著者
新田 晃平
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.281-293, 2016-05-25 (Released:2016-05-25)
参考文献数
66
被引用文献数
5

高分子材料の破壊挙動が複雑な点は,炭素原子間の共有結合と二次的な分子間相互作用が力学応答を支配していることにある.高分子の破壊理論は主鎖の破断強度が実測の破壊強度値に比べて桁違いに高いことをどのように理解するのかということで発展してきた.ガラス状高分子では,内在する固有のき裂やひび割れが起点となって延伸方向に垂直に成長する巨視的クラックやき裂が起こる.結晶性高分子では,破壊の起点の発現は分子や原子レベルの量子論的な分子間相互作用による鎖間の解離によって起こる.いずれにしても,その微視的起点から巨視的なき裂への成長については速度論的さらには確率論的に解析され,最終的に連続体力学による応力とひずみに基づくエネルギー論的概念で解析できる.
著者
佐藤 尚弘
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.613-622, 2012-11-25 (Released:2012-11-23)
参考文献数
34
被引用文献数
3 5

高分子溶液の粘度は,高分子の分子量や濃度,および鎖の剛直性に強く依存することが知られている.本報では,5種類の剛直性の異なる高分子溶液に対する広い分子量・濃度範囲にわたるゼロずり粘度を,みみず鎖円筒およびファジー円筒モデルに基づいて定式化された粘度式と比較した.この粘度式には,ファジー円筒の縦方向の並進拡散を支配する臨界空孔サイズを特徴づけるパラメータと分子間流体力学的相互作用の強さを表すパラメータが分子論的に決められない調節パラメータとして含まれている.前者については高分子溶液の種類や分子量によらない一定値を,また後者には溶液の種類と高分子の分子量ごとに適当な値を代入すると,粘度式は調べた5種類の高分子溶液系とも広い分子量・濃度範囲にわたって実験結果とよく一致した.
著者
小川 和郎 平井 明日香 山本 浩平 古門 直樹
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.81-85, 2011 (Released:2011-02-25)
参考文献数
11
被引用文献数
3 3

シクロデキストリン(CD)の包接能を利用した吸着材を開発するため,CD をセルロースに導入することによって CD の不溶化を試みた.架橋剤にはエピクロロヒドリン(EP)を用い,CD-セルロース系不溶性共重合体は NaOH 水溶液中で合成した.合成物の評価はメチルオレンジに対する吸着率から行った.吸着効率は EP 添加量の増加とともに向上し,EP 添加量の増加に伴って CD 導入量が増すことがわかった.一方,収率は EP 添加量に関係なく一定であった.また,収率および吸着効果は 40%の NaOH 水溶液中で合成するときに最大となった.NaOH 水溶液量を多量に使用することは効果的でなかったが,少量の水溶液中で合成したときは収率および吸着効果がほぼ一定であった.合成した共重合体は水や有機溶媒に不溶で,CD による吸着特性を示すことから,吸着材として広く利用されることが期待できる.
著者
飯野 智絵 櫻木 美菜 増永 啓康 櫻井 和朗
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.84-88, 2012 (Released:2012-02-24)
参考文献数
10

遺伝子送達のための輸送媒体(ベクター)として,一級アミンを有する芳香族カチオン性脂質と,zwitter 型の中性脂質である DLPC(2-Dilauroyl-sn-glycero-3-phosphocoline)を混合して脂質ミセルを準備した.この脂質と 3 量体から 20 量体までの異なる塩基数をもつ一本鎖 DNA を混合して DNA/脂質複合体(リポプレックス)を作製した.これらリポプレックスの構造解析を小角 X 線散乱にて行った.DNA 添加前の脂質ミセルは球状であり,DNA と複合化させると層状のラメラ構造へと変化した.dA と dT でラメラ構造が形成され始める塩基数が異なり,塩基数が多い場合の層間隔にも違いがあった.また円偏光二色性測定よりリポプレックス中の DNA のコンフォメーションが異なり,dA は水中におけるコンフォメーションが変化することなくリポプレックス中に存在しており,dT は水中でのコンフォメーションが維持できず,カウンターイオンや水分子との配位または水素結合が優先され,分子内でのスタッキングが難しく新たな規則性が生まれていることが示唆された.
著者
羽藤 正勝 坂井 士 市村 国宏
出版者
The Society of Polymer Science, Japan
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.229-232, 1984

親水-疎水二層構造をもつ多孔質ポリテトラフルオ慨エチレン膜をアンモニア電極をベースとする酵素電極の作製に利用した. 上記非対称膜の親水部の微小孔内にアデノシンデアミナーゼを侵入固定化した。これにより機械的に弱い酵素層が強固なポリテトラフルオコエチレンのマトリクスで保護された. 疎水部はガス透過膜の機能を有しているので酵素固定した一枚の非対称膜とpH電極を用いてアデノシン電極が容易に作製出来た. この単一膜を用いて作製したアデノシン電極は, 従来の2枚の膜を用いた電極に比較して応答速度が大幅に向上し, 電極の組立操作も簡単になった.
著者
酒井 和幸 熊谷 大慧 阿部 五月 渡邉 洋輔 山田 直也 古川 英光 藤本 拓 南 絵里菜 光上 義朗 足立 芳史
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.539-546, 2016-11-25 (Released:2016-11-25)
参考文献数
10
被引用文献数
1

走査型顕微光散乱装置(Scanning Microscopic Light Scattering:通称SMILS)によって,代表的な吸水性高分子ゲルであるポリアクリル酸ナトリウム(PSA)ゲル,PSAゲルを酸型にしたポリアクリル酸(PAA)ゲルの内部構造評価を行った.SMILSによって得られる動的ゆらぎの緩和時間分布関数を基準に膨潤率・ヤング率を併用し,ゲルの内部構造を評価した.とくに,動的ゆらぎから得られるスケールをFluctuation Size (FS)とし,FSから算出される架橋密度(νS),膨潤率から算出される架橋密度(νW),ヤング率から算出される架橋密度(νY)を比較することにより,総合的にゲル内部の網目構造を評価した.PSAゲルにおいては,νW ,νY に対してνSは非常に大きな値となったため,SMILSで測定されるFSの値はゲルの網目サイズを直接示唆していない可能性がわかった.さらに,PSAゲルではνY>νWとなり,さらに,被吸収液の塩濃度が低くなるにつれてその差が大きくなることから,ネットワーク主鎖上のイオン基どうしの静電反発が増えるほど主鎖の剛直性が増していることが明らかになった.また,それに伴ってνSが増大する事から,今回の動的光散乱測定においてもネットワーク主鎖の剛直性がνSに影響を及ぼしていることが推察された.そのため,PSAゲルの内部構造を動的光散乱によって解析する場合には,FSの減少を考慮した適切な補正手法が必要になることが判明した.
著者
新井 剛 上野 智永 梶屋 貴史 石川 朝之 武田 邦彦
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.380-386, 2007 (Released:2007-10-01)
参考文献数
25
被引用文献数
3 3

ポリアミド 66(PA66)に塩化第二銅・二水和物を微量添加して,耐熱性の変化を観測するとともに高分子構造についての研究を行った.その結果,銅を 35 ppm 以上添加すると熱安定性に変化が見られたが,濃度と安定性には強い比例関係は見られなかった.分子量は銅を添加しても低下するが,その程度は小さかった.吸水性は銅の添加によって増大した.赤外分光分析と NMR の測定では構造的に変化が見られた.熱を加えることによって主鎖の開裂が見られ,開裂の程度は銅によって抑制される.銅が親水性基を有する PA66 中に均一に分散したとして,銅 1 原子が占有する体積に銅原子が半分拡散する時間が 2~200 μs 程度と短いことによる,アミド結合周辺の安定化効果と高分子鎖全体に及ぼす立体構造の変化が原因の一つになっていると考えられる.
著者
Tongjit KIDCHOB 木村 俊作 今西 幸男
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.192-199, 1998-04-25 (Released:2010-03-15)
参考文献数
10
被引用文献数
6 5

マイクロカプセルにポリ (N-イソプロピルアクリルアミド) (PNIPAAm) を組み込んだ2種類の異なる温度応答性マイクロカプセルを調製し, 親水性薬剤モデルの温度応答性放出を調べた. まず, ブロックポリペプチドマイクロカプセルの表面に開始剤を固定化し, N-イソプロピルアクリルアミドの重合を行って, マイクロカプセル表面にPNIPAAmをグラフト化したマイクロカプセルを調製した. PNIPAAmの下限臨界溶解温度より高温側では, マイクロカプセルの表面に密度の高いスキン層が形成され, 内包した薬剤の放出が抑制されたのに対し, 低温側ではスキン層の消失により放出が促進された. また, この薬剤放出の温度変化に対する応答は狭い温度範囲で素早く起こり, また, その応答は可逆的であった. もう一つの温度応答性マイクロカプセルとして, PNIPAAmゲルを内部に充填したポリ乳酸マイクロカプセルを調製した. このシステムでは, 下限臨界溶解温度より高温側ではゲルの収縮により含浸された薬剤の放出が促進された. また, マイクロカプセルからの放出は温度に応答して素早く起こり, 放出量はマイクロカプセル内部の空孔のサイズと充填したゲルの量により調節可能であった. このように, 生分解性ポリマーで調製したマイクロカプセルに, 温度応答性ポリマーであるPNIPAAmを組み込む方法を変えることで, 負の温度応答性および正の温度応答性を示すマイクロカプセルシステムを構築できた.
著者
松村 秀一 前田 秀一 高橋 淳 吉川 貞雄
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.317-324, 1988-04-25 (Released:2010-02-26)
参考文献数
13
被引用文献数
11 29

ポリピニルアルコール (PVA) の生分解について詳細な検討を行い, 活性汚泥により生分解を受けることを認めた. 細菌としてPseudomonas sp. M1及びPseudomonas putida M2などがPVAのポリマー部分分解菌として単離された. これらを用いた試験からポリビニルアルコールの優れた生分解性が確認された. さらに, ビニルタイブの生分解性を有する高分子電解質の分子設計としてポリアクリル酸ナトリウムの主鎖中に生分解性を有するポリビニルアルコール単位を有するポリ [(アクリル酸ナトリウム) -co- (ビニルアルコール)] [P (SA-VA)] を酢酸ビニルとアクリル酸を共重合させることにより合成し, 得られたものの生分解について検討を行った. その結果P- (SA-VA) は土壌で生分解を受けることが見いだされた. また, 共生的に働いているPseudemonas sp. C1及びC2の2菌株がP (SA-VA) のポリマー部分分解菌として単離, 同定された.
著者
齋藤 隆則
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.19-27, 1984-01-25 (Released:2010-02-26)
参考文献数
23

二つの破壊様式を有する粘弾性モデルを用いて, 高分子材料の破損包絡線を定式化した. 破壊様式の一つは “粘性破壊” といい, 粘性流動による材料の実質上の破損である. 他の様式は “弾性破壊” といい, 蓄積エネルギーによる界面の切り離れである。次いで “二様式のうち与変形速度に対して最小の破壊ひずみを与える様式が実現する” という “最小破壊ひずみ基準” を設けて, 破壊様式間の遷移を調べた. 主な結果は次のとおりである.非橋かけ無定形高分子の粘性流動的変形では, ひずみ速度の全域にわたり粘性破壊である. 橋かけ高分子の粘弾性的変形においては, ある臨界ひずみ速度で粘性破壊から弾性破壊様式への遷移が生じ, しかも橋かけ密度vの増大につれて破損包絡線の形が変化する. また包絡線の最右端における破壊ひずみがv-1/2に比例することを理論的に示し, 何人かの研究者による実験結果との一致を見た. 更に破損包絡線の形と位置を左右する因子について考察した.
著者
吉田 博久
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.874-876, 1996-12-25 (Released:2010-03-15)
参考文献数
19
被引用文献数
2 6

汎用高分子 (ポリスチレン (PS), ポリメタクリル酸メチル (PMMA)) とエンジニアリングプラスチックポリスルフォン (PSF), ポリエーテルイミド (PEI), ポリエーテルスルフォン (PES)) のエンタルピー緩和過程をKWW型の伸張指数関数で解析し, エンタルピー緩和時間を求めた. 緩和時間はτ (PS) ~τ (PMMA) >τ (PES) >τ (PEI) >τ (PSF) の順になり, アレニウス型の温度依存性を示した. Tgにおけるdlog/d (Tg/T) で定義されるフラジリティは汎用高分子では約100, エンジニアリングプラスチックでは約55であった. これは, ガラス状態では汎用非晶性高分子はエンジニアリングプラスチックよりも脆性であることを示し, 力学的特性と良い一致を示した.
著者
結城 康夫 早川 洋司 平林 久和
出版者
The Society of Polymer Science, Japan
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.32, no.11, pp.641-644, 1975
被引用文献数
2

2-アミノ-4-<I>N</I>-メチルアニリノ-6-イソプロペニル-1,3,5-トリアジンの溶液重合を検討した. アゾビスイソブチロニトリルを開始剤として, 重合温度を変えてジメチルスルホキシド溶液重合を行った. その結果平衡モノマー濃度 ([M] <SUB>e</SUB>) は60℃では0.067mol/<I>l</I>, 70℃では0.114mol/<I>l</I>, 80℃では0.187mol/<I>l</I>となった. これより重合熱として-12.0kcal/mol, 重合のエントロピ-として-30.7cal/Kmolの値を得た. また解重合を仮定した重合速度式として,<BR><I>R</I><SUB>p</SUB>=2.5×10<SUP>7</SUP>exp (-15300/<I>RT</I>) [I] <SUP>0.5</SUP> ([M] - [M] <SUB>e</SUB>)<BR>を得た.
著者
結城 康夫 平林 久和 川瀬 薫 鯛家 忠男
出版者
The Society of Polymer Science, Japan
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.173-177, 1977

ガラス転位温度 (<I>T</I><SUB>g</SUB>) 16℃のガラス状2-アミノ4-<I>N</I>-メチルアニリノ-6-イソプロペニル-1,3,5-トリアジン (AMIT) について, -78℃にて<SUP>60</SUP>Co-γ線を照射した試料の過冷却液体状態での後重合を検討した. 照射試料のDSC測定の結果は<I>T</I><SUB>g</SUB>を過ぎた41℃から後重合による発熱がみられた. また30~110℃での後重合の結果, 重合温度に依存する重合率の飽和値がみられた. この重合率の飽和は活性種の失活によらず, 系のガラス化に依存することをESRスペクトル, Gordon-Taylorプロットなどにより確認した.
著者
藤井 敏弘 村井 慎哉
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.201-207, 2005-05-25 (Released:2010-03-15)
参考文献数
20
被引用文献数
1 3

毛髪および羊毛からのタンパク質抽出に有効な信大法をヒト爪に適用した. この結果, 従来法と比べ, 信大法を用いた場合の抽出タンパク質量は約2.5倍多かった. また, 毛髪, 羊毛と比べ, 抽出標品は, ハードケラチンやマトリヅクスタンパク質に加え, 爪の特性であるソフトケラチンを含んでいた. 爪ケラチンおよびマトリックスタンパク質にリン酸化分子種が含まれていることから, 翻訳後の修飾が強く示唆された. 毛髪タンパク質溶液からフィルムヘ簡便に変換するブレキャスト法, ポストキャスト法, ソフトポストキャスト法を爪タンパク質に適用したところ, すべての方法でフィルム形成が見られ, 70~90%の高い割合で回収された. フィルムはハードケラチンを主成分とし, ソフトケラチン, マトリックスタンパク質を含んでいた. タンパク質溶液からフィルムヘ1分以内の短時間で形成されるプレキャスト法およびポストキャスト法で得られたフィルムは白色で不透明性であったが, 一方, 形成に5~40分ぐらい必要なポストキャスト法 (pH5) とソフトーポストキャスト法で得られたフィルムは半透明性を示した. SEM観察から, 半透明性のフィルムは不透明のフィルムよりもその表面が滑らかであった. これら半透明性のフィルムは, 270~295nmに吸収をもつことから, 新規のUVケア機能をもつ製品へ期待される.
著者
田之畑 大二郎 真田 雄介 望月 慎一 宮本 寛子 櫻井 和朗
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.37-47, 2015-02-25 (Released:2015-02-25)
参考文献数
22
被引用文献数
2

筆者らは,β-1,3-グルカンの1種であるシゾフィラン(SPG)が核酸と複合体を形成すること,その複合体が核酸医薬の薬物送達システム(Drug delivery system:DDS)の材料として利用できることを見いだした.DDSとしての有効性の検証はもちろんのことながら,その開発の基礎となり,かつ,薬事申請で必要となる複合体の構造や水溶液中での性質など基礎物性を明らかにすることは極めて重要な課題である.本報では,SPGや核酸/SPG複合体の溶液中における分子形態に焦点を当てた最近の研究成果について報告する.この中で,核酸/SPG複合体はもとの三重らせんのSPGと同様に枝分かれのない半屈曲性高分子鎖としてふるまうこと,硬さの指標である持続長はもとのSPGより減少することなどがわかった.さらに,本報ではSPGにカルボキシ基を修飾した新しいカルボン酸SPGについて紹介する.
著者
森 俊明 舟崎 真理子 小林 厚志 岡畑 恵雄
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.564-568, 2001-10-25 (Released:2010-03-15)
参考文献数
20
被引用文献数
1 3

脂質修飾リパーゼは超臨界フルオロフォルム中に可溶化し, R-1-フェニルエタノールを不斉選択的にエステル化する. 超臨界フルオロフォルムの圧量と温度を変化させると, 系内の誘電率を可逆的に変化でき, それにより反応収率は変化しないが, 反応速度を可逆的に制御できることがわかった.
著者
高橋 正人 原沢 延幸 吉田 博久
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.455-458, 1990-05-25 (Released:2010-03-15)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

ポリエチレンオキシド (PEO) /ポリメタクリル酸メチル (PMMA) ブレンド中でのPEOの等温結晶化過程に及ぼすPMMAのタクチシチーならびに分子量の影響を検討した. 結晶化速度はPMMAの組成と分子量の増加に伴い遅くなる. ブレンド試料の融解熱はPMMA分子量には依存せず, PMMA組成が増加すると小さくなる. また, 融解熱はPMMAタクチシチーに依存しアイソタクチック, シンジオタクチック, アタクチックの順に小さくなる. 結晶化の活性化エネルギーはPMMA組成と分子量には依存せず, PMMAタクチシチーに依存し, アイソタクチック, シンジオタクチック, アタクチックの順に小さくなる.
著者
門倉 暁 伊藤 啓 宮本 武明 稲垣 博
出版者
The Society of Polymer Science, Japan
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.419-425, 1981
被引用文献数
2

種々の可溶化羊毛ケラチンと2価銅イオンとの錯生成反応をゲル濾過法を用いて詳細に検討した. 試料としてシスチン残基にカルボキシメチル, α, β-ジカルボキシエチル, アミノエチル, およびスルホン酸基を導入した4種類の誘導体を調製した. ゲル濾過実験はSephadex G-25ゲルカラムを使用し, 溶出液に0.05M酢酸緩衝液を用い, pH 4.5~6.5の範囲で行った. 結合等温線は系のpHのみならず試料タンパク質間で非常に異なり, 導入された置換基の影響を強く受けることがわかった. 結合等温線から錯体の結合定数およびケラチンタンパク質の結合サイト数の算出はケラチンタンパク質中の結合サイト群を結合定数の大きい強いサイト群と小さい弱いサイト群の2種類に大別して行い, それぞれの結合パラメータを求めた. ケラチンタンパク質に導入されたアミノ基は非常に強いサイト群として作用するのに反し, カルボキシル基は比較的弱いサイト群を形成することがわかった.
著者
佐々木 善浩 山田 真希 寺島 崇 王 剣鋒 橋詰 峰雄 范 聖第 菊池 純一
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.541-546, 2004-10-25 (Released:2010-03-15)
参考文献数
18
被引用文献数
14 17 2

生体膜モデルとしての有機-無機ハイブリッドベシクル「セラソーム」を用いて, シグナル伝達機能を有する分子間コミュニケーションシステムを構築した. 頭部にトリエトキシシリル基と四級アンモニウム基をもつ二本鎖型のペプチド脂質から作製したセラソームは, 従来型の脂質二分子膜ベシクルよりも著しく高い構造安定性を有することが, 界面活性剤に対する耐性評価から明らかになった. このセラソームを基板に用いて, 人工受容体による化学シグナル認識の応答が, メディエータとしての金属イオンを介して酵素に伝達され, 酵素活性のオン・オフを制御できる分子デバイスを作製し, その機能を明らかにした. 人工受容体にアミノ基を有するステロイド誘導体, シグナルとしてピリドキサール5'-リン酸, メディエータに銅 (II) イオン, 化学信号増幅器として乳酸脱水素酵素を用いたセラソーム系において, 顕著なシグナル伝達機能が発現した.