著者
小野寺 誠 小泉 範高 藤野 靖久 菊池 哲 井上 義博 酒井 明夫 遠藤 重厚
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.7, pp.307-312, 2014-07-15 (Released:2014-11-01)
参考文献数
18

症例は30代の女性。東北新幹線乗車中に下腹部痛が出現し救急要請となった。救急隊が病院選定を行う際に自分は医師であると話し前医へ搬送となったが,診察をめぐってトラブルとなったため当院紹介となった。救急隊からの連絡で身分証明書の提示を拒否していたこと,インターネット検索をした結果,氏名と所属が一致しないことを確認したために薬物依存の可能性を考え,前医に医師会への報告を依頼するとともに当院精神科医師による診察を依頼した。当院搬入時,下腹部の激痛を訴えており,一刻も早い鎮痛剤の投与を希望していた。患者によると,子宮頸管狭窄症の診断で海外の病院や都内大学病院で大腿静脈よりペンタゾシンとジアゼパムを静脈内投与していたと主張していた。精神科医師による傾聴後,痛み止めは施行できない旨を伝えていた最中に荷物より所持品が落下した。某大学病院や某研究機関研究員など多数のIDカードを所持しており名前も偽名であった。その直後に突然激高し,看護師の腹部を蹴り,当院から逃走した。30分後,当院より約10km離れた地点で救急要請した。搬送となった病院でセルシン® とソセゴン® を筋注したが10分程で再度除痛するよう訴えた。直後に岩手県医師会から「不審患者に関する情報」がFAXで届き,警察への通報を考慮していたところ突然逃走した。医師会を通じて調査したところ,前日には宮城県,翌日には秋田県の医療機関を同内容で受診していることが判明した。本症例を通して,救急医療機関においては,問題行動のある精神科救急患者を受け入れた際の対応マニュアルを,あらかじめ整備しておくことが望ましいと思われた。
著者
濱島 高志 池田 栄人 上島 康生 城野 晃一 斎藤 朗子 栗岡 英明 依田 建吾
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.59-62, 2001-02-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

An 18-year-old Jehovah's Witness injured in a traffic accident developed hypovolemic shock. Total blood loss due to a crushed pelvic fracture and degloving injury of the lower limb was estimated at more than 3, 000ml and the patient's hematocrit fell to 10.8%. The patient refused blood transfusion on religious grounds, virtually ensuring death. Failing to provide blood transfusion involved the following potential problems: i) the truck driver hitting the patient could charged with homicide rather than unintentional infliction of injury, and ii) the hospital could be sued by the patient's family or the truck driver for not providing reasonable treatment. Blood on these considerations, we transfused the patient with 30 units of blood before obtaining consent. The patient recovered uneventfully thanks to the blood transfusion followed by embolization of the iliac artery and surgery. Fortunately, neither the patient nor his family complained about treatment, and even thanked us.
著者
宮内 崇 藤田 基 末廣 栄一 小田 泰崇 鶴田 良介
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.191-200, 2014-05-15 (Released:2014-09-01)
参考文献数
42

軽症頭部外傷は救急外来を受診する頭部外傷のなかで最も多い。近年,スポーツ選手や軍事活動に従事する兵士のように,軽症頭部外傷を繰り返し受傷した人たちが,受傷から数年後に慢性的な認知機能障害や抑うつ状態を呈することが報告され,繰り返される軽症頭部外傷に関連する慢性外傷性脳症(chronic traumatic encephalopathy: CTE)が注目されている。軽症頭部外傷の患者の多くは比較的若年者であり社会的な影響が大きいため,海外ではその病態の解明や診断,治療法の研究が盛んにおこなわれている。軽症頭部外傷のうち受傷直後から頭痛,めまい,嘔気,意識消失などの一過性の症状を呈し,画像上明らかな異常を認めないものを脳振盪と呼ぶ。脳振盪は明確な診断基準がないため,アセスメントツールを用いて症状の経過をフォローして診断を試みる。脳振盪を含む軽症頭部外傷に関連する病態としてCTEの他,急性期に発生するセカンドインパクトシンドローム(second impact syndrome: SIS),急性期から引き続き起こる脳振盪後症候群(post-concussion syndrome: PCS)がある。これらの病態は軽症頭部外傷を繰り返すことによって発生するリスクが高くなるといわれているが,そのメカニズムは明確ではない。現在のところ,軽症頭部外傷を受傷した患者に対しては再度頭部に衝撃を与えないように安静を保つことが重要である。スポーツでは,プレー中に受傷した選手は直ちにプレーを中止させる。またプレーへの復帰は段階的に行い,症状の変化を経時的に観察し,重症化の徴候を見逃さないように注意する。治療は対症療法が中心で,重症化,慢性化の予防に対する薬物療法などの有用な治療法はない。軽症頭部外傷に対しては保護者・指導者の教育が重要である。リスクの高い環境にいる場合,とくに脳が発達過程にある小児に対しては,繰り返す受傷を予防できる環境と,受傷した場合への対策を整える必要がある。そのため本邦のガイドラインの作成と軽症頭部外傷への理解,プロトコールの遵守の徹底が望まれる。
著者
佐藤 孝幸 中川 隆雄 仁科 雅良 須賀 弘泰 高橋 春樹 出口 善純 小林 尊志
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.12, pp.941-947, 2009-12-15 (Released:2010-03-01)
参考文献数
18
被引用文献数
2

カフェインは嗜好品の他,感冒薬や眠気予防薬として普及しているため,過剰摂取が容易である。大量服用から致死的中毒を来した2症例を救命した。〈症例1〉34歳の女性。市販感冒薬を大量服用後,心室細動から心静止状態となり救急搬送された。感冒薬成分中の致死量のカフェインが心肺停止の原因と考えられた。〈症例2〉33歳の男性。自殺企図にて市販無水カフェイン(カフェイン量24g)を内服,嘔吐と気分不快のため自らの要請で救急搬送となった。いずれも大量のカフェイン急性中毒例で,薬剤抵抗性の難治性不整脈が特徴であった。早期の胃洗浄,活性炭と下剤の使用,呼吸循環管理により救命することができた。とくに症例2では,早期の血液吸着により血中濃度の減少と症状の劇的な改善を認めた。これは血液吸着の有用性を示す所見と考えられる。

33 0 0 0 OA クマ外傷の4例

著者
加藤 雅康 林 克彦 前田 雅人 安藤 健一 菅 啓治 今井 努 白子 隆志
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.229-235, 2011-05-15 (Released:2011-07-23)
参考文献数
15

近年,クマの目撃件数が増加しており,クマが生息する山間部付近の病院ではクマ外傷を診察する機会が増加することが予想される。当院で過去2年間に経験したクマ外傷の4例を報告し,初期治療での注意点について考察する。クマ外傷は頭部顔面領域に多く,顔面軟部組織損傷の治療にあたっては,眼球,鼻涙管,耳下腺管や顔面神経などの損傷を確認し,損傷の部位や程度に応じてそれぞれの専門科と共同で治療を行うことが必要となる。また,細菌感染や破傷風の予防が必要である。当院で経験した4例と文献報告でも,創部の十分な洗浄と抗菌薬治療,破傷風トキソイドと抗破傷風人免疫グロブリンの投与により重篤な感染を生じることはなかった。しかし,頭部顔面の創部と比較して四肢の創部は治癒に時間がかかった。クマ外傷の診療にあたっては,顔面軟部組織損傷と感染症予防に対する知識が重要と考えられた。
著者
三好 寛二 世良 昭彦 加藤 貴大 梶山 誠司 木下 博之
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.9, pp.772-776, 2011-09-15 (Released:2011-11-15)
参考文献数
12

急性薬物中毒は救急外来において頻度の高い傷病の一つである。今回,ロキソプロフェンを大量服薬し,急性中毒症状を呈した症例で,ロキソプロフェンおよびその代謝産物の血中濃度を測定し得たので報告する。症例は30代の女性,ロキソプロフェン3,600mg(ロキソニン®錠,1錠60mgを60錠)を服薬し,3時間後に来院した。来院時,自覚症状なく,意識清明でバイタルサインは安定していた。胃洗浄,活性炭投与は行わず,入院し輸液療法を行った。急性中毒症状として,消化器症状(食欲不振と心窩部痛が第2病日から3日間継続),急性腎傷害(第3病日まで無尿で経過し,第3病日をピークにBUN 23mg/dl,Cre 1.93mg/dlまで上昇),肝機能障害(第3病日をピークにGOT 532 IU/l,GPT 144 IU/l,LDH 405 IU/lまで上昇),血小板減少(第3病日をピークに10.8×104/dlまで低下)などを生じたが,いずれも経過観察と対症療法で改善し第4病日に退院した。退院後も後遺症を残すことなく経過した。ロキソプロフェンの血中濃度は,服薬3.5時間後126μg/ml,17時間後26μg/ml,40時間後3.18μg/ml,64時間後0.25μg/mlで,ロキソプロフェンの代謝産物であるトランス配位アルコール体の血中濃度は,服薬3.5時間後152μg/ml,17時間後16.1μg/ml,40時間後2.33μg/ml,64時間後0.19μg/mlであった。大量服薬時のロキソプロフェンの最高血中濃度到達時間は0.41時間で,服薬から3.5時間までに吸収が終わっており吸収遅延は起こさなかった。また,ロキソプロフェンは大量服薬時も速やかに代謝され代謝産物を生じていたが,血中濃度半減期は延長し6.7時間であった。
著者
澤村 淳 早川 峰司 下嶋 秀和 久保田 信彦 上垣 慎二 丸藤 哲 黒田 敏
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.7, pp.358-364, 2010-07-15 (Released:2010-09-20)
参考文献数
13

クモ膜下出血は突然死の主要原因の一つである。我々は院外心肺機能停止で発症したクモ膜下出血症例で神経学的予後良好例を報告する。症例は52歳男性。交通事故が発生し,心肺停止が目撃された。すぐにbystandar心肺蘇生法が施行された。ドクターカーを含めた救急隊が要請され,救急医は当院到着まで気管挿管を含めたadvanced cardiopulmonary life supportを施行した。心肺停止発症から23分後に心拍再開し,直後に初療室へ搬入となった。意識レベルはE1VTM5であった。心電図はV1からV5誘導でST上昇を認め,心筋虚血が示唆された。頭部CTの結果,右半球に優位な瀰漫性のくも膜下出血を認めた。脳血管撮影では右中大脳動脈分岐部に嚢状動脈瘤を認めた。World Federation of Neurosurgical Societies分類ではGrade IV,Fisher CT分類ではIII群と診断した。しかし,眼球偏視が消失,対光反射が出現し,上肢の運動も活発に認められたことから,脳動脈瘤頸部クリッピング術を目的に開頭手術を施行した。患者は第18病日に神経脱落症状なく独歩で退院した。Bystandarによる発症直後からの心肺蘇生法や集中治療は院外心肺停止で発症したクモ膜下出血症例の生存率や機能的予後を改善する可能性がある。
著者
井尻 巖
出版者
日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.8, pp.437-447, 1999-08-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
2

死亡診断書・死体検案書の書き方の概要を述べる。死亡診断書は診療継続中の患者が当該疾病で死亡した場合に発行され,その他の場合は死体検案書を発行する。死亡者の氏名は戸籍に記載された氏名を記入する。「死亡したとき」の欄には,心肺停止例で死亡を確認した時刻や,心肺蘇生が不成功の場合にそれを終了した時刻ではなく,これらの時点よりさかのぼった時刻を推測して記入する。この場合には死亡時刻の記入した後に頃(推定)と記入する。「死亡の原因」のI欄は直接死因と下段に直接因果関係を有する傷病名を順を追って記入する。最も下段に記入された傷病名が原死因となり,死因として採用される。この欄の記入に疎漏があると死亡者の死亡の原因がまったく違ってくる。死因が特定できない場合には,適当な死因を付けないで[詳細不明]と記入し,「その他特に付言すべきことがら」欄にその理由を記入する。「死因の種類」欄は原死因が該当する種類に〇を付ける。「外因死の追加事項」の欄は,病死および自然死以外は必ず記入する。伝聞をもとに記入することがほとんどであるが,可能な限り詳細に記入する。なお,不詳の死とした場合には,この欄に記入せず「その他特に付言すべきことがら」欄に,その理由を記入する。「その他付言すべきことがら」欄には,前記に述べた事項のほか,心肺蘇生が不成功であった場合に,「心肺停止状態で搬送され,心肺蘇生が不成功,〇時〇分に死亡確認」等記入しておく。死亡診断書・死体検案書をめぐる紛争は少なくなく,記載にあたっては慎重に記入することが肝要と考える。
著者
井上 哲也 皆川 邦朋 松田 岳人 山口 芳裕 村田 厚夫 島崎 修次
出版者
日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.72-76, 2003-02-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
5

A 40-year-old Japanese man was brought to our hospital presenting with a deterioration of consciousness and respiratory failure after being bitten by an imported snake. On admission, he was in a deep coma with generalized paralysis. Because of his difficulty in breathing, he was intubated orally and controlled mechanical ventilation was started. To identify the snake, we obtained a photocopy of the snake and transferred it to the Japan Snake Institute via E-mail. The snake was identified as Bungarus candidus, and the antivenom was transferred to our hospital by a police car. The antivenom was given 16 hours after the bite, and neostigmine was administered for 10 days. The patient recovered from the respiratory paralysis six days after admission. His muscle weakness gradually improved, and he was discharged from hospital on the 44th hospital day. He continues to complain of fatigue almost one year after the incident.
著者
箕輪 良行 柏井 昭良 井上 幸万
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.9, pp.444-450, 2000
被引用文献数
1

目的と背景:自動二輪車と自転車の乗用者ヘルメット着用は,頭部外傷を減らし死亡率を下げると実証されている。大宮市は人口44万人で交通の要地にある首都圏の都市である。約25年間にわたり児童がヘルメットを着用して通学している小学校がある。ヘルメット着用の義務化が交通事故およびその死亡を減らすかを検討するのが本研究の目的である。方法:遡及的なケース・コントロール法で検討した。市内36の小学校の生徒(延べ約20万人)を対象母集団とした。89~95年度に学校管理内外に発生した学童の交通事故およびその死亡について調べた。年間交通事故件数が10件以上の主要な国道および県道から1km以内にすべての小学校が存在している。ヘルメット全員着用を指導している4校と,91年前後に着用を自由化(中止)した4校をケース群とした。これ以外の28校をコントロール群とした。着用を自由化した前後で期間を分けて,交通事故件数,死亡者数を比較検討した。結果:89~91年度(前期)から92~95年度(後期)で36校の生徒1,000人当たりの年間交通事故件数(事故率)は1.0から1.4に増加した(p<0.05)。ヘルメットの全員着用を自由化した4校(自由化群)の事故率は前期0.4から後期1.6に有意に増加した(p<0.01)。全員着用を継続した4校(全員着用群)の事故率は,前期1.3から後期0.4へ減る傾向がみられた。ケース群の全員着用群と自由化群のうち前期の部分を合わせたものの事故率は0.7で,コントロール群と自由化群の後期を合わせたものの事故率1.3に比して低かった(p<0.05)。36校全体の死亡数は前期0人から後期3人へ増加した。全員着用群では期間中に死亡がなかった。結語:交通の要地である都市で実施されてきた小学校児童のヘルメット着用は,交通事故および死亡を減らしたと示唆された。
著者
高橋 洋子 須崎 紳一郎 勝見 敦 原田 尚重 諸江 雄太 蕪木 友則 中澤 佳穂子
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.208-215, 2007-05-15 (Released:2009-02-27)
参考文献数
25

消火器に含まれる消火薬剤による高カリウム血症が原因と思われる心停止の事例を経験した。症例は68歳の男性。統合失調症で他院入院中, 消火器を自ら口にくわえて噴射した。その直後より, 全身の発汗, 四肢の冷感が出現。ショック状態のため, 当院救命センターへ転院搬送となった。来院時, GCS E3V5M6で不穏状態で, 収縮期血圧60mmHg, 心拍数99/min, SpO2 99%であった。生化学検査で血清K濃度が10.3mEq/l, 心電図上でテント状T波を認めた。入室より38分後, 心肺停止状態となったが, 2時間以上にわたる心肺蘇生の後, CHDF等の集中治療を行い, 救命することができた。本症例で使用された消火器は, 主成分が炭酸カリウムであり, 内容物中のカリウムが体内に吸収され高カリウム血症となり, 心停止に至ったものと考えられた。一般に, 消火薬剤は低毒性と考えられているが, 致死的中毒を引き起こす危険性があることは広く認知されるべきである。
著者
朱 祐珍 渥美 生弘 瀬尾 龍太郎 林 卓郎 水 大介 有吉 孝一 佐藤 愼一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.7, pp.304-308, 2012-07-15 (Released:2012-09-17)
参考文献数
8

アクリルアミドは様々な用途で使用されるが,長期の曝露によって末梢神経障害を主症状とする慢性中毒を起こすことが知られている。今回我々は,アクリルアミドによる急性中毒を来した症例を経験したので報告する。症例は23歳の男性。自室にて自殺目的にアクリルアミドを水に溶かした溶液を内服し,嘔吐を認めたため救急外来を受診した。来院時意識清明,血圧117/53mmHg,脈拍数101/分,SpO2 99%(室内空気下),呼吸数24/分,体温36.7℃であった。身体所見や血液検査では異常を認めず,輸液にて経過観察をしていたところ,内服8時間後より徐々に不穏状態となった。その後も幻視や幻聴などの中枢神経症状が持続するため緊急入院となった。内服9時間後より全身の硬直,著明な発汗が出現し,内服11時間後より乳酸値の上昇,血圧低下を認めた。輸液負荷を行ったが反応せず,カテコラミンを投与し気管挿管を行った。その後も循環動態は安定せず,肝機能障害,腎機能障害が出現し,血液透析を施行したが,血圧が保てず約1時間で中止した。乳酸値の上昇から腸管虚血を疑い造影CTを施行したところ,著明な腸管壁の浮腫と少量の腹水を認めた。腸管壊死の可能性はあるが,全身状態から外科的処置は困難と判断した。その後も乳酸値の上昇,血圧低下,全身痙攣が続き,アクリルアミド内服40時間後に永眠された。アクリルアミドによる慢性中毒や亜急性中毒の報告はあるが,今回の症例のように急性中毒による劇的な経過で死に至った例は少ない。内服後数時間は症状が出現せず重症化を予測しにくいが,その後劇的な経過で死に至る場合があるため,慎重な経過観察が必要と考えられた。
著者
大槻 郁人 高桑 一登 佐藤 順一 高橋 広巳 荒川 穣二
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.11, pp.941-946, 2013-11-15 (Released:2014-01-07)
参考文献数
9

症例は慢性血液透析中の83歳の男性。意識消失のため午前2時に当院へ救急搬送された。搬入時の血糖値は22mg/dlと低値であり,50%ブドウ糖を20ml静脈内投与した。血糖値は128mg/dlへ上昇し意識状態の改善を認めた。糖尿病の既往はなく,精査加療目的に入院した。入院後10%ブドウ糖を20ml/hrで持続投与していたが,入院5時間後再度意識障害が出現し血糖値は32mg/dlと低血糖を認めた。内服薬についてかかりつけ医に問い合わせたところ,当院搬入10日前の透析中に心室頻拍が出現したため,透析患者には禁忌と認識していたが,危険な不整脈に対して使用する旨を本人に説明しコハク酸シベンゾリン(以下CZ)100mgを5回分頓用で処方していた。来院時には全て内服しており,CZによる薬剤性低血糖を疑い,より高用量のブドウ糖の持続投与を行った。ブドウ糖投与とともに血糖値は上昇し意識障害は改善した。第8病日に来院時のCZ血中濃度は1,330ng/mlと異常高値であることが判明し,CZによる低血糖と診断した。CZの血中濃度が中毒域を下回り,重篤な低血糖を来さなくなるまで5日間を要した。CZは透析で除去されにくいとされており,本症例も12日間の入院管理が必要であった。慢性血液透析患者におけるCZ中毒は低血糖などの副作用が遷延する可能性があり,入院による厳重な管理を要する。
著者
臼元 洋介 一二三 亨 霧生 信明 井上 潤一 加藤 宏 本間 正人 乾 昭文
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.174-179, 2008-03-15

電撃傷は生体内に電気が通電することによって発生する損傷を総称しており,雷撃傷も同様に扱われることがある。しかしながら,雷撃傷は受傷時の状況,臨床症状,予後などにおいて,電撃傷とは異なる特徴をもっている。今回我々は,登山中同時に落雷にあい,当院へ救急搬送された雷撃傷の 2 例を経験した。66歳の男性と52歳の女性が大木の下で雨宿りをしている最中に落雷にあった。男性は心肺停止(cardio pulmonary arrest; CPA)状態で搬送され蘇生せずに死亡,女性は第 7 病日に後遺症なく独歩退院した。 2 例とも搬送時に,雷撃傷に特徴的である電紋を認めた。電紋は,体の表面に沿って火花放電(沿面放電)が起きたときに生じる熱傷であるが,電気学的な観点からこの放電は樹枝状に伸展することがわかっている。また電紋の枝の広がる方向を観察することにより,電流の流れた方向が推測できる。今回経験した 2 症例をもとに,生存者の問診から得た情報と電紋の観察から,電流の流れと転帰について考察した。CPA症例では,側撃雷といわれる現象がその転帰に大きく関与していたと考えられ,従来の直撃雷のみではなく,側撃雷についてその啓蒙的意義をふまえて報告する。
著者
大倉 隆介 小縣 正明
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.837-846, 2013-10-15 (Released:2013-12-30)
参考文献数
9

救急外来を受診する過換気症候群症例の臨床的特徴を明らかにすることを目的として,2004年4月以降6年間に神戸市立医療センター西市民病院(旧・神戸市立西市民病院)の救急外来を受診し過換気症候群と診断された474名(受診件数627件)を対象とし,その症状や検査所見,当院における治療方法および結果を遡及的に検討した。患者の平均年齢は35±16歳,性別は男85名(102件),女389名(525件)であった。受診件数は明らかな季節変動を示し,夏に増加し冬に減少した。身体的疾患の合併に関しては気管支喘息が最も多く64名(13.5%)にみられた。精神科的疾患の既往では神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害が最も多く104名(21.9%)に認められた。救急車による搬送例は348件(55.9%)を占め,非搬送例と比して精神疾患合併例が有意に多く,救急外来での在室時間が有意に長かった。治療としては,鎮静を目的とした薬物投与が322件(51.4%)で行われ,ペーパーバッグ法が122件(19.5%)で施行された。いずれの治療法も,施行した群は施行しなかった群に比して救急外来の在室時間が長かった。過換気発作停止後にSpO2の低下を伴う無呼吸がみられた症例が35件(5.6%)あった。入院を要した症例は7件(1.1%)あった。対象期間中に過換気症候群で当院救急外来を複数回受診した患者は71名(15.0%)あり,その受診回数は平均3.2回,最大18回であった。1か月以内の再受診は37名(72件)あった。複数回受診者が精神疾患を合併する割合は69.4%であったが,受診回数1回の患者では35.6%であった。過換気症候群は,ほとんどの症例において予後は極めて良好であるが,気管支喘息などの他疾患との鑑別困難例や過換気後無呼吸による低酸素血症の発生に注意が必要である。
著者
Takashi Wakahara Nobuaki Wada
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
Nihon Kyukyu Igakukai Zasshi (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.175-180, 1994-04-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
11

A 18-year-old man was admitted with a complaint of enormous abdominal distension and gasping respiration. The patient's colon was inflated as a result of having compressed air forced through the anus by his fellow worker. Chest and abdominal X-ray and arterial blood gas analysis revealed enormous pneumoperitoneum, hypercapnia and hypoxemia (pH 7.10, PCO2 84.9mmHg, PO2 33.5mmHg). A large amount of gas (air) was released from the abdomen by puncture on the right upper quadrant, and hypercapnia was rapidly improved. Gastrografln enema revealed rupture of the transverse colon and emergency operation was performed. There was a rupture, 3cm in diameter, in the transverse colon along the tenia coli omentalis. Multiple serosal tears (16 in total) were also found throughout the remaining colon.
著者
大谷 尚之 井上 一郎 河越 卓司 嶋谷 祐二 三浦 史晴 西岡 健司 中間 泰晴
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.149-156, 2013-03-15 (Released:2013-05-29)
参考文献数
12

【背景と目的】急性大動脈解離は画像診断法や外科的治療法が発達した現在においても死亡率が高く,いかに早期に診断し治療介入ができるかがその転帰を左右する。診断確定には造影CTが有用であるが,単純CTでも内膜石灰化の内方偏位,血腫により満たされた偽腔が大動脈壁に沿って三日月上の高吸収域として認められる所見(crescentic high-attenuation hematoma)など特徴的な画像所見を呈することが知られている。しかし,その出現頻度,単純CTでの診断精度については言及されておらず,単純CTから解離の診断が可能か検討した。【方法】2008年1月から2009年12月までの2年間,当院で急性大動脈解離と診断された54例のうち造影CTが撮影されていない2例,来院時心肺停止5例,他院で解離と診断され当院に転院となった3例を除く44例において来院時に撮影した単純CTを後ろ向きに検討した。内膜石灰化の内方偏位,crescentic high-attenuation hematoma,visible flap,心膜腔内出血4所見のいずれかを単純CTで認める場合に診断可能と評価した。また非解離例37例と比較検討を行った。【結果】44例のうち内膜石灰化の内方偏位を29例(65.9%),crescentic high-attenuation hematomaを33例(75.0%)と非解離例と比較し有意差をもって多くの症例で認めた(p<0.01)。頻度は少ないため有意差はつかなかったがvisible flapは4例(9.1%),心膜腔内出血は5例(11.4%)で認め,44例中40例(90.9%)で単純CTでの大動脈解離診断が可能であった。【結語】単純CTは大動脈解離の診断に有用である。
著者
岩崎 衣津 時岡 宏明 福島 臣啓 實金 健 奥 格 小林 浩之 石井 瑞恵
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.92-100, 2012-03-15 (Released:2012-05-18)
参考文献数
32
被引用文献数
1

【目的】わが国では敗血症性ショック患者に対してエンドトキシン吸着療法(以下PMX-DHP)が保険適応になって以来,敗血症治療の第一選択として行われることが多い。しかし,国際的には臨床的有用性は議論されており,治療法としては確立されていない。当院では,敗血症性ショック患者に対して,速やかな感染源の除去,適切な血行動態の維持,抗菌薬の早期投与等の集学的治療を行っている。PMX-DHPを用いない当院において,緊急手術を施行した下部消化管疾患による敗血症性ショック患者の治療成績について後ろ向きに検討した。【対象と方法】下部消化管疾患に対し緊急手術を施行され,周術期に敗血症性ショックとなり昇圧剤を必要とした成人症例を対象とした。血行動態の維持には,頻回の心臓超音波検査による前負荷と心機能の評価を行い,輸液を投与した。昇圧剤にはドパミン,ノルアドレナリン,少量バソプレシン等を用いた。【結果】緊急手術を施行した下部消化管疾患による敗血症性ショック患者28例の院内死亡率は17.9%でAPACHE IIから算出した予測死亡率63.3%に比較して良好であった。とくに大腸穿孔患者15例では,予測死亡率57.7%に対して院内死亡率は0%であった。【結論】下部消化管疾患による敗血症性ショック患者の治療は,心臓超音波検査による適切な前負荷の維持とノルアドレナリンとバソプレシンの使用により,PMX-DHPを用いなくても良好な成績を示した。
著者
板垣 有亮 瀧 健治 山下 寿 三池 徹 古賀 仁士 為廣 一仁 林 魅里
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.57-62, 2014-02-15 (Released:2014-06-10)
参考文献数
14

症例は33歳の初産婦。妊娠41週0日に1児を正常分娩した。出産後1時間で子宮より2,800mL の出血を認め,ショック状態となり当院へ転院となった。救急搬入時にショック状態が継続していて,搬入後7分でpulseless electrical activity(PEA)となった。9分間のcardiopulmonary resuscitation(CPR)にて心拍再開し,出血性ショックに対してtranscatheter arterial embolization(TAE)後にintensive care unit(ICU)へ入室となった。ICU入室後に羊水塞栓症によるdisseminated intravascular coagulation(DIC)と診断し,人工呼吸器管理下でDICの治療を行い,3日間のmethylprednisoloneの投与と第1病日,第2病日に血漿交換を行った。第9病日に抜管に至り,抜管後意識レベルはGlasgow coma scale(GCS)15であったが,第19病日に脳静脈洞血栓症を合併し,ヘパリンによる抗凝固療法を開始した。第23病日に再度子宮内出血を認め,超音波検査と血管造影検査にてuterus arteriovenous malformation(子宮AVM)または胎盤遺残と診断し,同日子宮全摘術を施行した。病理結果は第1群付着胎盤遺残であり,子宮筋層血管内にムチン成分と上皮成分を認め,第1群付着胎盤遺残,羊水塞栓症と診断した。術後状態は安定し,第134病日にmodified Rankin Scale Grade 1で独歩退院した。羊水塞栓症は稀な疾患であるが,予後不良な疾患である。羊水塞栓症の診断治療には複数科に渡る早急な判断と集中治療協力体制が肝要である。
著者
松本 紘典 中田 康城 蛯原 健 加藤 文崇 天野 浩司 臼井 章浩 横田 順一朗
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.877-885, 2013-10-15 (Released:2013-12-30)
参考文献数
20

飲食物による咽喉頭および食道熱傷は臨床上,しばしば経験されるが,その報告例は少ない。今回,我々は90℃の高温飲料の摂取後に緊急気道確保を要する咽喉頭熱傷および遅発性瘢痕狭窄を来した食道熱傷の1例を経験したので報告する。症例は28歳の男性。飲酒の席で約90℃のコーヒーを約200ml飲用し,呼吸苦・嚥下痛にて当院受診となった。来院時,上気道粘膜の腫脹が強く,喉頭ファイバーにて喉頭蓋および声帯の腫脹も認め,気道緊急の状態にあり,気管切開による緊急気道確保を行った。咽喉頭熱傷については,経時的に粘膜腫脹は軽快してきたものの喉頭蓋の腫脹が遷延し,容易に誤嚥する状況が続いた。喉頭蓋の腫脹改善とともに第39病日に気管切開チューブを抜去でき,その後も瘢痕形成などは来さなかった。食道熱傷について,受傷早期は食道穿孔等を来さずに経過したが,第25病日に吐血のため,上部消化管内視鏡検査をしたところ,下部食道を中心として食道全長に渡る粘膜の易出血性びらん,潰瘍所見を認めた。第40病日に再度上部消化管内視鏡検査を施行したところ,内視鏡通過は可能であったが,散在性に瘢痕狭窄所見を認めた。粘膜所見は治癒経過にあり,流動食より食事を開始し,第48病日の食道透視検査にて全体的に伸展不良を認めたが,普通食まで摂取可能となったため,第53病日に退院となった。しかしながら,その後も緩徐に食道狭窄は進行し,食道拡張術も奏功せず,第264病日に食道切除術施行となった。温熱熱傷においても,上気道閉塞および遷延する喉頭蓋腫脹に伴う嚥下障害に対する気道管理や,食道瘢痕狭窄に対する経時的な評価,治療が必要である。