著者
児玉 一八
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.301-308, 2007-07-25
参考文献数
25
被引用文献数
1

2007年能登半島地震により,石川県内では輪島市,七尾市,志賀町,穴水町などで1人が亡くなり, 318人が重軽傷を負った.強い揺れで多くの家屋が倒壊した地域では,医療機関でも断水や医療機器の損壊,建物への亀裂や損傷など多岐にわたる被害が出た.断水のために透析ができなくなり,金沢市などの医療機関が患者を受け入れた.地震直後から,火傷や打撲などで被災者が医療機関を受診する一方で,地域の医師をはじめ多くの医療労働者が避難所を巡回するなどして,被災者の健康管理のために尽力した.石川県内外から被災地に駆けつけた多くの支援医療チームも,被災地での医療活動とともに,ニーズの聞き取りなど多様な活動を行った.自宅の倒壊や落石の危険などで,ピーク時には2637人が47ヶ所の避難所で生活したが,プライバシーが確保されないことや,ノロウイルス感染による胃腸炎などの感染性疾患の発生など,さまざまな問題が発生した.避難所では,洋式トイレが設置されていないことなど,高齢者や障害者にとって改善が急務となる課題も少なくなかった.輪島市では,ピーク時には百人近くの小中学生が自宅以外での生活を余儀なくされ,地震の前とは著しく異なる症状が確認された.心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症も危惧され,長期にわたるフォローが必要となっている.地震に対する対応は,被害に対する緊急対策から震災前の生活に戻るため復旧に移ってきている.今回の地震で大きな被害をうけた地域は,過疎や地場産業の衰退などで多大な困難をかかえた地域である.地震に伴う被害は,こうした地域によりいっそうの苦労を強いるものにほかならない.これからの長い復旧・復興の道のりの中では,仮設住居や住宅再建,営業の再開などの多くの苦難が待ち受けている.被災者の方々の苦しみをできるだけ低減するために,医療分野でも社会的な仕組みづくりをはじめ,長期的な復興支援をすすめていく必要があると考える.