著者
小泉 修一 佐野 史和
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.152, no.6, pp.268-274, 2018 (Released:2018-12-08)
参考文献数
37
被引用文献数
1 1

てんかんは最も頻度が高い中枢神経疾患の一つである.複数の作用メカニズムの異なる抗てんかん薬が既に存在するおかげで,てんかんの多くはコントロール可能である.しかし,てんかんの約30%は既存薬が奏功しないいわゆる難治性てんかんである.抗てんかん薬は大きく分けると,神経細胞の興奮性を抑制するもの,及び抑制性を亢進するものに分類できる.興奮性神経の抑制は,Na+等各種イオンチャネル阻害薬,グルタミン酸放出阻害及びグルタミン酸AMPA受容体をする薬剤,一方抑制性神経の亢進はGABAA受容体を亢進させる薬剤である.いずれも,神経細胞を標的としたものである.最近の脳科学の進歩により,グリア細胞が脳機能,神経細胞の興奮性に果たす役割の重要性が明らかにされつつある.グリア細胞は,自身は電気的に非興奮性細胞であるが,細胞外の神経伝達物質,グリア伝達物質,イオン濃度の調節,エネルギー代謝調節,さらにシナプス新生及び除去により,神経細胞の興奮性を積極的に調節している.従って,グリア細胞の機能が変化すると,これらの調節機能も変化し,ひいては神経細胞の興奮性も大きく変化する.てんかん原性とは,脳が自発的なてんかん発作を起こし易い状態になることであり,上述したグリア細胞の機能が変調することが,このてんかん原性獲得と大きく関係していることが示唆されている.本稿は,グリア細胞の中でも特にアストロサイトに注目し,てんかん発作により反応性アストロサイトの表現型に変化した際の機能変調とてんかん原性との関連性を述べ,グリア細胞を標的とした抗てんかん薬開発の可能性について述べる.
著者
金村 英秋 佐野 史和 反頭 智子 杉田 完爾 相原 正男
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.18-22, 2015 (Released:2015-03-20)
参考文献数
11

【目的】小児てんかん児の発作間欠期頭痛に対するtopiramate (以下, TPM) の有効性について検討した. 【方法】対象は頭痛の訴えを表出できる患児85名 (5~15歳). Valproate (以下, VPA) 内服群42名, carbamazepine (以下, CBZ) 群34名, 併用群6名, 他剤群3名であった. 発作間欠期頭痛の有無, 頻度, 程度{1 (支障度 : 小) ~3 (同 : 大) }による治療開始後6カ月時点でのTPMの有用性を検討した. 頻度50%以上の減少または程度50%以上の軽減を反応群とした. TPMは0.5mg/kg/dayで開始, 症状に応じて3mg/kg/dayまで増量可とした. 【結果】反復する発作間欠期頭痛を認めた児は18名 (21%) であった. VPA群8例, CBZ群6例, 併用群3例, 他剤群1例であった. けいれん発作は頭痛 (-) 群で年平均0.9回に対し, 頭痛 (+) 群では2.6回と高頻度であった. TPM反応群は13名 (72%) (VPA群4例, CBZ群6例, 併用群2例) であり, 頭痛の完全消失を6例 (33%) に認めた. TPMの投与量 (mg/kg/day) は非反応群2.7に対し反応群は平均1.1と低用量であった. なお, 反応群におけるTPM投与後の発作頻度は年平均2.2回と有意な減少を認めなかった. 【結論】てんかん児の頭痛に対してTPMは積極的に試みるべき薬剤と考えられる. TPMは発作と関係なく頭痛への有効性が認められたと考えられる. さらにその有効性は必ずしも用量依存性ではなく, 一定の投与量 (2mg/kg/day) で無効な場合は他剤の使用を考慮すべきと考えられる.