著者
八坂 通泰
出版者
北海道立林業試験場
巻号頁・発行日
pp.1-44, 2007 (Released:2011-03-05)

森林植物の多様性を保全するためには、各種の繁殖特性の解明は重要である。開花結実、種子分散などの植物の繁殖ステージは、植物個体群を増殖させるステージであるだけでなく、花や種子は、昆虫、鳥、動物の重要な食物源となっている。さらに、樹木の種子生産の年変動についての情報は、多様な森林の再生を植栽や天然更新により図る場合においても欠かせない。そこで本研究は、森林植物の開花結実特性、特に種子生産における時空間的変動パターンや花粉媒介昆虫の重要性などについて解明し、林冠構成種の多様性の再生や森林植物の多様性の維持など森林植物の保全管理に貢献することを目的とした。種子生産の変動パターンの生物学的な理解や、種子採取・天然更新作業の効率的な実施のためには、種子生産の個体レベルでの分析が必要である。北海道に生育する落葉広葉樹11種を対象に個体単位で結実調査を行い、種子生産の年度間および個体間の変動パターンについて解明した。花や種子の年変動パターンが、長期の間隔をおいて個体間で同調する場合をマスティングといい、その適応的な有利性を説明する仮説の1つが捕食者飽食仮説である。マスティングを示す代表種であるブナについて、開花雌花数の年変動を変動係数で評価するとともに、捕食者飽食が生じる開花パターンについて検討した。さらに、捕食者飽食戦略を応用したブナ林再生のための結実予測技術を開発した。虫媒植物と花粉媒介昆虫との相互作用は、生育環境の破壊や分断化、農薬など化学物質による汚染、外来種の侵入などにより危機的な状態にある。北海道に自生する樹木16種、草本16種について、花粉媒介昆虫の不足が起きたときの種子生産低下の可能性を明らかにするため、花粉媒介昆虫を排除する袋掛け実験を行い、各種がどの程度その種子生産を花粉媒介昆虫に依存しているかについて明らかにした。生息地の分断化は、森林生物の生息を脅かすだけでなく、様々な生物間相互作用を崩壊させる恐れがある。花粉媒介昆虫の減少をもたらす要因として森林の分断化に焦点を当て、住宅地や農地によって分断化された森林で、花粉媒介昆虫への依存度が高い林床植物3種の結実率を調べ、種子生産に及ぼす生息地の分断化の影響を評価した。
著者
今 博計 渡辺 一郎 八坂 通泰
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.395-400, 2007 (Released:2008-08-27)
参考文献数
31
被引用文献数
7 8

トドマツ人工林を多様な広葉樹を含む針広混交林へと誘導する施業法を検討するため,間伐後8∼11年経過した39年生の間伐林分と28年生の無間伐林分において下層植生を調べた。間伐は3段階の異なる強度の列状間伐(1伐4残,2伐3残,3伐2残)を行った。間伐後の林内の相対光合成有効光量子束密度は,間伐強度が強くなるにしたがって明るくなる傾向があった。高木性・亜高木性広葉樹の種の豊富さと個体数は,無間伐区に比べ間伐区で高かったが,間伐区間では間伐強度が強いほど,個体数が少なくなる傾向があった。低木類と草本類の最大植生高と植被率は,間伐強度が強くなるにしたがい増加していた。2伐3残区と3伐2残区では,ウド,アキタブキなどの大型草本の回復が著しく,多くの高木性・亜高木性広葉樹はこれらの草本類により覆われていた。しかし,2伐3残区と3伐2残区では,大型草本の被圧を抜け出した樹高1 m以上の広葉樹が11種あり,その個体数は1 ha当たり2,500∼3,750本存在していたことから,十分な数の更新木が確保できたと考えられた。したがって,間伐によって,トドマツ人工林を多様な広葉樹を含む針広混交林へと誘導することが可能であり,間伐には誘導伐の効果を併せもつことが示された。