- 著者
-
戸村 秀明
茂木 千尋
佐藤 幸市
岡島 史和
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.135, no.6, pp.240-244, 2010-06-01
- 被引用文献数
-
2
OGR1(Ovarian cancer G-protein-coupled receptor 1),GPR4,TDAG8(T-cell death-associated gene 8),G2A(G2 accumulation)は,お互いのアミノ酸の相同性が40-50%のGタンパク質共役型受容体(GPCR)である.これらの受容体は最初,脂質性メディエーターに対する受容体として報告されたが,2003年のLudwigらによる報告以降,これらの受容体が細胞外プロトンを感知するプロトン感知性GPCRであることが,明らかとなった.OGR1,GPR4,G2Aが脂質メディエーターであるsphingosylphospholylcholine(SPC)やlysophosphosphatidylcholine(LPC)に対する受容体であるとの説は,受容体への結合実験の再現性の問題から,現在は疑問視されている.細胞外pHの低下に伴いプロトン感知性GPCRは,受容体中のヒスチジンがプロトネーションされる結果,立体構造が活性型に移行し,種々の三量体Gタンパク質を介して,多様な細胞内情報伝達系を活性化させると考えられている.G2Aに関しては生理的なpH条件下で恒常的な活性化が観察されるので,別の活性化機構が提唱されている.生体内のpHは7.4付近に厳密に調節されていることから,細胞外pHの低下は炎症部位やがんなど局所的に起こっていることが予想される.実際,炎症やがんなどで,プロトン感知性GPCRを介した作用が,我々の報告を含め,細胞レベル,個体レベルで報告されている.これまでの研究結果から,発現するプロトン感知性GPCRの種類の違いにより,炎症部位で異なる応答が惹起される可能性が浮上してきた.さらに最近,各受容体の欠損マウスの報告が出そろい,プロトン感知性GPCRの研究は新たな段階に入ってきた.プロトン感知性GPCRの研究は,炎症やがんに対する新たな視点からの創薬へのきっかけにつながる可能性を秘めている.