著者
佐藤 亨至 三谷 英夫 メヒア マルコ A 伊藤 正敏
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.300-310, 1996-08
被引用文献数
8

咀嚼と脳賦活との関わりについての基礎的検討として, 若年者を対象として個体が示す顎顔面骨格構成および咬合形態によって, 咀嚼時の脳血流動態に差異が存在するかどうかについて調べるため, 酸素標識の水とポジトロンCT(PET)を用いて検討を行った.研究対象は, 21∿32歳の健常ボランティア男性6名である.それぞれ頭部X線規格写真の撮影と歯列模型の採得を行い, 顎顔面骨格構成および咬合について検討した.脳血流動態については安静時とガムベース咀嚼時にPETを用いて測定を行った.得られた脳血流画像について関心領域を設定し, ガム咀嚼に伴う局所脳血流(rCBF)の変化を求めて咬合や顔面形態との関連について検討した.その結果, ガム咀嚼による脳血流変化には個体差が大きいものの, 上・下顎骨に調和のとれたおおむね良好な咬合を有する者では, 1次運動感覚領下部(ローランド野), 島, 小脳半球などで明らかな脳血流の増大が認められた.一方, 顎顔面骨格や咬合に種々の問題を有する不正咬合者では咀嚼による脳血流変化が正常咬合者と異なる傾向が認められ, 1次運動感覚領下部や島での明らかな賦活は認められない者もいた.以上のことから, 咀嚼による脳の賦活化部位とその量は個体間でかなり変異に富んでおり, それには個体の示す顎顔面骨格構成および咬合とそれに関わる咀嚼運動様式が関与している可能性が示唆された.
著者
楠元 桂子 佐藤 亨至 三谷 英夫
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.311-321, 1996-08
参考文献数
23
被引用文献数
19

顎整形装置の顎骨成長に対する効果を評価する方法として側面頭部X線規格写真による重ね合わせや線・角度計測値の比較等が一般的に用いられているが.成長変化の様相を詳細に評価することは難しい.そこで, 本研究では上・下顎骨各部の変化を客観的かつ視覚的に評価するため, 上・下顎骨各部の標準成長および成長速度曲線を作成した.次に, 上顎後方牽引装置(ヘッドギアー)および下顎後方牽引装置(チンキャップ)の顎骨成長に対する影響について評価を行った.結果は以下の通りであった.1. 9∿17歳に至る女子の上顎骨前後径(A'-Ptm'), 下顎骨全体長(Cd-Gn), 下顎枝高(Cd-Go)および下顎骨体長(Go-Pog')の標準成長曲線および成長速度曲線が作成された.2. ヘッドギアー群では, 上顎骨前後径のSDスコアは装置適用中は減少し, その後増加する傾向を示したが, 標準曲線と有意差は認められなかった.3. チンキャップ群では, 下顎骨各部の成長速度は装置適用中有意に低下したが, その後成長は加速され, 適用前と成長終了時のSDスコアに差は認められなかった.成長のピークは平均より約1年遅くなった.以上のことから, 顎整形装置は顎骨の成長様相に影響を与えることが示唆された.本研究で作成した上・下顎骨の標準成長曲線および成長速度曲線は顎整形装置の効果の評価法として有効であると考えられた.