著者
谷口 豪 當山 陽介 藤田 宗久 光定 博生 諏訪 浩
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.397-402, 2011-10-15 (Released:2015-06-24)
参考文献数
11

アミロイドーシスは,線維状の異常蛋白であるアミロイドが全身諸臓器の細胞外に沈着することによって機能障害を引き起こす一連の疾患群である。われわれは,多彩な身体症状を「身体表現性障害」として精神科クリニックにて加療されていた37歳男性に対して入院精査を行い,原発性ALアミロイドーシスとの確定診断に至った。本症例は原発性ALアミロイドーシスが特異的な症状所見に乏しく早期診断が困難であるという特徴と医療者の行き過ぎた「了解」が重なり,身体疾患を見逃した結果「身体表現性障害」と診断されていたと考えた。身体科から紹介されて受診する身体表現性障害疑いの患者のなかには,今回のように確定診断の難しい身体疾患が紛れている可能性がある。身体疾患を見落とし,すべての症状を身体表現性障害による表出と誤解しないために,本疾患のように身体科専門医をしても診断が容易でない場合があることを念頭に置くことが,リエゾン精神医学の実践に不可欠である。本症例は一方でヒステリー的な性格特性と行動様式も有しており,これにアミロイドーシスの身体諸症状が取り込まれる形をとっていた。当院における診断はアミロイドーシスと身体表現性障害の併存とした。われわれは,本人の性格や葛藤状況を適切に「了解」し,それに基づく治療的配慮を施しながら慎重に診断作業を継続したことにより,身体疾患の確定診断を得た。精神科診療における「了解可能性」の判断の確かさが問われていることに気づかされた症例であった。