著者
冨田 和幸
出版者
日本社会学理論学会
雑誌
現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.94-106, 2014 (Released:2020-03-09)

「認識による自由(解放)」を社会学の使命とするBourdieuにとって、「意識の覚醒(prise de conscience)」は象徴暴力に抗する武器であり続けていた。しかるに、この「意識の覚醒」に対し、特に『パスカル的省察』(1997 年)、『男性支配』(1998 年)の段階において、一転してBourdieuはその限界を執拗に指摘し始める。ある論者は、こうした彼の姿勢の変化の背後に「象徴暴力論のもうひとつのヴァージョン」が控えていると主張する。本稿は、このような主張に対し、この彼の姿勢の変化は、彼の象徴暴力論の質的変化と何ら関係するものではなく、主知主義(intellectualisme)、具体的には、「表象を変えることで現実を変えることができる」という考えと、彼自らの立場(特に象徴権力という考え)との差異化を図ろうとする過程の中で生じたものであることを示すものである。また、最後に、「認識による自由(解放)」という彼の社会学の使命それ自体と、主知主義との関係性をめぐる疑問点を提示して本稿の結びとする。