著者
何 淑珍
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.63-72, 2009-07-19 (Released:2013-12-27)
参考文献数
8

本稿の課題は,J. デューイの『倫理学』における道徳理論の基礎を明らかにすることにある.先行研究では,社会成員としての個人の行為に立脚し,諸個人の置かれているその場その場の具体的問題に対する行為の結果責任が指摘されている.本稿では,その議論を一歩すすめて,デューイのいう個々の具体的状況とは何を指しているのか,結果責任とはいかなるものであるのか,といった問いをたてて検討をおこなった.そこで,デューイによる過去の道徳理論に対する批判,諸個人の行為を取りまく社会的ネットワークへの注目を考察することによって,個人が直面する具体的状況とは,社会全体と関連する「社会的諸条件」だということを明らかにした.デューイの道徳理論は,個人の行為と「社会的諸条件」との相互規定・循環関係を重視する点が特徴的なのである.
著者
何 淑珍
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.95-106, 2014-07-25 (Released:2015-08-24)
参考文献数
10
被引用文献数
1

本稿は,北海道の根釧パイロットファーム開拓事業によって入植した開拓初代女性の自発的文化活動を対象とした事例研究である.本稿の課題は,対象者が日々の日常生活において農業に携わりつつ家事育児をこなしながら,どのように自らの生活文化を形成させてきたのかを明らかにすることである.開拓女性の入植から今日に至るまでの生活史を追うことによって,根釧パイロットファームという社会的条件に,対象者はどのように向かい合い,結果的にどのような新たな社会的条件を作り上げようとしているのかを焦点に検討した.女性の文化活動が,家族経営である農家生活において,家族内人間関係の円滑化および生活,生産両面における家族生活の安定化を促進させた.そしてその活動が地域の同世代および世代間の交流の場と機会を提供することにつながり,結果的に地域に新たな生活文化が形成されつつあることが明らかとなった.
著者
何 淑珍
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.55-65, 2012-07-14 (Released:2014-03-26)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本稿の課題は,宮城県登米市旧中田町在住のM氏を事例に,旧中田町の農業とともに歩んできた彼の農業者としての生活史を振り返ることによって,農業,農村,農家が農業者の目にどのように映し出されているのかという農業観を明らかにすることである.分析手法としては,東敏雄が提示した「事実の発見」という「聞きがたり」の手法を用いて,一個人である農業者が彼の農業人生を取り巻く重層的な「社会的諸条件」にどのように向かい合ったのかを焦点に検討した.インタビューの結果から,農業,農村,農家がかかえるさまざまな問題に対して彼が模索しながら行動するという生活を送ってきたこと,また,農業の農業者自身,農村,日本社会での位置づけに疑問を持ちつつも,農業を維持存続させようと模索していることを明らかにした.