著者
川島 敏生 野鳥 長子 武田 真佐美 高嶋 直美 長尾 啓子 重松 雄大 長屋 説 佐藤 宜充 山上 繁雄 栗山 節郎
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.345-350, 1998-07-31
被引用文献数
4

膝前十字靭帯損傷による神経受容器の機能低下によって筋の反応時間の遅れが予想される。また, 膝前十字靭帯損傷後の患者は特有な歩容を呈することが指摘されており, これが大腿四頭筋に与える影響も考えられる。今回それを検証することを目的に, 膝荊十字靭帯損傷患者の大腿四頭筋の等速性筋力・力発生率, 脛骨の前方動揺距離を測定するとともに, 表面筋電図を用いて大腿直筋・内側広筋の筋電図反応時間・電気力学的遅延・周波数解析などを行った。各パラメーターを健側・患側で比較した結果, 患側の等速性筋力・力発生率には有意な低-ドが, 脛骨前方動揺距離には有意な増大カ月忍められた。さらに, 患側の電気力学的遅延に有意な遅延が認められるとともに, 患側の内側広筋の平均パワー周波数に有意な低下が認められた。電気力学的遅延と脛骨前方動揺距離に相関は認められなかった。反応時間のうち, 中枢過程を反映するといわれている筋電図反応時間には差が認められず, 末梢過程を反映するといわれている電気力学的遅延に有意な遅延が認められた。また, %タイプII維が高い者に増大力月忍められるという力発生率と内側広筋の平均パワー周波数に有意な低-ドが認められた。これらのことから, 膝前十字靭帯損傷後の反応時間の遅れの原因が, 神経受容器の障害であるという予想に反し, 内側広筋のタイプII維の萎縮が原因であると推察した。また膝前十字靭帯損傷後の患者は大腿四頭筋の収縮を避ける歩容や股関節屈曲モーメントを大きくする歩容を呈するといわれている。この様な歩行が2関節筋で股関節屈曲作用もある大腿直筋と単関節筋で膝関節伸展作用のみの内側広筋の活動量に差をもたらし, その結果として同じ大腿四頭筋でありながら, タイプII維の萎縮に差を生じさせたと考えた。