著者
樋口 知志 佐藤 友理
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
Artes liberales (ISSN:03854183)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.41-67, 2010-06-25

現在,多種多様な広告が世の中に溢れ,広告論なる研究も数多く行われているが,近代以前の広告が辿った歴史についてはこれまであまり語られてこなかった。広告の歴史を繙くと,江戸時代に誕生した「引札」という今のチラシ広告に相当する広告媒体がある。江戸時代以前にも,看板,暖簾等の広告媒体は存在したが,とりわけ引札は我が国の商業史上大きな役割を果たし,今日の日本における広告文化の基礎を築いたという意味で重要である。さらに引札は,人々の生活に密着した大衆的なものであっただけに,他の史料には記されていない人々の生活,当時の社会情勢や文化を知る手掛かりとしても貴重な「史料」である。