著者
永松 俊哉
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.240-247, 2013-07-15 (Released:2016-12-28)
参考文献数
28

先行研究を概観すると,運動が抑うつ改善に有効であることに一定の合意が得られつつある。海外では質の高い介入研究の実施と,そのエビデンスに基づいたガイドラインも提示されている。運動の種類としては有酸素運動が効果的であり,高齢者には筋力トレーニングも有効とされている。その他の運動様式の効果検証はきわめて少なく,運動の負荷強度ならびに1回の運動に要する時間についても不明の点が多い。運動に伴う疲労を少なくし,かつアドヒアランスを重視するならば,なるべく低強度・短時間が望ましいと考えられる。しかし,国内の研究成果は少なく,精神科診療における具体的な運動の活用策は未だ定まっていない。今後は,日本人を対象とした抑うつ改善ための運動効果の検証が急務であり,作用機序の解明とともにエビデンスに基づいた運動実施ガイドラインの策定が待たれる。
著者
荒井 宏
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.334-341, 2012-10-15 (Released:2016-06-18)
参考文献数
4

市中の総合病院では,児童精神科領域の治療だけに専念できる精神科医を確保できることは稀で,普段は大人の診療を行っている精神科医が子どもも診ていかなければならない。多忙ななかで子ども診療を行うためには,子どもの診療の特徴を理解し,それに応じた“工夫”をする必要がある。 受診経路の特徴としては,精神科治療の対象となる子どもの多くが小児科外来を受診しており,小児科医と上手に連携を取りながら診療にあたることが不可欠である。本稿では,始めに当院での児童精神科医療の現状について述べ,次に子どもの診療を行ううえで課題となるポイントをあげた。そして,それらの問題点を克服するための工夫として,当院で行っている①小児科外来スペースでの診療,②臨床心理士との業務連携,③質問紙や資料の有効な活用など,④外部施設の利用,について紹介した。
著者
冨岡 直 満田 大 中嶋 義文
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.33-40, 2013-01-15 (Released:2016-08-31)
参考文献数
13

一般医療への馴染みの薄い心理職が,精神科リエゾンチームの一員として有機的に機能するために必要な要件を明らかにすることを目的とし,他職種と協働するうえでみられる困難の要因と解決策について考察した。同チームは一般病棟で生じる問題の解決を助けるコンサルタントとして機能することが多いため,その視点をチーム内(コンサルタント間),チーム外(対病棟スタッフらコンサルティ)の二側面に分類して検討した。その結果,リエゾンチーム「内」における協働の困難は,チームは類似職種からなるものの,特に心理職の役割は不明瞭であるという点にあり,この解決には専門性の向上と相互尊重の姿勢が必要と考えた。リエゾンチーム「外」における協働の困難は,コンサルタントとしての機能発揮にあるが,医学・医療知識の乏しさゆえに問題自体を理解できないこともある心理職にとって,その障壁はことさら高い。この解決のためには見立て力の向上と,情報交換・問題解決の両レベルでのコミュニケーション能力の向上が重要と考えた。
著者
中村 元昭
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.125-131, 2016-04-15 (Released:2019-03-19)
参考文献数
22

これまでのうつ病rTMS(repetitive transcranial magnetic stimulation)の臨床試験からわかることは,有効性の効果サイズが中等度であり,電気けいれん療法には有効性で劣るものの,安全性や忍容性において勝っているという点であろう。また,再発予防効果や維持療法としての有効性も徐々に検証されつつある。ただ,薬物治療に反応不十分な患者集団において,rTMSに反応する割合は3 〜4割といわれており,決して満足できる割合ではない。うつ病rTMSの対象集団を見極めて,治療アルゴリズムに配置することが重要である。rTMSの治療効果発現メカニズムについては仮説の域を出ないが,神経伝達物質,神経可塑性,マクロ的神経回路のレベルで概説した。また,うつ病以外の精神疾患に対してもrTMSの可能性が検証されつつあるため,それを紹介した。最後にうつ病rTMSの国内導入の概況と課題を解説した。
著者
西村 勝治 佐藤 恵里
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.42-51, 2011-01-15 (Released:2014-10-11)
参考文献数
64

全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)による神経精神病変(neuropsychiatric SLE:NPSLE)はSLE患者の約半数に出現し,予後不良,他の臓器病変合併の増加,QOLの低下と関連している。NPSLEの発症には微細な血管障害(vasculopathy),神経細胞に対する自己抗体の産生,髄腔内のサイトカインの産生など,多因子的なメカニズムが想定されている。NPSLEは疾患特異的な指標に乏しく,診断のためのゴールドスタンダードは存在しないため,NPSLE以外の要因をきちんと除外し,臨床症状,血液および髄液検査所見,脳波,脳イメージング,免疫学的マーカーなどに基づいて総合的に診断する。本稿では,NPSLEのコンサルテーションにおいて精神科医に求められる診断とマネージメントに焦点を当て,最近の知見を中心に概説した。
著者
永田 利彦
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.355-363, 2011-10-15 (Released:2015-06-24)
参考文献数
11

神経性過食症の概念が提唱されて四半世紀ほどしかならないのにかかわらず,摂食障害の精神病理は大きく変化し,複雑になる一方である。Fairburnが1981年に認知行動療法の有効性を報告して以来,各種のガイドラインは神経性過食症への最もエビデンスを有する治療としている。摂食障害の精神病理の複雑化に合わせて,Fairburnらは神経性過食症といった亜型分類にとらわれず,感情不耐性など弁証法的行動療法の要素も取り入れた強化認知行動療法を提唱している。しかし,大学病院を受診する摂食障害は数多くの併存症を有し,全般性の社交不安障害に対する認知行動療法や,自傷や自殺未遂といった衝動行為を次々に行う多衝動性に対し,弁証法的行動療法なども考慮する必要がある。
著者
山下 洋
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.230-237, 2012-07-15 (Released:2016-05-29)
参考文献数
9

愛着理論は乳幼児期のみならず,思春期の情緒・行動障害への介入において重要な意義をもつことが精神保健の領域でも認識されてきている。本論文では,思春期の臨床における愛着の意義,その評価と介入について概観した。近年は愛着形成の過程とその障害やリスク状態までを含む次元的なスペクトラム・モデルが呈示され,ライフステージに沿った診断と評価が検討されていた。ことに思春期では,自律や性の問題に直面することが新たな脅威となり,愛着障害行動が生じることがさまざまな情緒・行動上の問題の背景として指摘されていた。治療では愛着に基づく介入として,脅威となる状況の変化とともに家族を含む支援システムが愛着対象として機能することが重要となる。
著者
羽多野 裕 福居 顯二
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.384-390, 2013-10-15 (Released:2017-02-03)
参考文献数
45

Informed consent(説明と同意)は患者中心の医療を行ううえで重要なプロセスであるが,患者・医療者双方ともにその重要性の認識は未だ不足している。また急速な高齢化による認知症患者の増加により,同意能力が低下し自らの医療の決断に困難を要する患者に対する意思決定支援が今後急務となる。しかし支援体制はまだ充足しているとはいえず,代理意思決定権の問題についても法的整備が追い付いていないのが現状である。認知症をはじめとする精神疾患患者を診断・治療し意思決定を支援することは,これからの精神科医の役割として重要である。
著者
福榮 太郎 福榮 みか 石束 嘉和
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.55-62, 2013-01-15 (Released:2016-08-31)
参考文献数
21

Japanese Adult Reading Test(JART)は,認知機能障害のある被験者の病前の推定IQを測定する標準化された認知機能検査である。しかし臨床現場でJARTを使用していると,認知機能障害の進行とともにJARTの算出する推定IQも低下する印象を受ける。そこで本研究では,認知機能障害の程度と短縮版であるJART25の値との関連について検討する。またJART25と認知機能検査の下位項目について検討を行い,JART25と関連のある認知機能について検討を行う。もの忘れ外来を受診した828名を対象に,MMSEおよびHDS-RとJARTの関連を検討したところ,MMSEおよびHDS-Rの低値とJARTの低値に関連がみられた。またMMSE,HDS-Rの下位項目とJARTとの関連を検討した。その結果,JART25は,見当識,記憶,理解,遂行機能といった認知機能とは関連が弱く,注意,言語機能,数概念といった認知機能と強い関連を示した。以上の結果から,JART25の解釈に関しては一定の注意が必要であることが示唆された。
著者
野間 俊一
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.122-129, 2014-04-15 (Released:2017-06-03)
参考文献数
5

摂食障害治療にはさまざまな困難が伴う。摂食障害は栄養障害に対する身体管理を行う必要があるため,一般の精神科医から敬遠される傾向があるが,身体管理を最寄りの内科医に委ねることで精神科医の負担はずいぶん軽減するはずである。摂食障害に対して提唱されている複数の治療法の選択は難しいが,パーソナリティ傾向によって「反応・葛藤型」「固執型」「衝動型」に,症状発現の段階によって「急性期」「亜急性期」「慢性期」に分類することで,タイプと病期を目安にして治療法を選択することができる。摂食障害患者は一見病識を欠き治療意欲が乏しいと思われるが,それは彼らの自己愛のテーマとこの病気の嗜癖性のためである。彼らの自己愛を理解しつつ嗜癖としての食行動異常を安心して手放すことができるよう導くことが求められる。摂食障害治療では,身体面を含む現実状況へ配慮しつつ,彼らに安心を与える良好な治療関係を確立することが重要である。
著者
山田 了士
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.27-34, 2011-01-15 (Released:2014-10-11)
参考文献数
43
被引用文献数
1

近年の精神科医にとって,てんかんは徐々にその守備範囲から外れつつある。しかしてんかんをもつ患者において,不安・抑うつや幻覚妄想などの精神症状はかなり高い頻度で合併し,その生活の質にとって最も重要な臨床因子の一つである。自殺もまた,てんかんをもつ患者で頻度が高いことを考えると,精神症状を丁寧にスクリーニングし,治療することの意義は大きい。このように,てんかんの診療において精神科医の果たすべき役割は非常に大きいが,てんかんに伴う精神症状をよく理解している精神科医は必ずしも多くないと思われる。本稿ではてんかん自体に併発する精神症状や,抗てんかん薬などの治療によって惹起される精神症状について概説し,てんかん診療に重要な役割をもつと考えられる総合病院精神科医の理解を得たい。
著者
筒井 幸 神林 崇 田中 恵子 朴 秀賢 伊東 若子 徳永 純 森 朱音 菱川 泰夫 清水 徹男 西野 精治
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.40-50, 2012-01-15 (Released:2015-08-26)
参考文献数
42

近年,統合失調症の初発を想定させる精神症状やジスキネジア,けいれん発作,自律神経症状や中枢性の呼吸抑制,意識障害などの多彩な症状を呈する抗NMDA(N-メチルD-アスパラギン酸)受容体抗体に関連した脳炎(以下,抗NMDA受容体脳炎と略する)の存在が広く認められるようになってきている。若年女性に多く,卵巣奇形腫を伴う頻度が比較的高いとされている。われわれは合計10例の抗NMDA受容体抗体陽性例を経験し,これを3群に分類した。3例は比較的典型的な抗NMDA受容体脳炎の経過をたどり,免疫治療が奏効した。他の7例のうち3例は,オレキシン欠損型のナルコレプシーに難治性の精神症状を合併しており,抗精神病薬を使用されていた。また,残り4例に関しては,身体症状はほとんど目立たず,ほぼ精神症状のみを呈しており,病像が非定型であったり薬剤抵抗性と判断されm-ECTが施行され,これが奏効した。
著者
小澤 いぶき 宮崎 健祐 田中 哲 市川 宏伸 黒田 安計
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.222-229, 2012-07-15 (Released:2016-05-29)
参考文献数
10

背景:東京都立小児総合医療センタ-児童・思春期精神科(以下当科)は,2010年3月の開院後より小児精神科救急を導入している。今回,診療開始から1年間に当科へ緊急入院した患者の統計および,そのなかで身体合併症治療目的に緊急入院となった患者の統計を集計したので報告する。対象と方法:2010年3月から2011年3月までの1年間に,当科へ緊急入院した患者について診療録に基づき統計をとり,そのなかから身体合併症目的に入院した患者について検討した。診断にはICD-10を用いた。結果:開院後1年間で当科に緊急入院した患者総数は122名で,診断としては統合失調症が最も多く,次いで多かったのが発達障害圏であった。このうち,身体合併症治療目的での緊急入院は6名であった。考察:統合失調症に次いで多かった発達障害圏の患者の入院治療は,その特性理解と,それをふまえた対応が求められる。小児精神科の緊急入院が可能な医療機関が限られているなか,そのような患者の身体合併症治療における当科の役割および,他科,他院や関係機関との連携についての検討を行った。
著者
池本 桂子 駒沢 大輔 村尾 亮子 小山 敦
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.143-147, 2011-04-15 (Released:2015-04-02)
参考文献数
4

2011年3月11日の東日本大震災後の3カ月間に,第一原子力発電所に最も近い中核総合病院である,いわき市立総合磐城共立病院(819床)の3次救命救急センターを受診後入院し,リエゾン科にコンサルトされた自殺企図症例11例(男性2例,女性9例)の臨床像を検討した。女性症例が男性の4.5倍を占め,年齢的には20歳代が6例と半数を占めた。神経症圏の20歳代女性の過量服薬(急性医薬品中毒)と自傷が多く(4例),中高齢者のケース(3例)では,縊頸・農薬服毒など成功率の高い手段が用いられていた。関連する状況と要因は,過労と家庭内トラブルの表面化(4例),異性間の問題(3例),飲酒(3例),農業・自営業の先行きと放射能への不安(3例),不眠の長期化と抑うつ(3例),不安障害・心的外傷後ストレス障害の再燃・発症(3例)など,多岐にわたっていた。昨年同時期と比較すると,自殺企図による同センター受診例は,女性の急性医薬品中毒がいずれも最多であり,既遂自殺者は,男性は1例と変化がなかったが,女性は0から4例に増加していた。
著者
木村 哲也
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.155-161, 2012-04-15 (Released:2015-12-16)
参考文献数
8

がんの終末期において治療的介入に抵抗し,自殺企図を認めた1例について報告し,終末期がん患者への精神療法的接近について考察した。本症例は,心理的な介入に対する抵抗感が強く,せん妄による意識障害の存在,十分な予後告知がなされない状況での治療などといったさまざまな要因のため,精神症状のコントロールがうまくいかず,対応に難渋した。しかし,治療者が患者の苦悩を重層的に深く理解しようと努め,変化してゆく精神症状や身体状況を正確に評価し,その時々で適切な支持的介入を粘り強く続けることによって,患者の精神症状は落ち着き,最期を迎えた。終末期医療において安定した治療構造の提供と,支持的精神療法を基盤とした深い理解を伴う共感的対応が,患者にとって支持的になると考えられた。
著者
中嶋 義文
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.114-121, 2013-04-15 (Released:2016-11-18)
参考文献数
2

無床精神科の常勤医ありの施設数は2013年5月の調査では260施設であり,2008〜2009年に底を打ったあと微増している。これは緩和ケアやサイコオンコロジーなどの活動への参加によるものと考えられている。施設の60%が常勤医1名である。50%で臨床心理士が雇用されていた。 66%で緩和ケアチーム活動があった。無床精神科医がいきいきと仕事をするためには業務を整理し,限られた時間を割り振ることで主体的に働き方を決める必要がある。多様性と持続可能性を重視した働き方が無床精神科を魅力的で働きやすい職場とし,無床精神科医の増加につながるだろう。
著者
木村 真人
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.2-10, 2011-01-15 (Released:2014-10-11)
参考文献数
31

わが国における脳卒中患者は,致死率の低下と高齢化に伴って増加を続けている。脳卒中後の後遺症として,うつとアパシーは非常に頻度が高く,脳卒中患者のQOLに大きな影響を及ぼす。精神症状を引き起こす病変部位や病態生理学的メカニズムについては,いまだに議論が続いている重要な課題である。脳卒中後うつ病の抗うつ薬治療によって,ADLや認知機能ばかりでなく,生存率までも改善させることが示されており,適切な診断と治療は非常に重要である。また,抑うつ心性を伴わないアパシーが本来のアパシーと考えられ,その場合には,SSRIのような抗うつ薬よりもドパミン作動薬などが有効であり,休養よりも活動的・行動療法的アプローチが必要になる。今後,脳卒中後患者に対してはチーム医療による対応とともに,適切なケアと援助を提供できるような地域ネットワークの構築が望まれる。
著者
中野 有美
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.364-369, 2011-10-15 (Released:2015-06-24)
参考文献数
25

妊娠中および妊娠前後,もしくは近々妊娠の可能性がある女性の抑うつ/不安に薬物療法は使用しにくい。したがって,彼女らは認知行動療法を含む精神療法の有用性が高い集団と考えられる。 原因不明の反復流産の患者に対し,産婦人科領域では,簡便な情緒的サポートが患者の抑うつ/不安の軽減のみならず,出産率を向上させるであろう点を指摘している。一方で,それだけでは抑うつ/不安の改善に至らない反復流産の患者には,高強度認知行動療法など時間をかけたマンツーマンの精神的援助が必要となる。本稿では,流産,反復流産の患者の精神疾患罹病率について概観した後,認知行動療法を含む精神的支援について,これまでの調査研究と名古屋市立大学病院での試みをもとに論じた。
著者
松岡 豊 西 大輔
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.25-32, 2012-01-15 (Released:2015-08-26)
参考文献数
34
被引用文献数
1

レジリエンスを「かなりの逆境にもかかわらず,はね返す,またはうまく対処する能力」と定義した。魚油には,エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸というω3系脂肪酸が豊富に含まれる。ω3系脂肪酸は脳内リン脂質成分の30%を占め,膜の維持,神経活動,神経可塑性などに大きな影響をもつ。先行研究より,うつ病の病因にω3系脂肪酸不足が関与している可能性が提唱されている。総合病院精神科では,さまざまな身体疾患患者,妊娠中の女性,外傷患者などに生じるストレス関連精神疾患への対応が求められることが多い。こうした患者に対しては,安全性,易実施性,易受容性の観点から,食生活への介入もレジリエンス向上の選択肢として考慮に入れることができる。うつ病とω3系脂肪酸に関する疫学研究・臨床研究,さらには健常者における介入研究,総合病院における臨床試験の経験などを紹介し,ω3系脂肪酸に秘められた可能性について提案した。
著者
林 公輔
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.154-160, 2014-04-15 (Released:2017-06-03)
参考文献数
7

神経性無食欲症の治療は困難である。心理的・身体的なアプローチが必要であるが,治療に協力的ではない患者も少なくない。症例Aは40歳代の女性であり,入院時のBMIは9.04kg/m2であった。病棟ルールは守らず,経験の浅いスタッフには高圧的に振る舞った。退院のめどは立たず,私たちの援助はすべて拒否されているように感じられ,チームは疲弊していった。難治例の治療では,治療者が他のスタッフに援助を求められずに孤立してしまうことがある。そうならないためには,多職種によるカンファレンスなど,誰かに相談する機会を定期的にもつことが役に立つ。また,チームの限界について患者と率直に話し合うことも重要である。これは,彼女たちの中にある健康な自己と手を結ぼうとする試みでもある。結果としてA は転院したが,治療は継続した。難治例の治療においては,退院以外にもさまざまな選択肢について考えられる柔軟な思考が求められる。