著者
佐藤 紘光
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.17-31, 2000

<p>所有者の立場からすると,企業の投資は現在価値法や内部利益率法などの合理的ルールに従って,株主価値が最大化されるように決定されるべきである.しかし,経営者や管理者はこの基本ルールを無視して株主の選好とは異なる意思決定を行う場合がある.エイジェンシー理論はその理由を経営者や管理者(エイジェント)が株主(プリンシパル)の利益よりも自分自身の利益を優先するインセンティブをもつからであると説明する.エイジェントの投資決定をコントロールするインセンティブ・システムを構築することが業績管理会計の重要課題となる所以である.</p><p>本稿は,このような視点から,経営者や管理者に効率的投資決定を動機づける報酬体系(業績評価システム)のあり方を論じる.最初に,Holmstrom and Ricarti Costaのエイジェンシー・モデルに数値例を当てはめて管理者の投資行動を分析する.そして,効率的な投資決定を動機づけるには,長期(2期間)の雇用関係を自己選択させる業績連動型の報酬体系が必要となることを明らかにする.ついで,モデル分析の含意を用いて,経営者のキャリア・コンサーンが投資決定の効率性を歪めるプロセスをいくつかのケースで説明する.そして,企業価値を測定する業績尺度を報酬体系に結びつける必要性を再確認し,業績評価尺度としての株価や会計利益,経済付加価値などの意義を検討し,経営者報酬との連動性について言及する.</p>
著者
佐藤 紘光 齋藤 正章
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.61-79, 1995

<p>本稿では,経営者と管理者の間の情報伝達に焦点を当て,エイジェンシー・モデルに基づいてその経済的価値を分析する.管理者が実行した行動の結果は,管理会計が測定する業績情報に集約され,これを報告するという形式で経営者に伝達される.それがリスク・シェアリングと動機づけに果たす役割については,これまでのエイジェンシー研究が明らかにしたところであり,業績情報の伝達が経済的価値をもつことについては異論がない.</p><p>経営者と管理者の間で伝達される情報には,会計報告のような事後情報だけでなく,有用であれば,事前情報も含まれるであろう.たとえば,契約を締結する前段階において、環境条件や生産性についての両者の認識にギャップが存在するのは珍しいことではない.そうした認識の相違は、契約条件,すなわち,業績評価(成果配分)ルールに重要な影響を及ぼすはずであるから,このギャップを埋めるために相互に意志疎通を図る場が用意されるであろう.予算ないし業績目標の決定に管理者の私的情報を反映すべく,決定過程へ管理者の参加を求めるのは,その一例である.本稿は,そうした事前情報の伝達に経済的価値があるか否かを分析する.したがって,本研究は参加の有効性に関する検証とみることもできる.</p><p>論文の構成は以下の通りである.第2節では基本モデルとして,情報伝達を要求しないモデル(PROGRAM 1)と要求するモデル(PROGRAM 2)を提示し,同時に情報レントという概念を導入する.第3節では数値例を用いて情報伝達の経済的価値を測定し,それが価値をもつ場合ともたない場合を明らかにする.第4節では情報伝達の価値の有無を決定づける要因を一般式を用いて検証する.</p>