著者
加地 正英 久能 治子 佐藤 能啓
出版者
久留米大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2000

【目的】インフルエンザは合併症併発の頻度が高い感染症で、それはインフルエンザ自体の治療以外の医療費が必要となる。本研究では合併症としての心臓に対しての影響に注目して、どの様な場合に影響が大きいのを検討した。【対象および方法】対象は1999年から2002年に、インフルエンザと診断され、腎機能障害例や高血圧などない症例を対象とした。病原診断は迅速診断キットを用いた。指標としてbrain natriuretic peptide (BNP)濃度を測定した。インフルエンザA、B感染例で年齢、性別、急性期・回復期BNP濃度を比較、また両群内で40歳以上の群と39歳以下の群で比較検討した。【結果】インフルエンザA55例、B50例を対象とした。BNP濃度はインフルエンザAで急性期12.4±12.7(pg/mL)回復期9.3±10.3(pg/mL)、インフルエンザBで急性期11.5±12.4(pg/mL)回復期9.1±8.6(pg/mL)で両群の急性期、回復期で有意差が確認された(P<0.01)。なお両群の急性期と回復期のBNP濃度に差はなかった。インフルエンザAおよびBとも急性期のBNP濃度はいずれも40歳以上の年令群が39歳以下の群より有意に高く、特に40歳以上の群で急性期と回復期の比較で有意差を認めたが(P<0.01)、39歳以下では急性期と回復に関して差はなかった。【考察】BNPは左心室への負荷を反映するものであり、慢性心不全などでは上昇することが知られている。本検討からインフルエンザ感染とBNP濃度および年令の間に緊密な関連があり、高齢になるほどインフルエンザ罹患時に心室負荷が大きいと推測した。BNPの値だけで、高齢者の循環器系の障害を論議できるわけではないが、高血圧や心不全を有する患者がインフルエンザに罹患した場合にはより大きな影響を与えると推測される。そのため臨床現場で高齢者のインフルエンザでは心臓に対する大きなインパクトの可能性が考えられ、その側面からも適切な対処が医療費などの増加を抑える可能性を含んでいると考えられた。