著者
遠藤 貴士
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.310-320, 2009 (Released:2009-12-28)
参考文献数
15
被引用文献数
10 15

現在、木質バイオマスを原料として、セルロース成分等を酵素加水分解して糖に変換した後、発酵してエタノールを製造する技術が注目されている。そのプロセスではセルロースの反応性を高める前処理が必要となる。粉砕処理は効果的な前処理技術の一つであるがコスト高が課題であった。近年我々は、経済的な粉砕前処理方法として湿式メカノケミカル処理技術を開発した。この技術ではセルロース成分をナノサイズの繊維にまでほぐしている。生成したナノ繊維は、セルロースの結晶性が保持され、さらにリグニンが残存していても、高い酵素反応性を示した。我々が開発した前処理技術は、木材やセルロースが持つナノ構造の特徴を活用した方法である。
著者
吾郷 万里子 佐藤 一石 遠藤 貴士 岡島 邦彦
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.483-492, 2008 (Released:2008-07-25)
参考文献数
30

結晶性セルロースを水,エチレングリコールあるいはトルエン存在下ボールミル処理し,溶媒との相互作用によって生ずるセルロースの形態変化およびセルロースの分子運動の変化について,NMR 緩和時間,熱刺激脱分極電流(TSDC)法を用いて解析を行った.ボールミル処理後のセルロース粒子の形態は溶媒種によってそれぞれ異なり,水,エチレングリコールを用いた場合は微細繊維状(ミクロフィブリル),トルエンを用いた場合はフレーク状の粒子であり,いずれも結晶性であった.溶媒無添加(ドライ状態)でのボールミル処理では微細繊維状組織が破壊され球状の非晶性粒子が得られた.   溶媒存在下でのセルロース鎖の分子運動性を 1H NMR 緩和時間(T2)により解析した結果,水あるいはエチレングリコールを添加した場合,セルロース鎖の分子運動性は向上し,トルエンを添加した場合には低下した.さらに熱刺激脱分極電流(TSDC)法によりセルロースの局所的なドメイン構造変化について調査した.ボールミル処理による結晶性の低下に伴って,セルロース主鎖のミクロブラウン運動に対応する α 分散付近の温度は大きく低下し,TSDC 値は増加した.また−60℃ 付近の β 分散のピーク温度と TSDC 値も結晶性の低下とともに変動し,β 分散は分子鎖間水素結合性に関連した局所的な緩和モードであることが推測された.またセルロース中に水が存在する場合には TSDC 値が増大したことから,セルロース主鎖の分子運動性が活発化することが示された.一方,トルエンはセルロースの主分散にはほとんど影響を及ぼさず,水素結合性の低い局所的なドメインの分子運動性に対して特異的に作用することが明らかとなった.