著者
飯沼 宏之 山下 武志 傅 隆泰 加藤 和三
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.340-349, 2001-04-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
17

冠閉塞時の虚血性心筋ではATP産生が減少し細胞内ATPレベルが低下する結果,IK・ATPチャネルが開口し,K+は細胞外へ流出,〔K+〕oは上昇する.〔H+〕iの上昇に伴うK+のcotransportも〔K+〕oを高める.さらにNa+/K+ポンプ非活性化や灌流途絶によるwashout停止も〔K+〕o上昇に結びつく.このような〔K+〕o依存性の要因の他に,〔K+〕o非依存性の要因も加わって,虚血心筋では静止膜電位の減少(分極不全)が生じる.一方,静止電位の減少は,〔H+〕iの上昇と組み合わさってNaチャネルの不活性化を招き,これはCaチャネル不活性化とともに脱分極不全を生じさせる.このような分極不全/脱分極不全はそれぞれの拡張期/収縮期傷害電流を生じさせ,その結果,見かけの/真のST上昇が生じる.一方,冠狭窄時にはこのようなST上昇は心内膜側のみに限局し,健常な心外膜側で記録する心電図ではST上昇のミラー像としてのST下降が生じる.さらに冠閉塞解除後の心筋虚血からの回復期には,IKrチャネル発現減少に基づくAPD延長が生じ,これに虚血時の両親媒性脂質中間代謝体(LPCなど)上昇によるK+透過性減少やNaチャネル不活性化遅延などの変化が加わって,APDはますます延長する.このようなAPD延長は健常部の正常なAPDとの較差から著明な陰性T(冠性T)を生じさせる.