著者
岡島 史和
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.877-881, 2014 (Released:2016-09-17)
参考文献数
24
被引用文献数
1

血液中pHは7.35~7.45に厳密にコントロールされている.しかし,炎症部位,虚血部位では炎症性細胞の集積,酸素供給の停止などによる解糖系の亢進によって,乳酸が大量に産生され,pHの低下が予想される.実際,炎症性細胞の集積した腫瘍内部,関節リウマチや気道炎症部位ではpHが6以下に低下することが知られている.2003年,スフィンゴシルホスホリルコリンなどのリゾ脂質の受容体として報告されていたOGR1やGPR4が細胞外pH,すなわち水素イオン(プロトン)濃度を感知して,細胞内でGタンパク質を介したシグナル伝達系を活性することが報告された.その後,様々な細胞でこの受容体ファミリーのpH感知性が報告されるに至っている.最近では,受容体欠損マウスを用いた研究も発表されるようになり,pH感知性GPCR(以後,pH-GPCRと記載)が多彩な役割を担っていることが明らかにされている.本総説では,pH-GPCR研究に関して受容体欠損マウスを用いて得られた知見を中心に研究の現状を紹介したい.
著者
戸村 秀明 茂木 千尋 佐藤 幸市 岡島 史和
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.6, pp.240-244, 2010-06-01
被引用文献数
2

OGR1(Ovarian cancer G-protein-coupled receptor 1),GPR4,TDAG8(T-cell death-associated gene 8),G2A(G2 accumulation)は,お互いのアミノ酸の相同性が40-50%のGタンパク質共役型受容体(GPCR)である.これらの受容体は最初,脂質性メディエーターに対する受容体として報告されたが,2003年のLudwigらによる報告以降,これらの受容体が細胞外プロトンを感知するプロトン感知性GPCRであることが,明らかとなった.OGR1,GPR4,G2Aが脂質メディエーターであるsphingosylphospholylcholine(SPC)やlysophosphosphatidylcholine(LPC)に対する受容体であるとの説は,受容体への結合実験の再現性の問題から,現在は疑問視されている.細胞外pHの低下に伴いプロトン感知性GPCRは,受容体中のヒスチジンがプロトネーションされる結果,立体構造が活性型に移行し,種々の三量体Gタンパク質を介して,多様な細胞内情報伝達系を活性化させると考えられている.G2Aに関しては生理的なpH条件下で恒常的な活性化が観察されるので,別の活性化機構が提唱されている.生体内のpHは7.4付近に厳密に調節されていることから,細胞外pHの低下は炎症部位やがんなど局所的に起こっていることが予想される.実際,炎症やがんなどで,プロトン感知性GPCRを介した作用が,我々の報告を含め,細胞レベル,個体レベルで報告されている.これまでの研究結果から,発現するプロトン感知性GPCRの種類の違いにより,炎症部位で異なる応答が惹起される可能性が浮上してきた.さらに最近,各受容体の欠損マウスの報告が出そろい,プロトン感知性GPCRの研究は新たな段階に入ってきた.プロトン感知性GPCRの研究は,炎症やがんに対する新たな視点からの創薬へのきっかけにつながる可能性を秘めている.