著者
内田照久
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

問題と目的 本研究は,「教育測定データの蓄積」を,個人の学力評価や処遇決定のための資料的役割に留めず,教育制度の改善に向けた施策や配慮が必要な児童生徒の支援制度の設計を行うための,基盤となるエビデンス・データとして,有効に役立てて行くことを目指す。本報告では,はじめに大学入試に係るデータから,初等中等教育から高等教育まで連なる社会的な教育課程と,子どもの発達成長との適合性について考察する。方 法 はじめに,厚生労働省の人口動態調査を基に,平成30年度センター試験の新卒志願者と同学年コーホートに属する者の月齢別の出生者数を集計した。4/1生まれの者は前年度の学年コーホートに入るため,その補正も行った。その上で,月齢ごとに,センター試験の志願率をもとめた(Fig. 1)。 次に暦月齢ごとに,センター試験の英語筆記,国語,及び数学IA及びIIBについて,その平均点をもとめた(Figure 2)。結果と考察 Figure 1の月齢ごとのセンター試験志願率を見ると,歴月齢が高い程,その志願率が上昇していることがわかる。そして,いわゆる早生まれの暦年少者は構成比率が低く(37.1%~),月齢が高くなるとその比率が次第に上昇して,4月生まれの暦年長者の志願率が最も高くなっている(41.3%)。 一方,Figure 2の月齢別の試験成績を見てみると,今度は逆に早生まれの暦年少者で平均点が高く,月齢が高くなるにつれて低下する傾向が見られる。この現象は数学で最も顕著で,3月生まれの暦年少者では平均が113.3点であったが,4月生まれの暦年長者の平均は110.2点であった。なお,英語でもこの低下傾向が読み取れるが,国語では必ずしも明瞭ではない。 これらの原因として,中学受験をはじめとした早期選抜の影響が考えられる。初中教育段階での選抜では,月齢差による発達面の能力差が厳然と存在するので,暦年齢の関数の形で人数の偏りが発生すると推察される。そして,その構成比率が上位の学校まで持ち越されて,大学の受験機会にまで影響を及ぼしている可能性がある。 一方,暦年少者のポテンシャルは,決して低いものではないと考えられる。センター試験の成績では,暦年少者の方が暦年長者よりも数学や英語で平均点が高く,月齢に対する逆転現象が起きていた。暦年長者は,成長発達面で先んじていたが故の上位校合格者が多いとも考えられる。しかし,高校段階になると,学力の個人差は,発達差ではなく,学習の成果として顕在化するようになろう。すると,相対的人数は少ないが,成長面での不利に抗して勝ち残ってきた,潜在的ポテンシャルの高い暦年少者の集団が,暦年長者集団を学力面で,凌駕した帰結と捉えることもできるかも知れない。引用文献川口大司・森 啓明 (2007). 誕生日と学業成績・最終学歴 日本労働研究雑誌, No.569, 29-42.付 記 本研究は,平成28~30年度 大学入試センター理事長裁量経費の援助を受けた。