著者
久田 正樹 作村 勇一 石井 信
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NC, ニューロコンピューティング (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.100, no.687, pp.63-70, 2001-03-15
被引用文献数
2

シナプス前細胞と後細胞の発火のタイミングに依存してシナプスの伝達効率が変化することが明らかになってきた。さらに近年、大脳皮質錐体細胞間シナプスへの連続した入力によってシナプスの伝達効率が指数関数的に減衰する現象が発見された。TsodyksとMarkramは減衰シナプス (Depressing Synapse)と呼ばれるこの現象を伝達物質の放出回収過程によってモデル化し、放出された伝達物質の回収の遅延がシナプス伝達の減衰の原因となることを示した。このモデルは生理学的な実験によって得られたシナプス後細胞の膜電位の平均的な応答をうまく近似できることが分かっている。本報告では、シナプス伝達物質がシナプス小胞によって量子化されている事実に基づき、シナプス小胞の放出回収過程による減衰シナプスモデルを示す。このモデルではシナプス小胞の放出は確率的事象であり、それにより試行ごとにばらつく膜電位の挙動が再現できる。また、シナプス小胞の放出確率の変化に伴なぅニューロンの情報処理の変化について議論する。