含む放牧地での研究では、植生の被度、草高およびリターなどの減少を通じて小型哺乳類の個体数を減少させることが報告されている。また、牛以外の反芻動物による影響としては、シカ類の増加による森林植生の変化が、小型哺乳類相の貧弱化を招く可能性が英国の研究で指摘されている。したがって林地への牛の放牧導入を推進する上で、野生哺乳類と共存しうる林内放牧の適正水準に関する情報が重要となる。しかし、林内放牧が野生動物の生息に及ぼす影響に関する日本での研究報告はほとんどなされていない。本研究では、林地への乳牛の放牧を新たに導入した一農家の事例において、放牧が小型哺乳類に及ぼす影響に関し、捕獲数およびいくつかの環境指標をもとに評価したので報告する。