著者
佐野 浩孝
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、大きさ数μm程度の、いわゆるメゾスコピック超伝導体における渦糸状態について調べるものである。特に本年度は微小な正方形試料において発生が予想されている反渦糸の観測に焦点を絞って実験をおこなった。反渦糸の観測のためには局所的な磁場分布の測定が不可欠である。そのための手法として、本研究ではHall magnetometryを採用した。これは、半導体2次元電子系基板より作製したHall cross上に微小超伝導体試料を作製し、試料直下での磁場の変化をHall crossのHall抵抗の変化として観測するというものである。特に本研究では、磁場測定の空間分解能を高めるため、Hall crossの端子を細分化した多端子Hall crossを用いた。また、個々の渦糸をより判別しやすくするため、正方形の四隅に微細孔をあけた試料を用いた。正方形試料直下での磁場分布の変化から試料内部での渦糸分布について調べた。その結果、試料に渦糸が出入りする様子を、その位置まで含めて観測することができた。その結果から試料内部における渦糸分布の同定に成功した。しかし、当初の目的であった反渦糸の観測には成功しなかった。これはおそらく反渦糸が生成していなかったためと考えられる。以上の成果について、海外での学会で2件、国内の学会で1件の発表をおこなった。そして、今年度中にさらにもう1件国内の学会で発表をおこなう。海外での学会での発表のうちの1件については会議録の形で論文として公表されることが決定している。また、昨年度までおこなっていた超伝導ネットワークに関する論文が本年度初めに出版された。現在は新たに論文を執筆中であり、完成し次第投稿予定である。本年度は大学院博士課程の最終年度にあたるため、上記の研究成果も含めて博士論文を作成した。審査の結果、3月23日付で東京大学より博士(理学)の学位が授与されることとなった。