著者
内田 智秀
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

最終年度の研究作業を大別すると、モーリス・メーテルランク『青い鳥』の草稿類の具体的調査と同作品における幸福についての研究の2つに分かれる。前者は2008年夏、フランス、ベルギーにおいて実地調査を行った。フランス国立図書館では1911年の『青い鳥』改訂版初演の劇評類を収集し、同作品の受容傾向を把握に努めた。ベルギーでは、まず初年度大まかな調査しか行えなかったゲント資料館にて、メーテルランクが当初『青い鳥』の舞台背景を依頼していたC.ドゥードゥレに送った1905年から1909年頃の書簡37点を判読、そして転写した。その後ブリュッセルのベルギー王立図書館にて、ロシアの演出家C.スタニスラフスキーや、ドイツ人翻訳家F.フォン・オペルン=プロニコフスキーヘメーテルランクが送った書簡の中から、約80点を転写した。また初年度同様、『青い鳥』の構想、草稿の転写の確認も時間が許す限り行った。これちの資料は、これまで取り上げられる機会が少なく、正確さに欠けていた『青い鳥』の生成に関する資料として重要で、これらの分析によって、すでに新事実が発見されていることからも、この実地調査は必要不可欠だった。『青い鳥』の幸福についての研究は、メーテルランクが随筆で引用するプロティノスの言説と、『青い鳥』の草稿に書かれた「幸福の探求=知性の探求」の注目し、初年度、草稿研究で得られた成果をもとに、プロティノスを中心とする新プラトン主義の観点から考察した。以上の研究成果の一部を日本フランス語フランス文学会中部支部大会、目本児童文学学会研究大会にて発表した。