著者
平出,隆俊
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, 1997-10

尿中GHの測定が歯科矯正臨床における新しい成長発育の評価指標となり得るか否かをを年間身長増加量, 下顎骨増加量, 尿中GHの測定値を用いて検討した.資料は初診時8歳2カ月∿19歳7カ月の女性30名, ANB+1.0∿-2.5度の骨格性III級症例とした.結果 : 1. GHは8歳3.7(±3.00)pg/mg, 11歳で最大22.0(±8.49)pg/mgを示し以後16歳9.9(±3.81)pg/mgまで徐々に減少した.それ以後は10pg/mg前後の値で安定していた.2. 身長は9歳5.5(±1.05)cm/y, 10歳で最大8.9(±6.15)cm/yを示しその後徐々に減少した.3. 下顎骨は9歳10.1(±2.00)mm/y, 10歳で最大10.6(±5.83)mm/yその後徐々に減少がみられた.4. 身長と下顎骨のピークは10歳, 1年遅れでGHのピークがみられたが変化様相は相互に類似傾向がみられた.5. 身長と下顎骨, GHと下顎骨, GHと身長の相関はそれぞれ+0.80, +0.59, +0.48でいずれも有意の相関を示した.以上のことからGH測定は下顎骨の成長評価指標としての精度は劣るものの成長発育能を評価し得る指標となる可能性が示唆された.
著者
花見 重幸 斉藤 功 花田 晃治 高野 吉郎
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.211-222, 1996-06
参考文献数
52
被引用文献数
5

矯正力が三叉神経節カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)陽性ニューロンに対して, どのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的として, ラット上顎臼歯をWaldoの方法に準じて実験的に移動させ, 移動開始1, 3, 6, 12, 24時間後に屠殺して, 三叉神経節神経細胞体内CGRPの免疫活性と局在性について免疫組織化学的に検索し, 以下の結果を得た.1. 対照群において, 上顎臼歯部支配領域における全神経細胞体に占めるCGRP陽性神経細胞体の割合は約37%であり, 小型および中型の細胞体がそのほとんどを占めていた.また, 細胞体直径の小さなものほどCGRP免疫染色性が強くなる傾向にあった.2. CGRP陽性神経細胞体は, 歯の移動開始後すみやかにその数を減じ, 3時間後に最少となったが, 以後増加傾向を示し, 移動開始12時間後には対照群とほぼ同等の状態にまで回復していた.また, 全CGRP陽性神経細胞体に占めるCGRP強陽性細胞体の割合は, 歯の移動後3時間において顕著な減少を示した.以上のことから, 歯の移動により一時的に三叉神経節神経細胞体内のCGRPが減少傾向を示すことが明らかとなり, 三叉神経節内神経細胞体内に存在するCGRPが, 歯の移動に伴う疼痛の発現とともに, 歯の移動初期における歯周組織内での組織改変に深く関与している可能性が示唆された.
著者
佐藤 亨至 三谷 英夫 メヒア マルコ A 伊藤 正敏
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.300-310, 1996-08
被引用文献数
8

咀嚼と脳賦活との関わりについての基礎的検討として, 若年者を対象として個体が示す顎顔面骨格構成および咬合形態によって, 咀嚼時の脳血流動態に差異が存在するかどうかについて調べるため, 酸素標識の水とポジトロンCT(PET)を用いて検討を行った.研究対象は, 21∿32歳の健常ボランティア男性6名である.それぞれ頭部X線規格写真の撮影と歯列模型の採得を行い, 顎顔面骨格構成および咬合について検討した.脳血流動態については安静時とガムベース咀嚼時にPETを用いて測定を行った.得られた脳血流画像について関心領域を設定し, ガム咀嚼に伴う局所脳血流(rCBF)の変化を求めて咬合や顔面形態との関連について検討した.その結果, ガム咀嚼による脳血流変化には個体差が大きいものの, 上・下顎骨に調和のとれたおおむね良好な咬合を有する者では, 1次運動感覚領下部(ローランド野), 島, 小脳半球などで明らかな脳血流の増大が認められた.一方, 顎顔面骨格や咬合に種々の問題を有する不正咬合者では咀嚼による脳血流変化が正常咬合者と異なる傾向が認められ, 1次運動感覚領下部や島での明らかな賦活は認められない者もいた.以上のことから, 咀嚼による脳の賦活化部位とその量は個体間でかなり変異に富んでおり, それには個体の示す顎顔面骨格構成および咬合とそれに関わる咀嚼運動様式が関与している可能性が示唆された.
著者
岩崎 万喜子 山本 照子 永田 裕保 山城 隆 三間 雄司 高田 健治 作田 守
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.696-703, 1994-12
被引用文献数
29

近年, 成人の矯正歯科治療患者が増加している.そのような最近の動向を把握するために, 1981年4月から1993年3月までの12年間に大阪大学歯学部附属病院矯正科で治療を開始した18歳以上の成人患者について実態調査を行った.1. 調査を行った12年間で, 治療を開始した患者数は口唇裂口蓋裂を除くと総計4, 040人で, そのうち成人患者は793人(19.6%)であった.成人患者数は1990-1992年に増加していた.男女比(男性を1とする)は1 : 2.1で, 12年間を通じて変化はみられなかった.2. 年齢分布では, 男女とも20-24歳が最も多かった.経年的には男女とも20歳代の増加がみられ, 25-29歳の女性の比率が1990-1992年に増加していた.3. 距離別の居住地域は, 1983年度に附属病院が大阪市から吹田市に移転したため, 近距離からの通院が増加していた.4. 外科的矯正患者は1990年度に保険適用されて以来増加した.5. 各種不正咬合の分布状態は, 男女とも叢生が最も多く(28.4%), 経年的に増加傾向を示した.6. 顎関節症を伴う成人患者は23.1%に認められ, 経年的に増加傾向を示した.男女比は1 : 2.9であった.
著者
新井 順子
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.p266-275, 1976-12
被引用文献数
4
著者
太田,佳代子
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, 1995-04

全身性の筋力低下と, 頭蓋顔面領域の臨床症状として細長い顔貌, 開かれた口唇, 高口蓋などがみられる先天性非進行性ミオパチー患者の歯科矯正治療を行う機会を得たので, 顎顔面形態と咬合の特徴, および矯正治療に伴う変化と治療結果の安定性について検討した.1. 上下顎骨の前後的大きさは標準的であったが, 垂直的大きさ特に前下顔面高が過大であり, 下顎下縁平面角が大きかった.また, 頭蓋の幅径はほぼ標準的な大きさを呈していたが, 上顎歯槽基底部や下顎角部の幅径は小さい傾向にあった.2. 口蓋は深く(高口蓋), 前歯部は開咬を呈していた.これらは, 前下顔面高が過大で下顎下縁平面角が大きいことによる骨格性開咬と, 上下顎間距離の増大を補償するための上下顎歯槽部の大きな成長によるものと考えられた.3. 矯正治療中の変化として, vertical chin cap装着中は下顎下縁平面角の減少を伴い上下顎の成長は前方成長が優位で下方成長は抑制されていた.一方, chin cap中止後は上下顎の成長は下方成分が優位となり下顎下縁平面角の増加を伴っていた.4. 矯正治療後の咬合の悪化の原因は, 顎顔面の成長による上下顎間距離の増大と考えられた.これらの顎顔面形態と咬合の特徴および治療中, 治療後の変化は, 顔面筋の筋力低下が原因と考えられた.
著者
楠元 桂子 佐藤 亨至 三谷 英夫
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.311-321, 1996-08
参考文献数
23
被引用文献数
19

顎整形装置の顎骨成長に対する効果を評価する方法として側面頭部X線規格写真による重ね合わせや線・角度計測値の比較等が一般的に用いられているが.成長変化の様相を詳細に評価することは難しい.そこで, 本研究では上・下顎骨各部の変化を客観的かつ視覚的に評価するため, 上・下顎骨各部の標準成長および成長速度曲線を作成した.次に, 上顎後方牽引装置(ヘッドギアー)および下顎後方牽引装置(チンキャップ)の顎骨成長に対する影響について評価を行った.結果は以下の通りであった.1. 9∿17歳に至る女子の上顎骨前後径(A'-Ptm'), 下顎骨全体長(Cd-Gn), 下顎枝高(Cd-Go)および下顎骨体長(Go-Pog')の標準成長曲線および成長速度曲線が作成された.2. ヘッドギアー群では, 上顎骨前後径のSDスコアは装置適用中は減少し, その後増加する傾向を示したが, 標準曲線と有意差は認められなかった.3. チンキャップ群では, 下顎骨各部の成長速度は装置適用中有意に低下したが, その後成長は加速され, 適用前と成長終了時のSDスコアに差は認められなかった.成長のピークは平均より約1年遅くなった.以上のことから, 顎整形装置は顎骨の成長様相に影響を与えることが示唆された.本研究で作成した上・下顎骨の標準成長曲線および成長速度曲線は顎整形装置の効果の評価法として有効であると考えられた.
著者
藤井 智巳 菅原 準二 桑原 聡 萬代 弘毅 三谷 英夫 川村 仁
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.227-233, 1995-08
被引用文献数
15

外科的矯正治療が反対咬合者の顎口腔機能, 特に咀嚼リズムに及ぼす長期的効果について横断的に評価した.研究対象は, 初診時に外科的矯正治療を要する反対咬合者と診断され, 治療後5年以上経過した28症例(術後群)である.対照群として, 未治療反対咬合者23例(術前群)と正常咬合者22例(正常咬合群)を用いた.なお術後群については手術法による差異を知るために, 下顎単独移動術を適用した13例(One-Jaw群)と, 上・下顎同時移動術を適用した15例(Two-Jaw群)とに区分した評価も行った.咀嚼リズムは下顎運動測定装置(シロナソグラフ・アナライジングシステムII)を用いて測定した.本研究の結果は以下のとおりであった.1. 術後群の開口相時間, 閉口相時間, 咬合相時間, 咀嚼周期は, いずれも術前群および正常咬合群との間に差が認められなかった.2. 術後群の咀嚼周期の変動係数は術前群と比べ小さい値を示し, より安定した咀嚼リズムを示していた.また術後群の開口相時間, 閉口相時間, 咬合相時間, 咀嚼周期の変動係数はいずれも正常咬合群との間に差が認められなかった.3. One-Jaw群とTwo-Jaw群とも咀嚼リズムはほぼ同様の値を示し, 術式や外科的侵襲の程度による差異は認められなかった.本研究の結果から, 外科的矯正治療による顎顔面形態の改善と咬合の再構成が, 長期的術後評価において, 咀嚼リズムの安定化に寄与していることが示唆された.
著者
友近 晃 石川 博之 中村 進治
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.264-273, 1995-08
被引用文献数
14

矯正歯科治療では, 形態的および機能的に安定した咬合状態を得るため歯列歯槽部の形態および位置関係の調和を図ることが重要である.しかし, これまで歯槽部の三次元的形態および位置関係を十分把握することは非常に困難で, 限られた計測部位について分析を行っているに過ぎなかった.そこで本研究では, 歯列模型形状計測システムに反射鏡とθテーブルを導入することにより, 歯槽部を含めた歯列模型全体の三次元数値化を行った.また, バイトブロックデータを用いて上下顎データの位置合わせを行い, 計算機上で咬合状態を再現する方法を開発した.さらにこの計算機上での位置合わせの結果について, 従来より用いられているブラックシリコン法による咬合診査の結果と比較検討したところ, 本法により再現された咬合状態は, ほぼ生体における咬合状態と一致していることが確認された.これらより本システムを用いた上下顎歯列弓, 歯槽頂弓, 歯槽弓の三次元的な形態および位置関係の総合的な分析方法を確立した.つぎに臨床応用として, 両側臼歯部逆被蓋症例につき分析を行ったところ, その成因を上顎歯槽部の狭窄という形態的問題と上下歯槽部の前後的関係の不調和という位置関係の問題とに分離して把握することができた.以上のことより, 本システムを用いた不正咬合の新たな角度からの症例分析の可能性が示唆された.
著者
梅村 幸生 山口 敏雄
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.303-312, 1997-10
被引用文献数
9 3

骨格性反対咬合(男子22名, 女子13名, 合計35名)症例の後戻りは, どの時期に, どの様な変化を生ずるのかを検討するために初診時, 動的治療終了時, 保定1年後, 保定3年後, 保定5年後の各時期に撮影した側位頭部X線規格写真を用いて評価した.1. 骨格系では, SNP, Mand. planeに変化があり, 下顎骨の前上方への変化による後戻り現象が認められた.歯系ではU1-FH, U1-SN, I.I.A, L1-Mand. plane, Overjetに変化があり, 下顎前歯の唇側傾斜, Overjetの減少の後戻り現象が認められた.2. 咬合平面は保定1年-保定3年の期間で, 口蓋平面-咬合平面において変化が認められた.しかし, SN-咬合平面, 下顎下縁-咬合平面角に対しては安定していた.以上より, 骨格性反対咬合の矯正治療の後戻り変化は, 骨格系では下顎骨の前方移動および歯系では下顎前歯の唇側傾斜であった.この結果から, 骨格性反対咬合の治療に際しては, 下顎骨の前方への成長変化に対しては, chin cap装置を治療中および保定期間においても使用が必要である.また, 下顎骨の前方成長に対して, 前歯が唇側傾斜および舌側傾斜に変化して, 下顎骨の位置変化を防止しているものと考えるので, 動的治療終了時には大きな量のoverbiteの獲得が必要であると思われる.また, 咬合平面の角度は, 本研究からSN平面に対して約13°の角度が骨格性反対咬合症例の骨格形態に適応した平面角と考える.
著者
保崎 輝夫 武山 治雄
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.234-245, 1995-08
参考文献数
37
被引用文献数
10

亜鉛は生体にとっての必須金属であるが, その欠乏が下顎頭軟骨に及ぼす影響はほとんど知られていない.そこで, 実験的に亜鉛欠乏食を投与したラットで下顎頭軟骨における成長発育, 軟骨基質の初期石灰化への影響と, 実験的な歯の移動を行った場合にどのような変化が生じるのかを光学顕微鏡および電子顕微鏡的に観察した.その結果, 以下の知見を得た.1. 下顎頭軟骨の幅, とくに肥大層が減少し, 菲薄化していた.2. 軟骨基質の初期石灰化は著しく阻害されていた.3. 骨髄側の骨基質の石灰化状態は, 粗なものになっていた.4. 石灰化に関与すると考えられる, 炭酸脱水酵素の活性は著しく減少していた.5. 実験的な歯の移動を行った場合, 歯槽骨に著しい穿下性骨吸収が生じていた.以上の結果から, 亜鉛の欠乏は種々の障害を引き起こすことが明らかとなった.したがって, 食餌中の亜鉛は非常に重要な成分であることが示唆された.
著者
坂本 恵美子 菅原 準二 梅森 美嘉子 三谷 英夫
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.372-386, 1996-10
被引用文献数
14

思春期性成長期における骨格性下顎前突症(Class III)の下顎骨は, 良好な顎間関係を有する者(Class I)に比べて過成長を示すか否かなど, Class IIIの顎顔面頭蓋の成長様相についていまだ解明されていないことが多い.そこで本研究では, 外科的矯正治療を要すると診断され, 成長観察下におかれていた男子・未治療Class III 16例を研究対象にして, 思春期性成長期における顎顔面頭蓋の成長変化様相を解析した.対照群としては, 男子・Class I 20例を選択した.研究資料は, 10∿15歳までの5年間にわたって経年的に収集した側面頭部X線規格写真である.両群の成長変化様相については, 顔面骨格図形分析, 座標分析, 角度および距離分析によって多面的に検討した.本研究の結果は以下の通りであった.1. Class III群の上・下顎骨は, Class I群と類似した成長量を示し, 劣成長あるいは過成長は認められなかった.2. Class III群の後頭蓋底の成長量はClass I群よりも有意に小さかった.3. Class III群の咬合平面は思春期性成長期間中に変化しなかったが, Class I群では平坦化していた.4. Wits appraisal値はClass I群では安定していたのに対して, Class III群では著しく悪化していた.結論として, 思春期性成長期におけるClass IIIの基本的骨格構成(skeletal framework)には変化が見られず, それによって前後的上下顎間関係が悪化することはなかったが, 咬合平面に対する上・下顎歯槽基底部の前後的位置関係は著しく悪化することが判明した.
著者
粟生田 佳奈子 河内 満彦 菅原 準二 梅森 美嘉子 三谷 英夫
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.387-396, 1996-10
被引用文献数
7

外科的矯正治療前後における成人骨格性反対咬合症患者の発音機能を評価する目的で, 発音時の舌接触パターン, 顎運動, および発声音の解析を横断的資料を用いて行った.研究対象は初診時に外科的矯正治療を要すると診断された成人骨格性反対咬合症患者38例(非開咬-術前群20例, 開咬-術前群18例)および治療後2年以上経過した患者31例(非開咬-術後群16例, 開咬-術後群15例)である.対照群には正常咬合者13例(正常咬合群)を用いた.結果は以下の通りであった.1. 術前および術後の反対咬合症患者では, 発音時における舌の口蓋への接触部位は正常咬合群より前方位を示していた.顎運動経路は, 非開咬-術前群では後方位を, 開咬-術前群では上方位を示した.一方, 術後では両群とも正常咬合群に類似したパターンを示す傾向が認められた.顎運動距離については, 各群間に有意差はみられなかった.2. 日本語としての"自然らしさ"については, 両術前群は正常咬合群に劣るといえた."自然らしさ"は術後に改善の傾向がみられたが, 依然として正常咬合群より劣っていた.3. スペクトル分析については各群間で差が認められなかった.以上の結果から, 外科的矯正治療は成人骨格性反対咬合症患者の発音機能の向上に寄与する可能性があるものと思われた.しかし, 術後群と正常咬合群とを比較した場合では, 術後群の音質は依然として劣っていた.このことは発音機能に関わる神経筋機構の恒常性は形態改善に速やかに順応するものではないことを示唆しているものと考えられた.
著者
永田 裕保 山本 照子 岩崎 万喜子 反橋 由佳 田中 栄二 川上 正良 高田 健治 作田 守
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.598-605, 1994-10
被引用文献数
19

1978年4月から1992年3月までの過去15年間に大阪大学歯学部附属病院矯正科で治療を開始した, 口唇裂口蓋裂を除く矯正患者4, 628名(男子1, 622名, 女子3, 006名)を対象とし, 統計的観察を行い以下の結果を得た.1.大部分の患者は半径20 km以内から来院しており, 大阪府下居住者であった.2.男女比は男子 : 女子=1 : 1.9であり年度による大きな変動はなかったが, 9歳以降年齢が高くなるにつれて女子の割合が上昇した.3.治療開始時の年齢は7∿12歳が大半を占めた.近年13歳以上の割合が増加を示した.咬合発育段階では, IIIB期が最も多かった.4.各種不正咬合の分布状態は, 男子では反対咬合の割合が最も高かった.一方, 女子では, 叢生の割合が最も高かった.男女ともに年々反対咬合の割合が低下し, 叢生の割合が上昇した.5.Angle分類については, 男女ともにAngle I級が最も多く, 骨格性分類では, 男子で骨格性3級, 女子で骨格性1級が最も多かった.咬合発育段階別の骨格性分類では, 骨格性2級はIIC期からIIIA期にかけて増加を示し, 骨格性3級はIIC期とIVC期に多かった.IIIC期からIVC期におけるAngleの分類と骨格性分類との関係について, 男女ともAngle I級では骨格性1級, Angle II級では骨格性2級, Angle III級では骨格性3級が多く認められた.
著者
佐藤 嘉晃 石川 博之 中村 進治 脇田 稔
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.177-192, 1995-06
被引用文献数
16

矯正力を加えた際の圧迫側歯周組織の経時的変化について, 組織反応ならびにそれらの三次元的な分布の推移から検討を加えた.成ネコの上顎犬歯を100gの初期荷重で遠心方向に傾斜移動し, 荷重開始から7日, 14日, 28日後の組織標本を作製した.これらの組織像, ならびに連続切片からコンピュータにより構築した三次元画像の観察を行った結果, 以下の知見が得られた.1. 7日間例にみられた無細胞帯および内変性帯からなる変性領域の分布は, 14日間例では三次元的に縮小しており, この過程ですでに変性領域の組織の修復が進行していると考えられた.14∿28日にいたる過程では, 変性領域の分布はさらに縮小しており, 大部分は修復されていた.しかし, 遠心側歯頚部の歯槽骨頂付近には依然として変性領域が残存していた.2. 14日間例において変性領域に面する歯槽骨に活発な吸収像が認められ, この部位からも変性領域の修復が進行することが示唆された.3. 上記の吸収形態は, 変性領域に面する歯根膜腔への骨髓腔の開口部に独立してみられたため, 従来の背部骨吸収は, (1) 歯槽骨内骨髓腔開口部に近接して出現する浅部での背部骨吸収と, (2) 歯槽骨内深くの骨髓腔に出現する深部での背部骨吸収に再分類することが妥当であると考えられた.4. 変性領域と破骨細胞の種々の骨の吸収形態には明瞭な位置関係が認められ, これらは歯根膜に分布する圧の程度と密接に関連していることが示唆された.
著者
HASSAN Gazi Shamim YAMADA Kazuhiro RAKIBA Sultana MORITA Shuichi HANADA Kooji
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.348-361, 1997-12
被引用文献数
7

正常咬合者における咬合力分布と顎顔面頭蓋の関係を明らかにするために, 顎口腔機能が正常で個性正常咬合を有する成人29名の咬頭嵌合位での最大噛みしめによる咬合力, 咬合接触面積, 平均咬合圧と側面および正面頭部顔面形態の関連を検討した.咬合力の記録には咬合力測定用感圧シートを用い, 歯列全体, 各歯の咬合力, 咬合接触面積, 平均咬合圧を分析し, 顎顔面形態は側面および正面頭部X線規格写真を用いた.結果は以下の通りであった.1. 咬合力, 咬合接触面積, 咬合圧はそれぞれ男女平均で, 829.8±347.2N, 16.2±8.0mm^2, 54.7±12.1MPaを示した.2. 咬合力, 咬合接触面積は性差を示し, 個々の歯の咬合力, 咬合接触面積は後方歯に行くにしたがい増加した.3. 男性は女性に比べ, 上顎骨の幅が広く, 下顎枝の高さが長く短頭型を示した.4. 側面顎顔面形態ではshort face typeは歯列全体, 大臼歯部およぼ小臼歯部の咬合力, 咬合接触面積がlong face typeに比べ, 有意に大きい値を示した.5. 正面顎顔面形態では歯列全体の咬合力非対称指数は9.9±10.1%を示した.以上から顎口腔機能正常者の側面顎顔面形態は歯列全体ならびに大臼歯, 小臼歯の咬合力, 咬合接触面積に関連し, 正面顎顔面形態は形態的力学的に対称性を示し, バランスが保たれていることが示された.