著者
安藤 久美子 長尾 啓子 川島 敏生 渡邊 幹彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.462, 2003 (Released:2004-03-19)

【目的】我々は投球障害肩の治療において野球肘の既往を認める者を多く経験し、肘関節の可動域(以下ROM)制限が肩の運動に影響を与えている可能性があると考えた。そこで上肢回旋ROMを測定する方法を考案し、肘関節や手関節などの固定が上肢のROMに影響を与えることを報告してきた。今回、投球障害肩の選手の上肢回旋ROMを測定し健常群と比較検討したので報告する。【対象】健常肩群(以下N群)健常な上肢を有する者22名。男性10名女性12名。平均年齢は25.0歳。投球障害肩群(以下Ab群)当院を受診し、投球障害肩と診断された野球選手。男性9名。平均年齢19.5歳であった。【方法】測定は各被験者1回、肘関節伸展位で上肢を矢状面・前額面で両上肢挙上させ、挙上角度0°60°120°における上肢の回旋運動を最大努力にて行い、前腕回内外運動器(YAESU社HKY式)を用いて測定した。これを以下の4条件で行い、_丸1_固定なし:Free_丸2_手関節固定:Wrist_丸3_前腕回内位固定:P -elbow_丸4_前腕回外位固定:S-elbow。各条件でのAb群とN群の平均値を比較検討した。【結果】(1)上肢回旋ROM(屈曲挙上角度:N群/Ab群)Free(0:360/320)(60:340/300)(120:310/280)Wrist(0:320/300)(60:310/290)(120:290/270)P-elbow(0:250/230)(60:250/230)(120:240/220)S-elbow(0:230/240)(60:230/250)(120:220/220)(2)上肢回旋ROM(外転挙上角度:N群/Ab群)Free(0:360/310)(60:370/320)(120:320/290)Wrist(0:320/300)(60:350/220)(120:300/270)P-elbow(0:250/220)(60:290/260)(120:260/210)S-elbow(0:230/240)(60:260/250)(120:230/220)であった。Ab群の回旋ROMはN群と比較してS‐elbow以外では前額面、矢状面ともに可動域が低かった。S‐elbowではAb群とN群に大きな差は認めず、矢状面上では逆転していた。【考察】上肢の回旋運動は肩甲胸郭節と肩関節と前腕の複合運動である。今回の実験よりAb群は上肢の回旋可動域の低下が認められた。しかし、前腕回外位固定では正常群と大きな差は認められなかった。これはAb群が前腕回外位で固定された状態に近く、前腕の回内位に入らないのを肩関節内旋で代償していると考えられ、こうした動きの制限が可動域減少の1つの要因と考えられた。投球障害肩の発症の1つの要因に前腕の回内外制限を肩関節内外旋で過度に代償した結果が推測された。
著者
川島 敏生 野鳥 長子 武田 真佐美 高嶋 直美 長尾 啓子 重松 雄大 長屋 説 佐藤 宜充 山上 繁雄 栗山 節郎
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.345-350, 1998-07-31
被引用文献数
4

膝前十字靭帯損傷による神経受容器の機能低下によって筋の反応時間の遅れが予想される。また, 膝前十字靭帯損傷後の患者は特有な歩容を呈することが指摘されており, これが大腿四頭筋に与える影響も考えられる。今回それを検証することを目的に, 膝荊十字靭帯損傷患者の大腿四頭筋の等速性筋力・力発生率, 脛骨の前方動揺距離を測定するとともに, 表面筋電図を用いて大腿直筋・内側広筋の筋電図反応時間・電気力学的遅延・周波数解析などを行った。各パラメーターを健側・患側で比較した結果, 患側の等速性筋力・力発生率には有意な低-ドが, 脛骨前方動揺距離には有意な増大カ月忍められた。さらに, 患側の電気力学的遅延に有意な遅延が認められるとともに, 患側の内側広筋の平均パワー周波数に有意な低下が認められた。電気力学的遅延と脛骨前方動揺距離に相関は認められなかった。反応時間のうち, 中枢過程を反映するといわれている筋電図反応時間には差が認められず, 末梢過程を反映するといわれている電気力学的遅延に有意な遅延が認められた。また, %タイプII維が高い者に増大力月忍められるという力発生率と内側広筋の平均パワー周波数に有意な低-ドが認められた。これらのことから, 膝前十字靭帯損傷後の反応時間の遅れの原因が, 神経受容器の障害であるという予想に反し, 内側広筋のタイプII維の萎縮が原因であると推察した。また膝前十字靭帯損傷後の患者は大腿四頭筋の収縮を避ける歩容や股関節屈曲モーメントを大きくする歩容を呈するといわれている。この様な歩行が2関節筋で股関節屈曲作用もある大腿直筋と単関節筋で膝関節伸展作用のみの内側広筋の活動量に差をもたらし, その結果として同じ大腿四頭筋でありながら, タイプII維の萎縮に差を生じさせたと考えた。