著者
羽岡 健史 森下 由香 内藤 祐貴 大西 新介 奈良 理 高橋 功
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.10, pp.785-791, 2014-10-15 (Released:2015-03-12)
参考文献数
13
被引用文献数
1

肥満細胞の活性化により惹起される種々のアレルギー症状と急性冠症候群(acute coronary syndrome: ACS)の同時発症はKounis症候群と呼ばれている。我々はガベキサートメシル酸塩gabexate mesilate: GM)の投与後にアナフィラキシーと冠攣縮性狭心症を呈した症例を経験したので報告する。症例はアルコール性慢性膵炎と糖尿病の既往のある72歳の女性。心窩部痛を主訴に当院に救急搬送され,慢性膵炎急性増悪と診断された。単純CT撮影後にウリナスタチン50,000単位を投与。次にGM 100mgの投与を開始してから8分後,気分不快,呼吸苦,顔面紅潮,喘鳴が出現した。まもなく意識レベルがJapan coma scale(JCS)100に低下し,ショックを呈したため,アナフィラキシーショックと考え,アドレナリン0.1mgを2回静脈注射した。またアドレナリン投与前から心電図モニター上,ST上昇が見られ,12誘導心電図ではII,III,aVFでST上昇,I,aVL,V1~V4でST低下,心臓超音波検査で左心室下壁の壁運動不良の所見が認められたため,ニトログリセリン(スプレー)を舌下投与した。気管挿管,ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム100mg,クロルフェニラミンマレイン酸塩5mg,ファモチジン10mg投与後に冠動脈造影を実施したところ,冠動脈に有意な狭窄を認めず,冠攣縮性狭心症と診断された。同日,心電図変化は改善し,アナフィラキシー症状も消失し,翌日には抜管した。狭心症の再発はなく,慢性膵炎急性増悪に対する治療のみを行ってから第17病日に自宅退院となった。Kounis症候群はアレルギー反応等の過敏性反応に伴って肥満細胞から放出される炎症メディエータの作用でACSが引き起こされることで生じる病態で,アレルギー反応に対する治療とACSに対する治療を並行して行うことが推奨されている。重篤なアレルギー症状を呈する症例では,ACSの併発も念頭において治療・観察をする必要がある。