著者
八塚 春名
出版者
日本アフリカ学会
雑誌
アフリカ研究 (ISSN:00654140)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.92, pp.27-41, 2017-12-31 (Released:2018-12-31)
参考文献数
22

タンザニア北部に居住するハッザの狩猟採集生活は,1990年代以降,観光の対象になってきた。観光客はハッザの居住キャンプを訪れ,ハッザと狩猟に行き,射的やダンスを体験し,手作りのみやげものを購入する。ハッザは,入村料と個人のみやげものの売り上げという2種類の収入を得る。本稿では,ハッザが観光とどのように付き合っているのかを考察するために,他民族との関係,個人の移動,みやげもの販売に伴う収入の個人差の3点に焦点を当てて,観光を含むハッザの生活を包括的に分析する。ハッザに関する先行研究のなかで,観光はハッザに対してネガティブな影響をもたらすものだと評価されてきた。しかし本稿では,観光収入によって他民族とのあいだに新しい関係性がつくられていること,個人が頻繁な移動を広域に繰り返すことによって,観光への接続や観光からの離脱を自由に選択していること,みやげものの売り上げには個人差が生じているが,収入の多くは酒のような消えモノの購入に使われ,居合わせる全員で消費されていることが明らかになった。ハッザは観光に対して過度な期待をしておらず,観光は複数ある生計手段の選択肢のひとつとして捉える態度こそ,ハッザの観光との関わりの根幹をなすと考察した。