著者
福本 久人 田端 吉彦 岡本 美幸 筧 重和
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【目的】 </b>近年、高校卒業後の入学生における文章読解能力や文章表現能力の低下が著しい状況がある。文章読解能力の低下により、漢字が読めない、教科書や文献の内容について理解できないことが起き、定期試験の不合格や留年、もしくは退学につながるケースも少なくない。また、臨床実習においてはレポート作成や症例報告書の作成などの機会が設けられるが、その作成に膨大な時間を費やしたり作成自体ができないこともある。このような事に対応するため、当校では入学後コラムなどを用いて文章読解能力や文章表現能力の向上を試みているので報告する。<br><b>【方法】 </b>対象は、理学療法学科1年生40名とした。方法は、新聞のコラムを使用して行っている。最初の段階として、コラムを書き写すことからはじめ、次に語彙調べおよび文章内容の段落分けを行わせ、コラム内容についての理解度の向上に取り組んだ。最終段階として、文章内容の要約とタイトル設定を指示した。特に文字制限は設けないものの内容の理解度および文章表現の適切化についての指導を行っている。頻度としては、週に3回より開始し5回を限度として行っている。<br><b>【結果】 </b>最初の文章を書き写す段階では、書き写すだけでも非常に時間がかかる学生や誤字脱字が多い学生も見られた。しかし、これは繰り返し行うことで徐々に改善が見られた。次の内容についての理解の文書化については、何を書いてよいのかわからない、コラムの書き写しになってしまう、など多くの学生が文章化できない状況であった。個別に指導を行うことで改善されていったが、問題として非常に膨大な時間を費やさないとできないことであった。内容を理解するために必要な時間、理解した内容を文章表現化するための時間は、指導を繰り返す中でも改善されないケースも見られた。<br><b>【考察】 </b>高校までの教育課程の中で、コラム程度の文字数であっても文章を読む機会が少ないこと、内容を理解し文章化する機会が少ないことが影響しているのではないかと考える。また、携帯電話の普及や電子メールの普及により、他者とのコミュニケーションをはかる機会が少なくなっていることも原因の1つではないかと考える。電子メールなどでは、いわゆる略語や絵文字が乱用されており、時・所・場合に応じた適切な表現や言葉をしようされることがないため、電子メールの活用によって文章表現能力の向上にはつながっていかないと考える。<br><b>【まとめ】 </b>今回、入学生に対し文章読解能力および文章表現能力の向上を目的に、コラム課題を実施した。文章を読む、文章を書く事を習慣化させることで、一定の改善傾向はみられた。今後の課題としては、より有効な方法へと更に検討が必要ではないかと考える。<br> 本発表を行うにあたり、あいち福祉医療専門学校倫理委員会の承認を得ている。
著者
渡邊 祥子 菊池 和也 内田 成男 宮下 正好
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.26, pp.122, 2010

【はじめに】GPA(Grade Point Average)制度を導入している日本の大学では,GPAが2.0未満であると指導強化や留年,退学勧告がなされる.本校理学療法学科においてもGPAが,進級や卒業判定の参考資料になるのではと考え試験的に導入している.今回2年終了時の通算GPAと,臨床実習や3年次定期試験との関連性について若干の知見を得たので報告する.<BR>【対象】本校の平成21年度卒業生(3期生)49名中,在籍期間3年で卒業し紙面にて本調査への理解と同意を得られた31名(男性21名,女性10名)を対象とした.卒業時の平均年齢は23.4±4.7歳であった.<BR>【方法】3年次の臨床実習にて複数回の実習地訪問が必要だった学生及び最終評定(本校算定基準に基づき学校側で評定)がCであった学生(以下実習群)と,そうでなかった学生(以下実習可群).卒業判定の基準となる最終学年次定期試験が1科目でも6割を満たさなかった学生(以下試験群)と,そうでなかった学生(以下試験可群)に分けた.GPAは成績評定のAを4,Bを3,Cを2,再試験にて合格したCを1として算出した.また2年次までの成績を基礎分野(心理学など),専門基礎分野(解剖学など),専門分野講義(評価学など),専門分野実習(評価学実習など)の4分野に分けて算出した.3年次の状況,科目分野を二次元配置分散分析と多重比較を用いて、有意水準5%にて検討した.<BR>【結果】3年次定期試験は状況の主効果,科目分野の主効果ともに有意な差が認められたが、交互作用は認められなかった.臨床実習では2つの主効果および交互作用すべて有意差が認められなかった.2年通算GPAは試験群2.52±0.26,試験可群3.09±0.43,実習群2.63±0.24,実習可群3.04±0.47であった.<BR>【考察】3年次定期試験はGPAが関係しているが,臨床実習はGPAだけではなく他の要因も関係すると思われる.しかしながら3年次問題なく遂行できるためには,それまでのGPA3.0以上が目安になるのではないかと考える.今後は対象者を増やし,GPAと臨床実習,最終試験との相関性を調査したい.
著者
小澤 純一 中村 友美 塚谷 桐子 山田 汐里 堀 裕一 小林 義文 高島 浩昭 竹内 ゆかり 宮崎 昌代 田中 和徳 三村 夏代 恩田 めぐみ 杉下 泰明
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.27, pp.159, 2011

【目的】<BR> 脳血管障害,腫瘍,変性疾患などによる小脳障害患者は,その病巣部位により上下肢運動の協調性の欠如,立位・座位・起立歩行障害,姿勢調整障害,眼球運動障害,構音障害などがみられる.近年,新しい小脳性運動失調の評価スケールとしてSchmitz-Hubschらにより,Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下,SARA)が提唱された.その信頼性について,International Cooperative Ataxia Rating Scale(以下,ICARS)やBarthel index(以下,BI)等との有意な相関が報告されている.<BR> 日本においても,厚生労働省難治性疾患克服研究事業「運動失調に関する調査研究班」において日本語版SARAが作成された.SARAは全8項目(歩行,立位,坐位,言語障害,指追い試験,鼻指試験,手の回内回外運動,踵すね試験)から構成された簡便な評価スケールであり,評価者内,評価者間共に高い信頼性や内的整合性が報告されている.<BR> 今回,SARAと歩行に関連した機能的バランスとの関連性について検証し,理学療法評価法としての信頼性・妥当性について検討した.<BR>【方法】<BR> 対象は,平成21年4月から平成22年3月の間に当院に入院し,理学療法を実施した小脳性運動失調の患者である.認知症および高次機能障害などにより,検査実施に支障のある患者は除外した.また,対象者に対しては,事前に目的や方法等の研究内容について説明し,同意を得た上で行った.<BR> カルテより基本情報(年齢,性別,疾患名等),小脳性運動失調の重症度評価スケールとしてSARAを使用して評価を行った.あわせて,ADL評価としてBI,歩行関連の機能的バランステストとして10m最大歩行速度(以下,10m歩行),Timed up and go test(以下TUGT)と重心動揺解析システムG‐6100(アニマ社製)を使用してつま先接地足踏みテスト(Toe-touch gait test,以下足踏みテスト)を実施した.<BR> 統計処理は,SPSSVer.15.0を使用し,SARAと各評価項目との相関についてはスピアマン順位相関係数により検討した.統計学的有意水準は5%とした.<BR>【結果】<BR> 対象者数は,30名(平均年齢62.7±12.5歳,男性26名,女性4名)であり,小脳梗塞28名,小脳出血2名であった.発症より検査日までの経過期間は28.77 ±27.10日であった.SARAスコアは6.53±2.43点 ,BIは86.83±10.95点,TUGT15.41±4.36sec,10m歩行8.58±2.06secであった.足踏みテストは,総軌跡長:276.43±78.23cm,単位時間軌跡長:27.66±7.84cm/sec,単位面積軌跡長:4.66±1.37cm,外周面積:66.47±31.13cm)cm<SUP>2</SUP>であった.<BR> SARAスコアと各変数間の相関はBIでは弱い相関(r=-0.42)であったが,TUGT(r=0.53)と10m歩行(r=0.57)では比較的強い相関であった.また,足踏みテストの各指標(総軌跡長:r=‐0.26,単位時間軌跡長:r=‐0.25,単位面積軌跡長:r=‐0.1,外周面積:r=‐0.1)との間では,有意な相関は認められなかった.<BR>【考察】<BR> 小脳性運動失調の総合的な評価法として,SARAは半定量的な評価が可能であり,重症度や治療効果の判定に有用なツールである.評価手法も,一般的な神経学的評価手技を用いているため,同一評価者内および評価者間での評価のばらつきが少ないことが報告されている.また,ICARSの評価項目が19項目であるのと比較するとSARAは8項目と少なく,臨床的にも簡便に使用可能な評価尺度といえる.今回,SARAと歩行に関連した機能的バランスとの間で比較的強い相関が認められた事から,基準関連妥当性の一部が確認され,理学療法評価尺度として有用であると考えられた.しかし,BIや足踏みテストについては低い相関しか確認できなかった.BIに関しては,今回の対照群がある程度の立位・歩行が可能な比較的重症度の軽い対象者を多く含んでいたためとも考えられる.足踏みテストについては,各対象者の歩行の際の姿勢調整機構の特徴を足底圧中心のみの評価ではとらえきれないためと考えられた.<BR>【まとめ】<BR> 本研究において,歩行に関連した機能的バランスとSARAとの間で,比較的強い相関が一部確認されたことから,小脳性運動失調患者の重症度把握や理学療法の治療効果の判定等の評価手法として有用であることが示唆された.
著者
小長野 豊 江西 一成 井戸 尚則
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.26, pp.85, 2010

【はじめに】今回,受傷後6年間経過し積極性の乏しい頚髄損傷者の理学療法を経験し,いくつかの知見を得たので報告する.【症例紹介】31歳男性,頚髄損傷・両大転子部褥瘡の診断名で,家族関係は疎遠であった.入院までの経過は,平成15年6月4日受傷し,C4~6前方固定術後,リハビリテーション(以下,リハビリ)を受けたがADL全介助であった.平成18年1月より母親を介護者として自宅生活を送ったが,平成19年母親死亡により施設入所となる.しかし,問題行動で強制退所となり,同年11月民間病院へ入院した.その後,褥瘡発生したが,治癒を認めず平成21年7月23日当院へ転院した.【初期評価】第6頚髄損傷(AIS:A).上肢の残存筋筋力は肘伸展の1以外3~4レベル,ROMは股・膝関節に20~30度の屈曲拘縮を認めた.両大転子部の褥創は右7×6cm左5×4cm,左右ともに真皮まで達していた.ADLは食事と車いす移動以外全介助であった.【経過】理学療法は,褥瘡治療(ラップ療法)を優先しつつ,循環改善のため起立台による立位訓練,関節可動域,筋力増強訓練を行った.しかし,当初は本症例・PTともに,明確な目標と理学療法内容に確信を持てずに積極的なリハビリを行えなかった.その後、旧知の頚損患者との接触,頸損者の動作映像の参照,独り暮らし実現へのスタッフの積極的関与などから,リハビリに前向きとなった.その結果,リハビリでは約2ヶ月目にROM,筋力,耐久性の向上を認め,いざり動作,座位バランス訓練が可能となった.この頃より,本症例・PTともに移乗動作獲得を明確に意識したリハビリを行い,約4カ月目にいざり動作,約6カ月目に移乗動作が可能となった.約8カ月目,医療相談員との協働によって介護付き賃貸住宅へ退院した.【まとめ】本症例では,基本的理学療法に加え,当事者間共通の目標設定を持てたことが功を奏したと考えられた.
著者
鈴木 琢也 小口 和代
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.24, pp.P032, 2008

【目的】近年,脳卒中患者の歩行の獲得に部分免荷トレッドミル歩行訓練(以下,BWSTT)が注目されている.しかし,BWSTT後の即時効果の報告は少ない.療養病床入院リハ中の発症後5ヶ月の重度脳卒中患者にBWSTTを施行し,訓練前後の歩行速度・歩行率・股関節伸展角度を検討した.<BR>【症例】64歳男性.脳底動脈閉塞による脳梗塞.Brunnstrom recovery stage test右上肢2・下肢2・手指2,左上肢5・下肢6・手指6.深部覚右上下肢重度鈍麻.FIM運動32点・認知30点・合計62点.<BR>【方法】BWSTTは懸荷モード12m/分で25m歩行を,5分間の休憩を挟んで2回実施した.実施前・直後・2日後に,5m平地歩行(左サイドケイン・右長下肢装具を使用し軽介助)を家庭用ハイビジョンデジタルビデオカメラ(Canon社製)で撮影した.計測の妥当性を検討するため,直後のみ三次元動作解析システムKinemaTracer(キッセイコムテック社製)で同時撮影した.歩行路の中央5歩分の右下肢イニシャルコンタクト時の左股関節伸展角度を検討した.マーカーをつけた腸骨稜と大転子の軸と大転子と膝関節外側上顆の軸で角度を計測した.統計学的処理にはANOVA(有意水準5%)を用いた.<BR>【結果】歩行速度は実施直前5.2m/分,直後5.3m/分,2日後6.5m/分.歩行率は実施前18.6歩/分,直後26.3歩/分,2日後27.4歩/分.股関節伸展角度は,実施前平均-3.6°,直後平均10.8°,2日後平均-3.8°で,直後に有意に増加していた(p<0.05).動作解析システムでの計測値でもほぼ同値であった.<BR>【考察】BWSTTについて寺西らは,膝折れや膝過伸展,股関節伸展不十分などによる歩行異常・不能症例に対して課題指向的歩行訓練実現を可能にすると述べている.多くの先行研究では,効果として歩行速度・歩行率増加が報告されている.本症例でも歩行速度・歩行率増加の効果は,2日後でも持続していた.一方で股関節伸展効果は即時的でキャリーオーバーしなかった.股関節伸展が増大した要因は,懸垂により体幹伸展を促せたことと,トレッドミルにより左下肢の踵からつま先へ重心移動がスムーズに行えたことが考えられた.以上よりBWSTTはアライメントへの効果より歩行周期への効果の方が持続的であることが推測された.<BR>【まとめ】重度脳卒中患者にBWSTTを施行し訓練効果を検討した.アライメントと歩行周期への効果を認め,後者はより持続的であった.動作解析装置のない環境でも,今回のように簡易な歩行評価項目なら,家庭用ビデオ撮影で十分検討が可能である.今後さらに慢性期・重度脳卒中症例にBWSTTを適用し,効果発現機序について検討したい.<BR>
著者
深澤 史朗 永井 素大 中村 公美
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.23, pp.O063, 2007

【はじめに】今回、心筋炎を発症し経皮的人工心肺補助装置(PCPS)装着後3日で離脱。しかし両下肢壊疽により両側大腿切断。その後臥床時に原因不明の左上肢麻痺(腕神経叢麻痺)や胆嚢炎を併発し車椅子でのADL自立獲得において難航した症例を経験させて頂いたので報告する。<BR>【症例、評価、経過】45歳女性。体重50kg。夫と義母の3人暮らし。子供なし。2005/3/26風邪症状で入院。心筋炎診断。3/27PCPS装着。4/13両下肢壊疽により切断。6/3BS訓練開始【1、断端 右40cm左5cm。2、MMT左上腕2~3左前腕2~3左手指2両下肢3。3、表在感覚は左手掌脱失。左前腕から手指は鈍麻。4、基本動作の寝返りは手摺を利用。起き上がり全介助。座位保持は骨盤後傾し全体に屈曲した姿勢で固定的に構える。前後左右への体重移動は不可能。5、ADL全て介助(FIM53点)。】6/14車椅子乗車。移乗全介助。座位バランスは左右移動時右側への移動が左に比べて範囲は大きい。前後への移動は骨盤前後傾によって調整可能。移乗は臀部挙上時軽介助。6/22胆嚢炎治療開始(絶食)。8/上旬食事再開。8/17カンファレンス(医療スタッフ、本人、家族)家屋見学。8/25プッシュアップ保持約2分可能。車椅子から床への移動は約10cm段差を3つ利用し、階段昇降式に可能。車椅子自走可能。9/2プッシュアップ段差越えは臀部より約20cmの段差が可能。車椅子からベッド移乗は監視。9/20毎週末外泊。10/21退院。<BR>【考察】訓練開始時は突然の両側大腿切断のため身体内部表像の変化に対応できなかった。座位時は、左上肢麻痺のため上肢を錘としてバランスコントロールができず、保護的利用も不可能。移動や移乗は全介助。又、胆嚢炎治療(絶食)のため疲れやすく、継続的訓練が困難。精神的にも今後への不安から落ち込んでいた。当時、本人は高齢な義母の負担を考えADL自立を熱望していた。そのため、本人や家族と相談を繰り返した結果、義足処方は体力面や安全面から先送り、車椅子ADL自立を退院時目標に設定し訓練を進めた。経過と共に左上肢麻痺は軽減したが動作遂行の妨げとなってしまった。そのため、バランス時の保護的利用やプッシュアップ動作獲得には多くの時間を要した。最終的に左上肢麻痺は残ったが、何とかプッシュアップ動作を獲得できた。<BR>車椅子座面の高さは、自宅キッチンや洗面台再利用と便座や階段昇降機座面への移乗労力軽減の両方から検討した結果40cmに設定。そして、訓練時車椅子から床移乗において台を作成して臀部から階段昇降する動作訓練に時間を割いた。結果、自宅で台やソファーを利用していつでもどこでも1人で移乗可能となり、浴室もスノコを階段状に設置して自立した入浴動作を獲得した。洗顔や排泄時の更衣動作等も安全で円滑に行い、全ての家事動作も自立。趣味の菓子作りにも成功。自宅内車椅子ADL自立を獲得できた。
著者
佐藤 武志 眞河 一裕 小田 知矢
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.27, pp.184, 2011

【はじめに】<BR>岡崎市民病院では2004年より理学療法士が糖尿病の運動療法に関わっている。2011年6月現在、2名の理学療法士が糖尿病療養指導士の資格を取得し、1名の受験希望者がいる。糖尿病の治療に運動療法は重要であるが、理学療法士が糖尿病の運動療法に積極的にかかわっている施設は少ない。そこで今回、これまでの運動療法への取り組みの内容を振り返り、糖尿病療養指導士養成に向けての取り組みについて報告する。<BR>【背景】<BR>理学療法士は糖尿病の運動療法に関して、多彩な症例に即応できる専門性を発揮することができる職種である。しかし、理学療法士が積極的に糖尿病の運動療法に関わるためには1)業務量のバランス、保険点数、糖尿病治療の利益の確保などの病院の経営面に対する課題、2)同僚や上司に対する職場での理解、病院内の他職種に対するアピールなど、理解者を得るための課題、3)糖尿病患者への効果的な指導や知識の向上などの個々のスキルアップに対する課題、4)モチベーションに対する問題など乗り越えなければならない様々な課題がある。<BR>【経過】<BR>当院では2004年に内分泌・糖尿病内科から糖尿病教育入院参加の依頼があり、8職種(医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士、社会福祉士、歯科衛生士)による糖尿病療養支援組織が設立された。糖尿病療養支援委員会の組織の一員として職場内での理解、院内での理解を深めながら運動指導業務に関わっていった。1)2004年には教育入院患者に対する糖尿病教室への参画と個別運動療法が開始された。2)2005年からは外来患者向けの勉強会である「糖尿病を学ぶつどい」へ参画した。3)2007年には生活習慣記録機(ライフコーダ)を使用しての運動指導を開始した。4)2008年には2名の理学療法士が糖尿病療養指導士の資格を取得した。また外来糖尿病指導室の開設に伴い、外来患者に対する運動指導を開始した。5)2009年には世界糖尿病デーの企画として自転車エルゴメーターの体験やベンチプレスの体験を行った。6)2010年には個別運動療法患者に対して高負荷なレジスタンストレーニングであるベンチプレスを用いた運動療法、屋外歩行を開始した。<BR>【現状】<BR>現在当院リハビリテーション室では糖尿病療養指導士の資格を取得した理学療法士2名と、受験希望者1名で糖尿病運動指導を行っている。数多くの糖尿病運動療法に対する取り組みが行えたのは、自職のみではなく、糖尿病療養支援委員会という院内の組織の一員として活動したことで、職場内の理解を深めるとともに、病院内における活動を通じてさらに認知されたことがあるのではないかと考える。2011年内分泌・糖尿病内科により「糖尿病療養指導士資格取得への手引き」と「糖尿病療養指導士養成プログラム」が作成され、配布された。これには糖尿病療養指導士資格取得希望者が経験を積みやすいような具体的な到達目標が掲げられ、他部局での療養指導も十分に経験できるような内容が盛り込まれている。「糖尿病療養指導士養成プログラム」が構築されたことでより実践に近い糖尿病療養指導の方法を希望者は学ぶことができる。<BR>【今後に向けて】<BR>糖尿病患者はますます増加し、糖尿病運動療法の重要性は高まると考えられる。その一方で業務量の増大も見込まれる。理学療法の業務は多岐にわたり各分野を経験することは重要で、他の疾患とのバランスも考慮する必要がある。多忙な環境の中で業務を行うには情熱も必要であるが、そのモチベーションを維持していくにはやはりマンパワーも必要である。その為にも運動指導の達成感や充実感を後進に伝え、糖尿病の運動指導が行える理学療法士を養成していきたいと考えている。
著者
辻 量平 杉原 奈津子 寺林 大史 森腰 恵 大下 裕夫 天岡 望 種村 廣巳
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【目的】 </b>がん患者に対するリハビリテーション(以下リハ)は多くの施設で提供され、がん拠点病院や緩和ケア病床、ホスピスでの活動も活発である。当院のような施設基準を有さない民間病院であっても、がん拠点病院の指導を受けながら、がん緩和ケアについてより質の高い医療とケアを提供できるかを模索することは大変重要なことである。今回、術中に腹膜播種などが確認できバイパスのみとなった切除不能がん患者に対し、周術期リハチームの方から、緩和ケアチームに対し予後も含めた情報提供を行い、周術期リハチームと緩和ケアチームがともに早期介入ができ、良好なかたちで在宅へ移行できた症例を経験したので、当院の今後の方針も含めて報告する。なお、ご本人・ご家族に本件の主旨を口頭および当院所定の文書で説明し、署名による同意を得た上で病院長の許可も頂いた。<br><b>【方法】 </b>症例は86歳男性。入院1か月前に食欲不振、嘔吐で近医受診し、当院紹介され、胃前庭部癌と診断され手術となった。手術1週間前のカンファランスにて手術方針や告知状況など情報を共有した。術前リハビリにより患者とのコミュニケーションを図り、患者が早い時期に在宅への移行を希望していることを知った。開腹の結果、腹膜播種が確認できたため、胃切除不能、胃空腸吻合に終わった。予後は3~6ヶ月との情報を得た。手術翌日に緩和ケアチームの早期介入を依頼した。<br><b>【結果】 </b>緩和ケアチームの早期介入によって術後の苦痛緩和が図れ、周術期リハは効果的に進んだ。術後の食欲不振、摂食障害は緩和ケアチームの一員である管理栄養士による食事相談や内容変更により術後第14病日には全量摂取可能となった。患者からの在宅復帰への強い希望もあり周術期リハの実施と緩和ケアチームとの連携により、高齢でしかも切除不能胃癌患者の術後としては比較的早い術後26病日に退院できた。なお地域連携の看護師やMSWによって術後19病日から退院や退院後調整が行われた。<br><b>【考察】 </b>当院では平成22年11月より緩和ケアチームが発足し、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、MSW、訪問看護師、理学療法士、作業療法士で構成されている。このような施設は少なくなく、がん緩和医療への質の高いリハの需要は高まっている。今回、進行胃癌患者に対し、術前からのリハを通してコミュニケーションがとれたこと、周術期に手術情報、予後情報、その他の患者情報をがん緩和ケアに携わる他職種と理学療法士とで共有でき、余命短い本患者が求める在宅へという希望を実現するため、早い時期から多職種が同じベクトルでそれぞれの専門職としての役割を果たすことで、患者の希望である早期在宅へ誘導でき、ひいては患者のQOLに益したものと考えられる。このような進行がん患者をケアするにあたり、それぞれの専門職でのチーム医療がいかに重要であるか痛感させられた1症例である。今後も本症例での経験を生かし、がん治療の早期から多職種が情報を共有することで、患者のQOLを高める実績づくりを行っていきたい。
著者
後藤 利明 山下 一朗 高木 章好 石井 智己
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.24, pp.P081, 2008

【はじめに】<BR>筋萎縮側索硬化症(以下ALS)は進行性の難病である.筋力低下の部位と程度、在宅生活であれば在宅での介護力の程度により、患者・家族に対する環境整備、補装具等が異なる.その為、チームでの適切な対応が重要となる.今回、訪問リハビリテーション(以下訪リハ)の経過の中で補装具を工夫したので報告する.<BR>【症例紹介】<BR>69歳 女性 家族構成:夫、長男、の3人暮し.現病歴:平成15年7月頃より頚部筋力低下.平成16年2月ALSと診断.平成18年~上肢筋力低下、球麻痺進行.平成19年1月胃瘻造設.6月痰がつまり呼吸停止、救急搬送され延命.気管切開、人工呼吸器管理となる.8月退院し在宅生活に入る.日中は主に夫、看護師、ヘルパーが介護.9月より週1回、訪リハ開始.<BR>【訪リハ開始からの経過】<BR>(平成19年9月)ADL:寝返り軽介助、入院時導入された頭頚部支持装具(体幹型)使用にて座位保持は体幹介助.起立・歩行は軽介助.リハビリの受け入れ良好で、特に離床・歩行へのモチベーションが高かった.そこで問題となったのは、入院中導入された補装具である.頭頚部の制動性は十分である.但し、拘束感・不快感が強く、着脱に2人の介助者を要し、体位変換が必要で時間を要する為、本人への身体負担もあり苦痛となっていた.そこで義肢装具士と相談し、頭頚部の制動性が十分で本人が装着時に不快感無く、1人の介助者で容易に着脱可能なものを模索した.胸郭に支持させることは呼吸運動の妨げとなることと、そこまでの制動性が不要であると評価し、頚椎カラーとした.材質:前部(発泡ポリエチレン・プラスチック)、後部(発泡ポリエチレン・綿).重量:80g.ベルクロでの2ヶ所の着脱とし、体位変換不要で1人の介助者で装着可能.(平成20年4月)ADLに大きな変化みられず.車椅子まで軽介助歩行、近所の公園に外出可能.座位1時間程度、楽に可能.1日1回は看護師、ご主人等が介助し離床、車椅子に移乗し座位で過ごされている.6月現在、筋力低下はみられているがADL は維持されている.<BR>【考察】<BR>ALSは言わずと知れた進行性の難病である.そして在宅で生活する方も少なくない.ALSという疾患の特徴から、より良い在宅生活を送る為には、個々の患者・家族に適した対応が適時に必要となる.離床し、歩行して座位で過ごすことは本症例の楽しみと希望である.それは残存能力を維持することだけではなく、何より大切なQOL向上に結びつくと考えられた.しかし導入されていた補装具は、それを補うことに不十分であった.今回、補装具導入に関して感じたことは、病院での介護力と在宅でのそれとは異なる、との意識が欠けた為、在宅に帰るケースであっても在宅生活が想定されていないと思われた.今回の経験では、導入時に在宅での実用性や家族の介護力をしっかりと把握した上で、家族・他職種との十分な連携と協力の重要性が認識された.
著者
鈴木 達也 岩堀 裕介 水谷 仁一 竹中 裕人 大家 紫 清水 俊介 矢澤 浩成 花村 浩克 筒井 求 伊藤 岳史
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.27, pp.48, 2011

【目的】投球動作による肩・肘障害の原因として,オーバーユース,コンディショニングの不良,不良な投球フォームなどがあげられる.我々は第7回肩の運動機能研究会において,wind-up phase(以下WU)での体幹後方傾斜と肘下がりとの関係を調査し,WUでの体幹後方傾斜とearly-cocking phase(以下EC)での肘下がりとの関係は示唆されたが,late-cocking phase(以下LC)での肘下がりとの関係は見られなかったことを報告した.今回,WUで体幹後方傾斜を認める選手に対し,その場で投球フォーム指導を行い体幹後方傾斜を修正し,投球フォームが即時的に変化するのかどうかを調査したので報告する.〈BR〉【対象】対象は,メディカルチェックを行い本研究に賛同し同意を得た肩・肘に愁訴のない中学生野球選手27名(平均年齢13.30±0.61歳)の中から,明らかにWUで体幹後方傾斜を認めた選手(以下WU体幹後方傾斜群)11名である.なお,11名は全員右投げである.〈BR〉【方法】方法は,CASIO社製デジタルカメラEX-FH25を用い,前方,側方,後方の3方向からハイスピードモードの動画で撮影した.frame rateは240fpsとし,18m先の相手に対し,セットポジションから全力投球で3球投げさせ(撮影1),デジタルカメラの映像から複数人で評価し3球とも明らかにWUで後方傾斜が確認された選手をWU体幹後方傾斜群として抽出した.次に,WU体幹後方傾斜群に対し言語教示と実技によりWUの後方傾斜を修正した状態で撮影1と同様の撮影方法で投球フォームを撮影した(撮影2).撮影と同時にBushnell社製スピードガンスピードスターVで球速も測定し,もっとも速い1球を分析対象とした.投球フォームの分析は撮影1,撮影2とも動画を静止画にして行った.投球フォームの評価項目は(1)ECでの投球側股関節屈曲不足,(2)FPでの体幹後方傾斜,(3)FPでの投球側肘下がり,(4)LCでの投球側肘下がりの有無である.それぞれの基準は(1)右手が最も下がった時点で膝関節と股関節が同程度に屈曲していなければ投球側股関節屈曲不足あり,(2)FPで地面からの垂線に対し,体幹が後方に傾斜していれば体幹後方傾斜あり,(3)FPで両肩峰を結ぶ線よりも投球側肘関節が下がっていれば肘下がりあり,(4)LCで両肩峰を結ぶ線よりも投球側肘関節が下がっていれば肘下がりありとした.撮影1と撮影2の静止画を比較し,(1)から(4)の項目が変化したのかどうかを,i)変化なし,ii)改善,iii)改悪の3項目に分類し,投球フォームの変化を確認した.〈BR〉【結果】WU体幹後方傾斜群の投球フォームの特徴として(1)EC股関節屈曲不足ありが11名中7名(63.6%),なしが4名(36.4%),(2)FPの体幹後方傾斜ありが11名中4名(36.4%),なしが7名(63.6%),(3)FP肘下がりありが11名中8名(72.7%),なしが3名(27.3%)(4)LC肘下がりありが11名中6名(54.5%),なしが5名(45.5%),であった.撮影1の投球フォームと撮影2の投球フォームを比較したところ,(1)EC股関節屈曲不足ありが7名中,変化なし4名(57.1%),改善3名(42.9%),改悪0名(0.0%),(2)FPの体幹後方傾斜ありが4名中,変化なし0名(0.0%),改善4名(100.0%),改悪0名(0.0%),(3)FP肘下がりありが8名中,変化なし6名(75.0%),改善2名(25.0%),改悪0名(0.0%),(4)LC肘下がりありが6名中,変化なし5名(83.3%),改善1名(16.7%),改悪0名(0.0%)であった.〈BR〉【考察】今回の結果から,WUの体幹後方傾斜を即時的に修正することにより,FPでの体幹後方傾斜は100%改善できた.しかし,FPでの肘下がりは25%,LCでの肘下がりは16.7%しか改善できなかった.FP,LCでの肘下がりに関しては別のアプローチが必要であると考えられた.
著者
鈴木 歩美 戸渡 敏之 赤津 嘉樹 鈴木 善幸 野本 恵司
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.23, pp.O044, 2007

【はじめに】破傷風は傷口から感染した破傷風菌の産生する神経毒素によって起こる重篤な中毒性感染症で、主症状は全身横紋筋の持続緊張・強直性痙攣などである。破傷風は潜伏期、第_I_期(前駆症状期)、第_II_期(開口障害から痙攣発症まで)、第_III_期(全身痙攣・後弓反張持続期)、第_IV_期(回復期)と分類される。第_II_期をonset timeと言い、この期間が48時間以内のものは重症で予後不良とされる。今回onset timeが6時間で致死率80%と推定され、且つ87歳という高齢にも関わらず、自宅退院となった症例の理学療法(以下PT)を担当したので報告する。<BR>【症例提示】】(学会発表に対し文書による同意を頂いた。)<BR>症例:87歳男性。主病名:破傷風。既往歴:特になし。<BR>現病歴:農作業中に右前腕挫傷し、1週後構音障害や嚥下障害認め、精査目的にて当院入院となった。翌日呼吸停止し経鼻挿管施行された。さらに自律神経障害による徐脈と頻脈出現し、一時的に体外式ペースメーカー挿入された。その後痙攣発作頻発し抗痙攣薬・筋弛緩薬を投与された。第18病日より状態安定しPT開始となった。<BR>【理学療法初期評価】意識レベルはJCS_III_‐200で、人工呼吸器管理中(SIMV+PS)であった。深部腱反射は上肢で亢進を認め、筋緊張は全体的に亢進していた。ROM‐Tは両肩関節・右肘関節・両足関節に制限があり、ADLはBarthel Index0点で全介助であった。<BR>【理学療法経過】排痰、ROM訓練よりPT開始し、第25病日よりギャッチアップ開始した。この時期には自律神経障害による血圧変動が見られた。第32病日より端座位開始したが、後弓反張強く後方へ転倒傾向があった。第35病日より車椅子乗車し離床を進め、第53病日より歩行訓練開始し、その後起居・歩行などの基本動作は向上し作業療法士(以下OT)によりトイレ動作・更衣動作訓練を進め、院内ADLほぼ自立となった。第129病日スピーチカニューレにて発語可能となり、言語聴覚士(以下ST)により発声・嚥下訓練などを進め、第157病日自宅退院となった。<BR>【理学療法最終評価】意識清明で精神機能は良好であった。ROM-Tは頚部・両肩関節に軽度制限を残した。MMTは全体で5レベルであり、深部腱反射は正常であった。ADLはBarthel Index100点となり基本動作は自立し、屋内外とも独歩にて移動可能となった。<BR>【考察】PTの留意点として、早期は随伴症状である自律神経障害や痙攣発作など不安定な全身状態に対するリスク管理や、病態の把握に必要な情報を聴取し慎重に対応することが必要であった。さらに回復期は、高齢と長期臥床の影響による二次的な筋力低下に加え、後弓反張による姿勢保持困難、筋緊張亢進によるROM制限とそれに伴う更衣動作困難や気管切開に伴う発声・摂食嚥下障害などが問題となり、OT・STなど他職種との連携による生活機能改善を目標としたアプローチが重要であった。
著者
室田 一哉 鈴木 和敏 河野 公昭 桑坪 憲史 村橋 淳一 勇島 要 木村 由香里 長屋 孝司 松永 義雄 山賀 寛
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.26, pp.140, 2010

【はじめに】今回、尺骨神経損傷にて手内在筋麻痺を呈したバレーボール選手の競技復帰に向けた理学療法を経験したので報告する。【症例紹介】16歳女性。右利き。高校バレーボール部所属でポジションはリベロである。競技レベルは全国大会出場レベルである。【現病歴】H21年7月下旬ガラスで右手関節を切り受傷。救急病院へ搬送される。右尺骨動脈・神経損傷、右中・環・小指深指屈筋腱断裂、右環・小指浅指屈筋腱断裂、右尺側手根屈筋腱断裂で緊急手術となる。術後約3週でdynamic splintを装着し、当院へ受診となった。【理学療法と経過】術後3週より伸展ブロック内での自動屈曲運動を開始。術後4週よりMP~DIP関節の自動伸展運動開始。術後5週より手関節~DIP関節屈曲位での他動伸展運動、ブロッキングEx.開始。術後6週より握力・ピンチ力向上のEx.開始。競技動作はMP関節屈曲位でのトス動作を開始。ボールはソフトバレーボールから開始しバレーボール、メディシンボールへと負荷を漸増した。トスは両手から開始し片手で行うなど徐々に難易度を上げて行った。術後8週よりMP関節の過伸展や重量物の把持などの危険な動作以外のADLでの積極的な使用を促し、術後12週でADLでの制限を解除した。アンダーレシーブなど部分的に競技復帰したが、術後14週でMMTはMP関節屈曲2、環・小指外転・内転ともに0であった。筋力低下によりトスやオーバーでのカット動作で環・小指のMP関節を過伸展する危険性を考慮し、環・小指のMP関節伸展制限の装具を作製した。装具を装着しトスやカット動作を反復して行い、動作が安定してきた為徐々に競技復帰した。術後20週でゲーム出場可能となり、レギュラーとして活躍し全国大会出場を決めた。【考察】今回、術後のリスク管理を徹底し競技に即した理学療法を行い安定した競技動作が獲得出来た事と、装具によってMP関節過伸展のリスクが予防出来た事により、競技復帰が可能であった。
著者
小林 未菜実 川角 謙一 齋藤 佳久 寺尾 靖也 佐野 勝弥 石井 裕也 辰巳 麻由美 大瀬 眞人(MD)
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【目的】 </b>肩関節疾患に対する理学療法において、肩甲上腕関節の可動域制限は良化しても結帯動作の改善に難渋するケースを多くみる。結帯動作において同側肋骨は前方回旋、胸椎は対側回旋の運動連鎖を生ずる。今回、体幹回旋可動域の左右差、体幹対側回旋可動域の変化に伴う患側肩関節の結帯動作可動域の変化に着目し、体幹の対側回旋へのアプローチを行い、結帯動作可動域に改善のみられた症例を経験したので報告する。<br><b>【方法】 </b>対象は当院に通院する女性患者3名(右肩関節周囲炎2名、右石灰性腱炎1名)である。また本発表にあたり、対象者には倫理的配慮としてヘルシンキ宣言に基づき十分に説明を行い同意を得た。<br> 3症例の共通した条件は、患側肩関節屈曲・外転可動域160°以上、結帯動作に関してL5レベル以上の可動域を有することである。実施介入としては、自動での体幹対側回旋を患側肋骨の前方回旋を徒手にて補助しながら5回繰り返し、5回目は最終域で徒手抵抗下にて10秒間の保持を行った。介入前後に下記の方法で患側の結帯動作と体幹の両側回旋を行い、メジャー、角度計にて測定した。いずれも測定肢位は端座位である。<br>1. 結帯動作:肘関節屈曲90°にて座面-橈骨茎状突起距離を測定。<br>2. 体幹回旋:胸骨前方で両側の手掌を合わせ、骨盤を中間位にて固定、両膝関節内側を接触させた状態で体幹の回旋角度を測定。<br><b>【結果】 </b>体幹回旋運動に関しては、症例1:同側45°/対側30°、症例2:同側50°/対側35°、症例3:同側45°/対側40°と、3症例すべてにおいて体幹対側回旋可動域は同側回旋に比べ制限がみられた。介入後、体幹対側回旋可動域は3症例すべてにおいて拡大した。それに伴い結帯動作に関して、座面-橈骨茎状突起距離は、症例1:介入前26.0㎝→介入後30.0㎝、症例2:24.0㎝→27.5㎝、症例3:27.0㎝→35.0㎝と、3症例すべてにおいて結帯動作可動域の拡大が確認できた。<br><b>【考察】 </b>今回対象とした結帯動作制限の3症例では、全例において体幹の対側回旋制限がみられた。この原因の1つとしては患側の前鋸筋の機能不全が考えられる。前鋸筋と外腹斜筋には筋連結があり、前鋸筋の機能不全は外腹斜筋の機能不全を招くといわれている。このようなことから患側前鋸筋、外腹斜筋の機能不全が体幹対側回旋可動域の減少を生じさせたと考えた。従って、介入により外腹斜筋の活動性を向上させ、体幹対側回旋可動域を拡大させた結果、同側肋骨の前方回旋運動が促進され、肩甲骨の前傾角度が増加することで結帯動作可動域の拡大につながったのだと考える。以上より、結帯動作可動域拡大のアプローチとして、体幹対側回旋可動域の拡大による同側肋骨の前方回旋運動の促進は有効であることが示唆された。<br><b>【まとめ】 </b>結帯動作と体幹回旋可動域との相関性について考えた。今後は体幹回旋可動域の変化が結髪動作に与える影響についても考えていきたい。
著者
種田 智成 小野 晶代
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.26, pp.75, 2010

【はじめに】<BR>平成21年12月22日~29日の間,第40回記念明治神宮野球大会海外派遣事業として,中華民国遠征へ理学療法士として帯同する経験を得た.帯同メンバーは役員3名,指導者3名,責任教師1名,随行員3名,理学療法士1名であり,選手は5校からの選抜メンバー18名である.今回の帯同により得られた経験,活動内容を報告する. <BR>【日程】<BR>遠征の日程は7泊8日で,4試合を行った.1日目は明治神宮での結団式を終えた後,中華民国へと向かった.2日目は練習,3日目に2試合を行った.4日目は移動日,5・6日目は試合,8日目に帰国した.<BR>【活動内容】<BR>PTとしての日常的な役割は,毎朝の体調チェック,食事内容のバランス指導,練習・試合前のウォーミングアップ,投手中心のアイシング,クールダウン,夕食後には希望者に対しコンディショニングを行った.また,怪我につながるようなプレーがあった際には,積極的に声かけを行い,選手の状態把握に努めた.<BR>遠征期間中に発生した外傷に対し処置を行ったり,現地病院への受診を勧めることもあったが,重症なものはなかった.また、食事や気候変動による体調不良は認められなかった.<BR>今回の遠征に際し特に気をつけたことは,5校からの選抜メンバーであることから,遠征中は仲間であっても,帰国後はライバル同士ということもあり,個々の体調についての情報や,負傷に関する発言については特に注意した.<BR>また,遠征前の練習より参加していたが,顔を合わせる機会が限られており,短期間でどのようにコミュニケーションを取るか模索していた.その対応としては,積極的に声をかけること,テーピングやストレッチ等の処置場面においてアドバイスを行うことにより,理学療法士の存在を認識させることを実践した.<BR>【まとめ】<BR>理学療法士の役割としては,選手の障害予防と負傷後の処置,健康管理を中心に行った.<BR>選抜チームに帯同するということで,選手・監督・コーチとのコミュニケーションの重要さを実感した.
著者
合田 明生 佐々木 嘉光 本田 憲胤 大城 昌平
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【目的】 </b>近年、運動が認知機能を改善、または低下を予防する効果が報告されている。運動による認知機能への効果を媒介する因子として、脳由来神経栄養因子(Brain-derived Neurotrophic Factor;BDNF)が注目されている。BDNFは、中枢神経系の神経活動によって神経細胞から刺激依存性に分泌される。そこで本研究では、BDNFと交感神経活動の関係に着目し、運動ストレスによる交感神経活動が、神経活動亢進を介して中枢神経系におけるBDNF分泌を増加させる要因であると仮説を立てた。よって本研究の目的は、健常成人男性を対象に、運動の前後でBDNFを測定し、運動が交感神経活動を亢進させることで、中枢神経系の神経活動を引き起こし、末梢血流中のBDNFを増加させるという仮説を検証することである。その結果から、運動によるBDNF分泌メカニズムの解明の一助とすることを最終目標とする。<br><b>【方法】 </b>健常成人男性10名を対象に、30分間の中強度有酸素運動(最高酸素摂取量の60%)を実施した。運動の前後で採血を実施し、末梢血液中のBDNF、ノルアドレナリン(Noradorenaline:NA)を測定した。運動中の交感神経活動指標としてNAを用いた。また運動中の中枢神経活動指標として、前頭前野領域の脳血流量を用いた。以上の結果から、運動前後のBDNF変化量、交感神経活動の変化(NA)、大脳皮質神経活動の変化(脳血流量)の関連性を検討した。各指標の正規性の検定にはShapiro-wilk検定を用いた。血液検体の運動前後の比較には、対応のあるT検定を用いた。各指標の相関の分析には、Pearsonの相関係数を用いた。いずれも危険率5%未満を有意水準とした。<br><b>【結果】 </b>中強度の有酸素運動介入によって、10人中5名では運動後に血清BDNFが増加したが、運動後のBDNFの値はバラつきが大きく、運動前後のBDNF量に有意な差は認められなかった(p=.19)。またBDNF変化量と交感神経指標の変化の間(BDNF-NA r=.38, p=.27)、中枢神経活動指標と交感神経指標の変化の間(脳血流量-NA r=-.25, p=.49)、BDNF変化量と中枢神経活動指標の変化の間(BDNF-脳血流量 r=-.16, p=.66)には有意な相関は認められなかった。<br><b>【考察】 </b>本研究では、健常成人男性を対象に、30分間の中強度運動の前後でBDNFを測定し、運動が交感神経活動を亢進させることで、中枢神経系の神経活動を引き起こし、末梢血液中のBDNFを増加させるという仮説の検証を行った。その結果、中強度の運動介入によって、10人中5名は運動後の血清BDNF増加を示したが、運動前後のBDNF量に有意な差は認められなかった。この要因として、刺激依存性のBDNF分泌を障害するSNP保有が考えられた。また、BDNF変化量と交感神経指標の変化の間、交感神経指標と中枢神経活動指標の変化の間、BDNF変化量と中枢神経活動指標の変化の間には、有意な相関は認められなかった。この要因として、交感神経活動が急性BDNF増加に直接的には関与しないことが考えられる。<br><b>【まとめ】 </b>健常成人男性における30分間の中強度有酸素運動は、末梢循環血流中のBDNFを有意に増加させず、運動によるBDNF変化には、交感神経活動や中枢神経活動は関連しないことが示唆された。
著者
曽我部 知明 杉村 公也 川村 陽一 水谷 智恵美 渥美 峻輔 和田 美奈子 島崎 博也 辻野 陽子 近藤 真由 西垣内 美佳 山添 智子
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.23, pp.O018, 2007

【目的】脳卒中片麻痺患者が自動車運転を希望する例は少なくない。そこで、本研究は当院で実施している身体機能評価を用いて、自動車運転している群(以下運転群)、自動車運転を希望しているがしていない群(以下非運転群)の2群の各データから、脳卒中片麻痺患者の運転可否を判定するための判別関数を求めることを目的とした。<BR>【対象】対象は、本研究に同意が得られた脳卒中片麻痺患者20例(男性19名、女性1名、平均年齢58.4±6.6歳、発症までの平均運転歴378.4±94.7ヶ月、運転群11名、非運転群9名)であった。<BR>【方法】測定項目は、発症前運転歴、上肢、手指、下肢の運動麻痺の程度(Brunnstrom stage〔以下Br.stage〕)、上肢筋力(非麻痺側握力)、下肢筋力(非麻痺側下肢最大筋力を測定しピーク値を体重で除した値〔N・m/kg〕)、運動耐用能(6分間歩行距離〔以下6MWD〕)、歩行能力評価(10m歩行時間、10m歩数)、立位動的バランス能力指標(Timed Up&GO Test〔以下TUG〕)、バランス評価(Berg Balance Scale〔以下BBS〕)、ADL評価(機能的自立度評価法〔以下FIM〕)を用いた。運転群、非運転群の2群を判別するために、多変量解析の判別分析を用い、線形判別関数を求めた。なお本研究は、当院倫理審査委員会の承認を得て実施した。<BR>【結果】分散共分散行列の等分散に関する検定は有意ではなく、等分散であったため、線形判別関数を、Z=17.90499*Br.stage手指+46.13531*下肢筋力-0.26896*運転歴+6.320207*10m歩行時間-17.2167*Br.stage上肢+3.262781*FIM-3.5203*10m歩数+2.330337*BBS-1.18787*TUG+0.09723*6MWD-2.2287*Br.stage下肢-0.17041*握力-425.2(Z≧0ならば運転群に判別、Z<0ならば非運転群に判別、正判別率1.00、誤判別率0.00013)と求めることが出来た。判別に大きく関っている項目は、Br.stage手指(P=0.012)、下肢筋力(P=0.013)、運転歴(P=0.025)、10m歩行時間(P=0.030)、Br.stage上肢(P=0.036)、FIM(P=0.036)であった。<BR>【考察】脳卒中片麻痺患者に対し、自動車運転可否の評価を試みた報告の多くが、発症後も運転を継続する可能性が高いのは上肢の麻痺が軽度、運動機能、ADLが高い傾向があると述べている。今回の結果から、運転可否の判別に大きく関っている項目にも同様の傾向がみてとれ、半側空間無視など明らかに自動車運転に支障をきたす高次脳機能障害がみられない場合において、運転の安全性を確認する上で身体機能についても評価していく必要があるといえる。<BR>
著者
岡嶋 雅史 常富 宏哉 内藤 光祐
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【目的】 </b>サンディング動作は主に上肢の筋力強化や関節可動域改善を目的に使用されているが、動作時の肩関節周囲筋の筋活動についての報告は少ない。そこで今回は肩の屈曲角度を規定してサンディング動作を行い、角度の違いが肩関節周囲筋に及ぼす影響を筋電図学的に分析することを目的とした。<br><b>【方法】 </b>対象は健常男性8名(平均年齢28.6±5.3歳)、測定筋は右の三角筋前部(AD)、上腕二頭筋長頭(BL)、上腕三頭筋長頭(TL)、棘下筋(IS)、前鋸筋(SA)の5筋とし、Noraxon社製筋電計TelemyoG2を用い、表面筋電図をサンプリング周波数1500Hzで記録した。測定肢位は椅子座位とし、テーブル高を上肢下垂位、肘屈曲90度での肘下端の高さとした。測定はテーブル傾斜角度0度、30度、肩屈曲角度60度、90度、120度の6条件とし、床にワイヤーで固定したハンドルを最大努力で、サンディング動作を行うように前方に進めるよう指示し、5秒間の等尺性収縮を行った。得られたデータは全波整流したのち中間3秒間の平均振幅を求め、MMTの肢位での最大等尺性収縮時の筋活動で正規化(%MVC)し、全対象者の平均値を平均%MVCとした。また、ハンドルとワイヤー間に同社製フォースセンサーEM-554を設置し、筋電図に同期して最大張力を測定した。統計学的処理はSPSS-Statistics18を用い、反復測定による一元配置分散分析及びTukeyの多重比較を行い、有意水準を5%未満とした。尚、対象者全員に本研究の目的と方法を説明し、同意を得た。<br><b>【結果】 </b>各測定筋の平均%MVCは、テーブル傾斜0度では肩屈曲角度間に有意差はなかった。テーブル傾斜30度ではSAを除いた4筋において肩屈曲60度と120度間に有意差を認めた(肩屈曲60度→120度の順に、AD:94.9→40.9%、BL:50.1→27.2%、TL:24.3→50.9%、IS:32.4→66.4%)。テーブル傾斜0度、30度ともに肩屈曲60度ではAD、SAの順に、肩屈曲120度ではSA、ISの順に平均%MVCが高く、いずれも50%以上を示した。また、肩屈曲角度の増加に伴い平均%MVCが減少する筋群(AD、BL)と、増加する筋群(SA、IS、TL)に分かれ、テーブル傾斜30度の方がその傾向が強かった。平均最大張力はテーブル傾斜0度における肩屈曲60度と90度間のみ有意差を生じ、その他の条件間では差はなかった。<br><b>【考察】 </b>サンディング動作は、肩屈曲60度では主にADによる肩屈曲とSAによる肩甲骨外転が、肩屈曲120度ではSAによる肩甲骨外転とTLによる肘伸展作用がハンドルを前方に推進する力源となっている事が考えられる。平均最大張力は肩屈曲60度と120度間に有意差はないため、肩屈曲120度ではADとBLの筋活動減少を代替してSA、TLの筋活動が増加し、加えてISによる関節窩への上腕骨頭引きつけ作用が増加し、肩屈曲をサポートしていることが推察された。また、テーブル傾斜角度を上げ抗重力位に近づける程、肩の屈曲角度間における筋活動の変化が大きくなることが示唆された。<br><b>【まとめ】 </b>サンディング動作は、肩屈曲60度ではAD、SAが、120度ではSA、IS、TLの筋活動が高く、肩の屈曲角度により力源となる筋が変化することが推察された。また、抗重力位で行う程その筋活動変化が大きくなることが示唆された。
著者
水谷 仁一 伊藤 岳史 岩堀 裕介 竹中 裕人 鈴木 達也 大家 紫 清水 俊介 矢澤 浩成 太田 和義 花村 浩克 筒井 求
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.27, pp.87, 2011

【緒言】投球フォームと投球障害との関連についての報告は散見され,投球障害の治療として投球フォームの修正は再発予防の観点から重要である.しかし不良な投球フォームの修正は簡単ではなく,中には難渋する症例を経験する.このような症例は機能的な問題が不良な投球フォームの原因となっているだけではなく,投球フォームのイメージ自体やその想起,再現に問題がある可能性も考えられる.一般に脳内には運動プログラムが内部モデルとして存在し,運動を行う際にはその運動プログラムをもとに運動が実行されている.つまり,投球フォームを修正するには機能的な面からのみアプローチするだけではなく,投球フォームの内部モデルを投球イメージとして評価し修正する必要もあると思われる.しかし投球フォームのイメージについての報告は少ない.【目的】本研究の目的は,中学生野球選手における投球フォームのイメージを調査することである.【方法】対象は中学生軟式野球チームに所属し,身体に愁訴がなく,本研究の趣旨に賛同し同意の得られた10名で,平均年齢13.6±0.52歳,平均野球歴66±10.2ヶ月であった.ポジションの内訳は,投手1名,捕手2名,野手が7名で,全例右投げ右打ちである.<BR>方法は,十分なウォーミングアップのあと18m先の相手に対し全力投球を3球行わせBushnell社製スピードガンを用いて撮影と同時に球速を測定した.投球フォームの撮影はCASIO社製デジタルカメラEX-FH25を用い,側方,後方,前方の3方向からハイスピードモードで同時に行った.frame rateは240fpsとし,最も球速の速かった1球を分析対象とした.投球フォームはJobe分類を用いて5相に分類し,そのうち(1)Wind-Up phase (WP)の体幹傾斜,(2)Early-Cocking phase (EC)の投球側肘関節位置,(3)Late-Cocking phase (LC)の投球側肘関節位置を静止画にして評価した.それぞれの指標は(1)が地面からの垂線を基準線とし体幹の傾斜を確認,(2)(3)は両肩峰と投球側肘頭を結んだ線を基準線とした.<BR>運動イメージは,自分が運動を行っているような一人称的イメージと他者が運動を行っているのを見ているような三人称的イメージに大きく分類される事から,本研究では2種類の投球イメージの調査を行った.(実験1)言語教示により被検者の持つ投球イメージをWP,EC,LCの各位相で再現,静止させ,静止画で側方,後方,前方より同時に撮影した.分析は,上記の投球フォーム評価項目が実際の投球フォームと投球イメージで明らかに違いがあるものを違いありとして各位相でそれぞれ比較した.(実験2)実験1で分析対象とした位相にAcceleration phase(Ball Release)を加えた実際の投球フォームの静止画をAdobe photoshop CS4でシルエット化し,印刷した側方,後方,前方の各位相の画像を被検者の人数分提示し,自分の投球フォームがどれかを回答させ正答率を算出した.【結果】実際の投球フォームはWPでの体幹後方傾斜が7名(70%),ECでの投球側肘下がりが3名(30%),LCでの投球側肘下がりが6名(60%)であった.<BR> 実験1では明らかな違いがあったものが,WPの体幹傾斜で7名(70%),ECの肘関節位置で5名(50%),LCの肘関節位置では5名(50%)であった.投球イメージが実際の投球フォームより良好であったのはECで1名のみで,他はすべて実際の投球フォームより不良なフォームとなっていた.<BR>実験2では,シルエット化した投球フォームの正答率が側方20%,後方20%,前方20%であった.全方向で正しく選択できたものは0人で,2方向で正しく選択できたものが1名という結果であった. 【考察】本研究の結果から,実験1では投球イメージと実際の投球フォームに明らかな違いがみられ,さらに投球イメージのほうが実際の投球フォームよりも不良な投球フォームとなっている被検者が多くみられた.実験2においても全体的に正答率が低かった.これらのことから,本研究の被検者はいわゆる良好な投球イメージを元々有していないか,投球イメージを想起,再現する能力が十分でない可能性が考えられる.しかし個別で確認すると,実際の投球フォームに問題の見られなかった被検者は,実験1で2つの投球フォームに違いが少なく,実験2においても自分の投球フォームを2方向で正しく選択していた.このことから投球フォームが良好なものと不良なものとの投球イメージに違いがある可能性があり,調査,比較する必要があると思われた.その他に本研究に影響を与える因子として年齢や野球歴などが考えられるため,被検者数を増やすことや年代の幅を広げ調査する必要があると思われる.さらに投球フォームの分類はあくまで検者側に立ったものであり,選手自身が持っている投球イメージと異なっている可能性も考えられることから,投球フォームの位相を細かくするなどの工夫も必要だと考えられた.