著者
山口 哲生 内田 佳介 江石 義信
出版者
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会
雑誌
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会雑誌 (ISSN:18831273)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1_2, pp.17-26, 2020-10-01 (Released:2021-01-11)
参考文献数
69

サルコイドーシス(サ症)は原因不明の全身性肉芽腫性疾患であり,何らかの外来性原因物質に感受性のある宿主が発病 すると考えられている.肉芽腫は本来,外来性異物を封じ込めるために形成される自己防衛反応であり,肉芽腫性疾患の原 因究明には「肉芽腫内」に存在する異物を明らかにする必要がある.しかし「肉芽腫内」だけに限定して原因物質を探究す ることは技術的に困難で,多くの研究ではリンパ節など「肉芽腫外」組織も含めた「病巣内」において探索する方法がとら れている.病因論に関する研究は,今なお世界中で行われ情報が発信されているが,その多くが抗酸菌とアクネ菌に関する ものであり,本稿では抗酸菌病因論とアクネ菌病因論に焦点を当てこれを比較する形で解説を行った. 「病巣内」に存在する原因微生物を探索するためには定性的PCRが用いられることが多い.これまでの多くの報告をまと めると,抗酸菌もアクネ菌もサ症の病巣内に存在している確率は高い.抗酸菌もアクネ菌も潜伏感染する菌であるため,こ れが病巣内で肉芽腫形成の真の原因物質になっているのか,単なる潜伏感染をみているだけなのか鑑別する必要がある.こ の鑑別のためには定量的PCRで候補菌のゲノムコピー数を比較することが有用であろう.サ症病巣内の候補菌ゲノム数を 定量的に測定した結果では,アクネ菌が他の抗酸菌よりもはるかに多量に検出されている. 「肉芽腫内」に存在する原因物質に関しては,欧米から,結核菌KatG,結核菌heat-shock protein,結核菌gyrase Aが検 出されたとする報告がある.しかし各々 1施設の報告にとどまっており,今後は他の研究者や実臨床のサ症患者で再現性を もって検出されるか否かの検証が必要であろう.他方「肉芽腫内」のアクネ菌検出に関しては,本邦からの一貫した研究が ある.研究初期には,サ症肉芽腫の病巣組織を免疫原として肉芽腫内の異物抗原に反応する単クローン抗体が作製された. これが結核菌ではなくアクネ菌と特異的に反応したことから,次に免疫原をアクネ菌に変更して同様の抗体作製が行われ, 肉芽腫内アクネ菌を検出できるPAB抗体(標的抗原はアクネ菌リポテイコ酸)が完成した.現時点で再現性をもってサ症肉 芽腫内に検出される外来性抗原物質はアクネ菌のみであり,近年では肉芽腫内にPAB抗体陽性像を認める症例がPropionibacterium acnes-associated sarcoidosisとして数多く報告されている.