著者
吾郷 万里子 佐藤 一石 遠藤 貴士 岡島 邦彦
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.483-492, 2008 (Released:2008-07-25)
参考文献数
30

結晶性セルロースを水,エチレングリコールあるいはトルエン存在下ボールミル処理し,溶媒との相互作用によって生ずるセルロースの形態変化およびセルロースの分子運動の変化について,NMR 緩和時間,熱刺激脱分極電流(TSDC)法を用いて解析を行った.ボールミル処理後のセルロース粒子の形態は溶媒種によってそれぞれ異なり,水,エチレングリコールを用いた場合は微細繊維状(ミクロフィブリル),トルエンを用いた場合はフレーク状の粒子であり,いずれも結晶性であった.溶媒無添加(ドライ状態)でのボールミル処理では微細繊維状組織が破壊され球状の非晶性粒子が得られた.   溶媒存在下でのセルロース鎖の分子運動性を 1H NMR 緩和時間(T2)により解析した結果,水あるいはエチレングリコールを添加した場合,セルロース鎖の分子運動性は向上し,トルエンを添加した場合には低下した.さらに熱刺激脱分極電流(TSDC)法によりセルロースの局所的なドメイン構造変化について調査した.ボールミル処理による結晶性の低下に伴って,セルロース主鎖のミクロブラウン運動に対応する α 分散付近の温度は大きく低下し,TSDC 値は増加した.また−60℃ 付近の β 分散のピーク温度と TSDC 値も結晶性の低下とともに変動し,β 分散は分子鎖間水素結合性に関連した局所的な緩和モードであることが推測された.またセルロース中に水が存在する場合には TSDC 値が増大したことから,セルロース主鎖の分子運動性が活発化することが示された.一方,トルエンはセルロースの主分散にはほとんど影響を及ぼさず,水素結合性の低い局所的なドメインの分子運動性に対して特異的に作用することが明らかとなった.