著者
伊藤 美武 佐藤 秩子 田内 久
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.382-387, 2000-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

実験的に寿命延長効果が明らかとなっている食餌制限ラットを用い, 特にラットの主要な加齢にともなう病変に対する食餌制限の利的効果を異なる臓器で比較し, その作用点を病変の発現様相から検討した. ドンリュウ系雄ラット145匹を自由摂取群と制限食群 (給餌量を自由摂取群摂餌量の60%に制限) の2群に分け, タンパク源として植物性タンパクのみを含有する飼料を3週齢より給餌した. 検索対象は定期屠殺 (6, 12, 24, 29, 33カ月齢) および実験経過途中に死亡または切迫屠殺したラットとし, 下垂体, 心臓, 腎臓, 骨格筋 (咬筋, 前脛骨筋) に観察された肉眼的, 組織学的病変の発現様相を検討した. その結果, 以下の点が明らかとなった. 1) 食餌制限によって加齢にともなう疾病の発生 (下垂体腫瘍, 慢性腎症, 骨格筋 (前脛骨筋) 変性症) が抑制または遅延する. 2) 病変の発現様相に対する食餌制限の影響は病変または臓器の種類によって異なる. 3) 下垂体腫瘍と慢性腎症の発生抑制あるいは遅延はラットの寿命延長の要因の1つである. 4) 心筋症はラットの寿命を短縮する要因ではない. 5) 骨格筋の老性萎縮には筋変性症の発生に加え筋肉の生理的機能 (運動能) が関与する.
著者
佐藤 秩子 田内 久
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.27-34, 1987-01-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
18
被引用文献数
1

乳癌手術時に摘出された各10年代あたり20~40例の日本人女性の大胸筋 (29~81歳) 180例, 小胸筋 (26~80歳) 200例を対象とし, フォルマリン固定, パラフィン切片において免疫酵素組織化学的手法によりβ-エノラーゼの局在の濃淡により筋線維をタイプI, IIにわけ, タイプ別の年齢変化を微計測的に検討するとともに, 大, 小胸筋における老化様相の差について考察した.筋重量は大胸筋では60歳以後有意に減少するが小胸筋では減少は有意ではない. 筋細胞数は, 大, 小胸筋のタイプI, II線維とも, 60歳以後有意に減少する.両筋線維の数の比率は, 小胸筋ではI型が, 大胸筋ではII型が高く, 加齢に伴ってともにI型の割合が増すが, 小胸筋では軽く, 大胸筋では有意な増加を示した.筋線維 (横断面) の大きさは, タイプIでは小胸筋で60歳以後逐齢的に顕著に増加するが, 大胸筋では70歳以後, 増加は有意であるが比較的軽い. 一方タイプIIは, 大胸筋で年齢差なく, 小胸筋では, 40歳以後有意に減少する. このような成績を, 生命維持に直結する呼吸補助筋としての機能 (タイプI主導型) を持つ小胸筋と, 腕の運動-内転-に関与する (タイプII主導型) 大胸筋との機能の差と関連して考察を施した.