著者
八木 崇行 冨田 昌夫
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.25, pp.160, 2009

【目的】<BR> 人の身体は,内骨格形構造をしており,安定のために働く深層筋と動作のために働く表層筋が機能的に分化して活動することで安定性と可動性,2つの矛盾した要求を満たす.今回,"脊柱の深層筋が活性化されれば,全身的な表在筋の余分な力が抜け,感受性が高まって姿勢制御の能力も改善する"という仮説を立てた.そして,アンバランスになった表在筋の緊張に対する頚部から脊柱を小さく揺する治療の効果について,重心動揺計を用い,従来の評価(面積,総軌跡長など)と非線系解析の一種である再帰性定量化分析:RQAから定量的に評価した.<BR>【方法】<BR> 健常成人を対象とし,(1)揺すり群5名,(2)対照群5名の2群に分けた.重心動揺計(メディキャプチャーズ社製Win Pod)上,立位にて15秒間動揺を計測した.計測は1:開眼立位,2:前方250cmの位置に置いた構造物を見る,3:構造物に貼った文章を読むの3種類とした.そして,従来の評価に加え,RQAにて分析し,介入前後で比較した.尚,本研究は当院倫理委員会の承認を受けて実施した.<BR>【結果】<BR> 揺すり群では,面積は計測2:140→105mm<SUP>2</SUP>,計測3:125→86mm<SUP>2</SUP>,総軌跡長は計測2:143→110mm,計測3:175→133mmと減少傾向が認められた.また,RQAでは,特に計測3左右方向において,系の安定性を示す再帰率(0.6→2%)や決定率(90→96%),系の複雑さを示すエントロピー(1.8→2.3)が上昇する傾向が認められた.一方,対照群の計測2では,面積189→187mm<SUP>2</SUP>,総軌跡長121→143mmと変化が少なく,RQAでも変化は少なかった.<BR>【考察】<BR> 揺すり群で軌跡長や面積が減少し,再帰率と決定率が増加する傾向がみられた.これは,揺すりにより立位姿勢が動揺の少ない安定した状態に変化し,環境から情報が得やすくなること,目的動作に適応しやすくなることを示すものと考える.さらに,エントロピーが増加していることから,単に安定するのではなく,複雑に動きながら安定していることも示唆された.今後,対象を増やしこの傾向を更に追求する.