著者
江石 義信
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.23-29, 2009 (Released:2009-02-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1

常在性細菌と疾患との関連性があちこちで話題になりつつある.なかでもサルコイドーシスとアクネ菌についてわが国では長年の研究蓄積を有しており,最近では本症の奇異な病態を説明しうるようなアクネ菌の興味ある生体内特性や内因性感染症としての新しい疾病発生機構が徐々に見えつつある.既によく知られている「帯状疱疹ウイルスのストレスによる活性化」や「結核の内因性再燃」などの現象と同様に,初期感染(不顕性感染)後に宿主の細胞内で冬眠状態にある細胞壁欠失型アクネ菌が内因性に活性化することが,サルコイドーシスという全身性肉芽腫疾患の発症をトリガーしている可能性がある.疾病素因として本菌に対するアレルギー素因を有する個体では,内因性に本菌が活性化するたびごとに増菌局所で肉芽腫反応が生じてくるものと想定され,細胞内細菌に感受性のある抗生剤の投与は,新たな細胞内増菌を防止する観点から肉芽腫形成の予防に有効である可能性が高い.また,本症からの完全寛解を目指すためには,代謝活性を低下させて生き残りを図る冬眠状態の菌も含めて排除する必要があり,近年では米国患者団体が主体となり通常の感染症とは異なる除菌プロトコール(マーシャルプロトコール)が検討されつつある.
著者
根本 哲生 森山 美樹 坂田 泰子 山本 嘉子 江石 義信 菅野 純
出版者
特定非営利活動法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.343-346, 2000-09-22 (Released:2011-11-08)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

背景:家族性大腸腺腫症 (Familial adenomatous polyposis以下FAP) はAPC遺伝子のgermlinemutaionに起因する遺伝性疾患であり, 若年女性の甲状腺に乳頭腺癌をしばしぼ合併することが知られている.近年, 甲状腺乳頭癌に細胞の節状配列や充実性増殖などの組織学的特徴を有するcribriform-morular variant (CMV) が提唱され, FAPに伴う甲状腺乳頭癌は, 多くがその範疇に入るものと考えられる.今回, われわれは家族性大腸腺腫症に合併した甲状腺癌の2例を経験し, 穿刺吸引細胞像を検討した.症例:症例はいずれも20歳女性.甲状腺腫瘤に対し穿刺吸引細胞診が行われた. 通常の乳頭癌にもみられるコロイド, 核の切れ込みなどの他に, 1) 細長い核を有する高円柱状細胞の柵状配列, 2) 多角形細胞の充実性胞巣, 3) 立方状細胞の節状配列が特徴的な細胞所見であり, 穿刺吸引細胞像からCMV甲状腺癌の推定が可能と考えられた.結論:CMVは非FAP患者では比較的まれであることから, 甲状腺穿刺吸引細胞診でこれらの特徴的な細胞像を認めた場合には, 甲状腺腫瘤が初発症状として気付かれたFAPである可能性を考慮する必要があると考えられる.
著者
山口 哲生 江石 義信
出版者
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会
雑誌
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会雑誌 (ISSN:18831273)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1_2, pp.1-10, 2019-10-01 (Released:2019-12-28)
参考文献数
56

サルコイドーシスはいまなお原因不明とされている.しかし,細胞性免疫に対して強い免疫原性を有するなんらかの感染性物質が原因となり,素因のある宿主のみが発病して類上皮細胞肉芽腫が形成されることが世界のコンセンサスとなっている.現在までに結核菌(mKatG)とアクネ菌(Propionibacterium acnes)以外の感染性物質が肉芽腫内に認められたとする報告はなく,このいずれかが本症の原因になっていると考えられている.Eishiらは定量的PCR法,in situ hybridization法,アクネ菌モノクローナル抗体の作成と免疫染色法,本症リンパ節リンパ洞内のアクネ菌免疫複合体の証明など,本症の原因をアクネ菌と考える蓋然性の高い報告を重ねてきた.また海外からは,本症の病巣内にアクネ菌のmRNAが有意に頻度高く見出されるという報告も出ている.本稿では,アクネ菌が本症の原因であるとの仮説をたてて,この菌がどのようにサルコイドーシスを発病せしめて,かの奇妙な病態を形成していくのかについて,私たちの考えを述べた.
著者
江石 義信
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 = Journal of intestinal microbiology (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.23-29, 2009-01-01
参考文献数
14

常在性細菌と疾患との関連性があちこちで話題になりつつある.なかでもサルコイドーシスとアクネ菌についてわが国では長年の研究蓄積を有しており,最近では本症の奇異な病態を説明しうるようなアクネ菌の興味ある生体内特性や内因性感染症としての新しい疾病発生機構が徐々に見えつつある.既によく知られている「帯状疱疹ウイルスのストレスによる活性化」や「結核の内因性再燃」などの現象と同様に,初期感染(不顕性感染)後に宿主の細胞内で冬眠状態にある細胞壁欠失型アクネ菌が内因性に活性化することが,サルコイドーシスという全身性肉芽腫疾患の発症をトリガーしている可能性がある.疾病素因として本菌に対するアレルギー素因を有する個体では,内因性に本菌が活性化するたびごとに増菌局所で肉芽腫反応が生じてくるものと想定され,細胞内細菌に感受性のある抗生剤の投与は,新たな細胞内増菌を防止する観点から肉芽腫形成の予防に有効である可能性が高い.また,本症からの完全寛解を目指すためには,代謝活性を低下させて生き残りを図る冬眠状態の菌も含めて排除する必要があり,近年では米国患者団体が主体となり通常の感染症とは異なる除菌プロトコール(マーシャルプロトコール)が検討されつつある.<br>
著者
江石 義信
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.1168-1172, 2011 (Released:2013-01-19)
参考文献数
12
著者
山口 哲生 内田 佳介 江石 義信
出版者
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会
雑誌
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会雑誌 (ISSN:18831273)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1_2, pp.17-26, 2020-10-01 (Released:2021-01-11)
参考文献数
69

サルコイドーシス(サ症)は原因不明の全身性肉芽腫性疾患であり,何らかの外来性原因物質に感受性のある宿主が発病 すると考えられている.肉芽腫は本来,外来性異物を封じ込めるために形成される自己防衛反応であり,肉芽腫性疾患の原 因究明には「肉芽腫内」に存在する異物を明らかにする必要がある.しかし「肉芽腫内」だけに限定して原因物質を探究す ることは技術的に困難で,多くの研究ではリンパ節など「肉芽腫外」組織も含めた「病巣内」において探索する方法がとら れている.病因論に関する研究は,今なお世界中で行われ情報が発信されているが,その多くが抗酸菌とアクネ菌に関する ものであり,本稿では抗酸菌病因論とアクネ菌病因論に焦点を当てこれを比較する形で解説を行った. 「病巣内」に存在する原因微生物を探索するためには定性的PCRが用いられることが多い.これまでの多くの報告をまと めると,抗酸菌もアクネ菌もサ症の病巣内に存在している確率は高い.抗酸菌もアクネ菌も潜伏感染する菌であるため,こ れが病巣内で肉芽腫形成の真の原因物質になっているのか,単なる潜伏感染をみているだけなのか鑑別する必要がある.こ の鑑別のためには定量的PCRで候補菌のゲノムコピー数を比較することが有用であろう.サ症病巣内の候補菌ゲノム数を 定量的に測定した結果では,アクネ菌が他の抗酸菌よりもはるかに多量に検出されている. 「肉芽腫内」に存在する原因物質に関しては,欧米から,結核菌KatG,結核菌heat-shock protein,結核菌gyrase Aが検 出されたとする報告がある.しかし各々 1施設の報告にとどまっており,今後は他の研究者や実臨床のサ症患者で再現性を もって検出されるか否かの検証が必要であろう.他方「肉芽腫内」のアクネ菌検出に関しては,本邦からの一貫した研究が ある.研究初期には,サ症肉芽腫の病巣組織を免疫原として肉芽腫内の異物抗原に反応する単クローン抗体が作製された. これが結核菌ではなくアクネ菌と特異的に反応したことから,次に免疫原をアクネ菌に変更して同様の抗体作製が行われ, 肉芽腫内アクネ菌を検出できるPAB抗体(標的抗原はアクネ菌リポテイコ酸)が完成した.現時点で再現性をもってサ症肉 芽腫内に検出される外来性抗原物質はアクネ菌のみであり,近年では肉芽腫内にPAB抗体陽性像を認める症例がPropionibacterium acnes-associated sarcoidosisとして数多く報告されている.
著者
岡田 洋平 川上 理 福田 博志 長浜 克志 斉藤 一隆 大塚 幸宏 木原 和徳 森田 隆 大島 博幸 江石 義信 菅野 純
出版者
泌尿器科紀要刊行会
雑誌
泌尿器科紀要 (ISSN:00181994)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.739-742, 1997-10
被引用文献数
2

3ヵ月前に無症候性肉眼的血尿に気づいた50歳男で,膀胱左壁の非乳頭状広基性腫瘍を認め,臨床病期はT3N0M0であった.生検材料の病理診断は小細胞癌であった.最初に行ったシスプラチン-アドリアマイシンの動注術前化学療法は無効であり,根治的膀胱摘除を行った.腫瘍組織は明らかに均質で,管状ないし索状に配列した小細胞より成り,pT3bR1L2V0N0であった.電子顕微鏡上,神経分泌顆粒を持つ小細胞癌と確認された.術後,シスプラチン,エトポシド,及びイホスファミドより成るアジュバント化学療法を4クール行った.術後26ヵ月に腫瘍再発の証拠なしに生存しているA 50-year-old man presented with asymptomatic gross hematuria which he had first noticed 3 months earlier. Clinical examinations revealed a non-papillary, broad-based tumor on the left lateral wall of the urinary bladder with a clinical stage of T3N0M0. The pathological diagnosis of a transurethral biopsy tissue specimen was small cell carcinoma. Neoadjuvant intraarterial infusion chemotherapy using cisplatin and adriamycin was initially administered but proved to be ineffective. Thus, we performed a radical cystectomy. The tumor tissue was apparently homogenous and composed of small cells arranged in sheets and solid patterns, and was staged to be pT3bR1L2V0N0. An electron microscopic study confirmed small cell carcinoma with neurosecretory granules. Postoperatively, 4 courses of adjuvant chemotherapy consisting of cisplatin, etoposide and ifosfamide were administered. The patient is alive without any evidence of tumor recurrence 26 months after the operation.