著者
冬木 春子 佐野 千夏
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.70, no.8, pp.512-521, 2019 (Released:2019-08-24)
参考文献数
25
被引用文献数
3

本研究では「多重役割仮説」を参照した仮説「母親は親役割に加えて仕事役割を担うことで時間が消耗され, 子どもに向けられるそれらが不足し, 子どもの健康な生活習慣形成に悪影響が及ぶ」を検証した. 小学校入学前の子どもをもつ269名の親を対象に質問紙を用いて, 次の主な知見が明らかにされた. 第一に, 母親が有職の場合, 子どもは就寝時間が遅く, 夜間の平均睡眠時間では10時間を満たしていなかったが, 母親が無職の場合は就寝時間が早く, 平均睡眠時間も10時間を超えていた. 第二に, 母親の午後6 時以降の帰宅時間の遅さは, 子どもの就寝時刻の遅れやの睡眠時間の短さにつながるとした仮説は支持されたが, 母親の帰宅時間の遅さは子どもの栄養あるいは献立バランス面における食習慣に影響を及ぼしておらず, 仮説は支持されなかった. 第三に, 父親の帰宅時間の遅さは子どもの睡眠習慣や栄養や献立バランス面での食習慣には影響を及ぼしていないが, 帰宅時間が早いと家族との共食が可能であった. 幼児の生活習慣が母親の就労によって規定される影響力を鑑みると, 子どもの生活習慣の形成には, 社会におけるジェンダーイクイティや雇用環境の改善, さらには親に対する教育的支援が必要である.