著者
佐藤 俊朗
出版者
慶應義塾大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011-08-24

炎症性腸疾患は原因不明の慢性炎症性腸疾患であり,免疫統御療法により治療される.しかし,難治性炎症性腸疾患では,その効果が乏しい.我々は,そのような難治症例では粘膜の再生障害が原因であると考え,粘膜再生治療の開発を目指している.粘膜再生治療実現のための,非臨床試験として,マウス大腸より培養大腸上皮オルガノイドを作成し,マウス腸炎モデルに対して経肛門的投与を行い,投与したオルガノイドの生着が確認できた.また,オルガノイド移植群は非移植群に比して腸炎に対する治療効果を認めた.長期間培養した組織幹細胞を移植し,生着させる技術は他の臓器を見ても例がなく,今回の成果は粘膜再生治療を実現させるため,重要な進展となった.次のステップとして,ヒト腸管上皮幹細胞培養技術の開発が求められる.我々は,既にマウス腸管上皮幹細胞培養を確立しているが,本培養方法ではヒト腸管上皮幹細胞の培養は困難であった.そこで,マウス大腸上皮細胞培養の条件に加え,Nicotinamide,A83-01(Alk inhibitor),SB203580(p38 inhibitor)を追加したところ,世界で初めてヒト腸管上皮幹細胞の長期培養に成功した.長期培養されたヒト腸管上皮細胞は染色体異常など,形質転換をすることはなく,正常な分化を保持していた.本成果は粘膜再生治療のみならず,ヒト上皮細胞疾患の研究に非常に有用な技術である.