著者
児玉 高有 阿部 貴恵 兼平 孝 森田 学 舩橋 誠
出版者
北海道歯学会
雑誌
北海道歯学雑誌 (ISSN:09147063)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.52-61, 2010-12-15

近年,唾液中のアミラーゼ,コルチゾール,クロモグラニンAをストレスマーカーとして用いることが注目されている.しかし,これらの物質の経時的動態変化については不明な点が多い.そこで生体への刺激に対する唾液中のストレスマーカーの変動を定量し,その動態について調べた.さらに,これを歯科治療の術中や予後の評価に応用出来るかどうかについて検討を行った.外科的,内科的疾患のない成人男性61名から任意の時期に唾液採取管を用いて唾液を採取した.これらの被験者は,1)前腕肘部の静脈から真空採血管と注射針を用いて採血を行った者(30名),2)抜歯を施術した者(5名),3)抜歯を伴わない一般的な歯科治療のみを施術した者(26名)がいた.各被験者群において,採血前後および施術前後の唾液中のアミラーゼ,コルチゾール,クロモグラニンAの変動比の経時変化を分析した.アミラーゼとクロモグラニンAは採血前の時点においてすでに有意な増加を示し,心理的ストレスに対して反応することが示唆された.被験者は採血前の基準日におけるストレスマーカー量について高濃度群と低濃度群に大別された.このうち高濃度群は低濃度群と比べて,すべての上記ストレスマーカーの変動が少なく,ストレス応答系の活動が高まりにくい可能性が示唆された.歯科治療を行った場合,アミラーゼとコルチゾール濃度は初診時に比べ再診時には有意な低下を認め,また抜歯による有意な増加が観察された.これらの結果は,初診時の不安や恐怖が再診時には緩和されることによりストレスが減少したことを示し,一方,抜歯は強いストレスとして作用したことを示していると考えられた.本研究により唾液中のアミラーゼ,コルチゾール,クロモグラニンAは採血によるストレスに対してそれぞれ反応速度が異なり,さらにその変化率はもともとの唾液中ストレスマーカー量が多いか少ないかによって異なることが明らかとなった.また,これらのストレスマーカーは歯科治療の内容や受診回数によって動態が変化し,歯科治療の術中や予後の評価に応用出来ることが示された.