著者
高橋 京子 侯 暁瓏 高橋 幸一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.132, no.5, pp.270-275, 2008 (Released:2008-11-14)
参考文献数
22
被引用文献数
2 1

東西医薬品の併用投与は有効な治療手段となっているが,歴史的経験知は東西薬物併用療法を想定していなかったため,適正使用に必要な情報が著しく不足している.最適な併用療法の実践には,安易な漢方薬の使用中止ではなく,薬物動態学的相互作用情報の提供が求められる.CYP3A4はヒトチトクロムP450(CYP)に最も多く存在する分子種で,小腸には全体の30%程度が分布することから,経口剤の薬物動態学 的相互作用の主要な因子である.従来の生薬・漢方薬に関する相互作用報告は統一的見解に至らず,結果の相違が生薬の多様性や実験動物の種差などで処理されている.そこで,動物実験の利点と限界を理解し,目的に応じた評価系構築を提案する.その目的は,(1)漢 方方剤(漢方薬)の総合的評価,(2)薬物代謝酵素CYP450とP-glycoproteinに対する影響,(3)漢方薬の服用方法(経口剤・前処置・連続投与)に則した実験法の構築,(4)薬物動態学的パラメーターの算出,(5)相互作用発現機序を検証できることである.まず,著者らは,雄性ラットに柴苓湯(さいれいとう)(蒼朮(そうじゅつ)配合)を反復前処置することで惹起される消化管CYP3A代謝変動を,ニフェジピンの体内動態パラメーターから解析した.その変動を肝臓および小腸ミクロソームのCYP3A活性,関連タンパクの発現状態,相互作用の持続性について検討し相互作用発現機序に至る過程を明らかにした.また,柴苓湯による異なる相互作用報告は,製造企業間で素材生薬(日本薬局方収載の蒼朮または白朮(びゃくじゅつ)配合)や混合比率の相違のため比較が困難で,生薬製剤の品質が重要な課題となることを再確認した.一方,柴苓湯の含有成分パターンから,高濃度を占めるバイカリンなどの配糖体由来成分の動態は,腸内細菌などの生体の反応性に左右される.漢方薬の真価を評価し適正使用を推進するためには,同じ規格毎の方剤で科学的エビデンスが蓄積され,情報発信ができることを切望する.