著者
冨田 知世
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

本研究は、事例県のある進学高校において、1990年代に確立された実践が「進学校」として取るべき実践のセットとして制度化され、その後も当該校に受け継がれる様子と、他校にも普及する様子を、教師という個人レベルのアクターの行為に着目して明らかにすることを目的とした。事例校で構築された実践を制度と捉えた時に、制度の確立という過程に本年度前半は焦点を絞り分析を進めた。分析に用いたデータは1990年代に事例校に勤務していた教師数名に対するインタビューデータである。1990年代に事例校で確立した実践は「進学校」として取るべき実践のセットとしてその後の時代の当該校や他校に影響を及ぼすような実践として制度化されたが、分析の結果、以下のことがわかった。当時、事例校ではあらゆる教育活動が合格実績の向上と関連しているのだという論理が教師の間で主観的に構築されたということ、同時に普段の授業における実践と合格実績が関連しているという論理について統計手法を用いて可視化できたこと、これらが実践の技術的合理性を高め、実践の制度化に寄与したことがわかった。この分析の成果は、2015年9月の日本教育社会学会で発表をし、2015年度東京大学大学院教育学研究科紀要に発表した。また本年度後半は、他校・他県と比較した際に、1990年以降、事例校卒業生の合格大学の特徴やその趨勢的特徴がどのような点にあるのかを『サンデー毎日』に掲載された難関大学合格者数情報より分析した。加えて、1990年代に事例校が所在する県で実施された県教育委員会主導による「学力向上施策」の背景を行政資料等から明らかにした。