- 著者
-
保屋野 誠
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2004, pp.137, 2004
1.はじめに<br>都市開発には制度が大きく影響していることは言うまでもない.そこで東京における制度,ここでは特に「地区計画」を中心にその指定状況,運用等について検討していきたい.<br><br>2.都市計画における「地区計画」制度の位置<br>都市計画,都市開発,地区整備に関わる制度にはさまざまなタイプがあるが,大きくスポット型(ポイント;総合設計制度など),ストリート型(ライン;沿道地区計画など),ブロック型(ポリゴン;地区計画,土地区画整理事業,市街地再開発事業など)の3つに分けられる(参考:東京都『副都心整備計画』p.320).<br>地区計画は1981年4月に設けられた制度で,以降何度か変更が加えられている.一定規模以上の区域を対象とし,建築物の建築形態,公共施設等の配置などからみて,一体として地区の特性にふさわしい良好な市街地環境の整備・保全を誘導するため,道路・公園の配置や建築物に関する制限等を定める制度であり(東京都『都市計画のあらまし』),規制によって土地利用や街並み形成を誘導していこうとする,規制色の強い制度である.決定は地域の実情を知る区市町村が決定し,内容の一部について知事が同意することになっているため,自治体の方針が強く反映されると考えてよいだろう.<br><br>3.区による地区計画の運用の相違<br>東京都決定となる「再開発地区計画」以外の地区計画は,東京都区部で1981年から2000年までの間に158件指定されていた.うち,世田谷区が43件,次いで中央区が15件,練馬区が14件となっている.逆に少ない区は,文京区と荒川区は0件(再開発地区計画はそれぞれ1件),豊島区が1件(目白駅周辺地区,1998年),渋谷区と台東区が2件である.主な区についてみると以下のようになっている.<br>1) 千代田区<br>1988年に初めて指定があったが,その後も含めてオフィスビル建設を目的として設定された地区計画はない.特に1990年代以降は定住人口確保,住宅系の中高層化推進に重点がおかれている.<br>2)中央区<br>2時期に分けてまとめて指定されている.第一は1993年の隅田川西岸5地区であり,特にバブル期に地上げ,無秩序な開発の波に襲われた地区において,伝統的な産業の保護,近代化とともに,急務となった定住人口の維持・回復を図ろうとするものである.第二は1997年で佃・月島・勝どき地区であり,特に中高層住宅の確保が強調されている.<br>3)世田谷区<br>1983年から2000年の間に23区で最も多い43件が指定されており,1989年には8件,1993年には19件がまとめて指定されている.1993年に指定されたものは,区の特色ともいえる緑地や農地を適度に残しながら住宅との調和を図ることを目的にしているが,そこには都心区の地区計画で強調されて前面に出されているような定住人口確保は打ち出されていない.<br>4)江戸川区<br>1983年から2000年の間に15件が設定されているが,中央区や世田谷区と異なりまとめて指定されてはおらず,1983年から1994年まではほぼ毎年少しずつ設定されている.1980年代には都営新宿線各駅を中心とする地区計画は設定されたが,1990年代になると1980年代に設定された地区に隣接した地区も計画決定されるようになり,既に決定されていた地区と一体として都市計画を進めていこうとするものである.また,住宅地とともに農地も残されている江戸川区では街区形成が不整形となっている地区が多く,そのため土地区画整理事業が数件行われたが,これを機に,土地の細分化と乱開発を防止し,合理的な土地利用の推進を図ろうと地区計画が設定されたのであった.<br><br>4.まとめ<br>以上のように,同じ「地区計画」という制度でも区による違いが非常に大きく,積極的に活用されている区がある一方でほとんど使われていない区もある.また,区によっても指定のされ方が大きく異なっている.<br>