著者
児玉 大成
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.12, no.20, pp.25-45, 2005-10-20 (Released:2009-02-16)
参考文献数
113

ベンガラは,褐鉄鉱または赤鉄鉱から得る方法があり,一部は後期旧石器時代より確立された技術として生産された。縄文時代のベンガラ生産は,原料を粉砕,磨り潰されるところまでは理解されているものの,きめ細かく均一的な粒子を得るための調製方法については未解明な部分が多い。北海道南部から東北北部に形成される亀ヶ岡文化の遺跡では,赤鉄鉱の出土が目立ち,宇鉄遺跡においては2,300点,約65kgもの赤鉄鉱とベンガラ付着石器や土器が数多く出土している。小稿では,宇鉄遺跡の赤色顔料関連資料の分析と顔料の製造実験を通して実証的なベンガラ生産の復元を試みた。その結果,赤鉄鉱を叩き割りして頁岩部分とコークス状部分とを分離させ,次にコークス状の赤鉄鉱のみを粉砕し,さらに磨り潰したものを水簸による比重選鉱を行い,赤色の懸濁液を土器で煮沸製粉していたことが明らかとなった。このような煮沸製粉法によるベンガラ生産では,均一的な微粒子粉末を得ることができ,より多量な生産を容易に可能とする。こうした技術を必要とした背景には,亀ヶ岡文化が多様な赤彩遺物を増大させたことと密接に関係するものと考えられる。