著者
前原 信敏 佐藤 久聡
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

Staphylococcus hyicusは子ブタの滲出性表皮炎の起因菌であり、本菌が産生するS.hyicus表皮剥脱毒素(SHET)により本疾病に特徴的な臨床症状が生じる。SHETはその分子中にセリンプロテアーゼ様構造を有するが、カゼイン分解能を有さないため、その標的物質は特殊な蛋白であることが推測されている。血清型A(SHETA)および血清型B(SHETB)の毒素は1日齢ニワトリひなの皮膚からEDTAにより抽出した液中の分子量40kDaの蛋白(P40)にのみ結合した。SHETAおよびSHETBは毒素感受性動物であるニワトリひなおよび子ブタのP40ならびに非感受性動物である哺乳マウスのP40の何れにも結合した。また、ニワトリP40に対する抗体はニワトリ、ブタおよびマウスP40の何れにも結合した。しかし、SHETAおよびSHETBはニワトリおよびブタP40を切断したが、マウスP40を切断できなかった。高度精製したニワトリP40のアミノ末端配列はウシ、イヌ、ヒトおよびマウスのデスモグレイン1(DSG1)およびDSG3の細胞外ドメインのアミノ酸配列と高度に合致した。そこで、抗ヒトDSG1血清と抗ヒトDSG3血清をニワトリ、ブタおよびマウスP40と反応させたところ、抗DSG1血清は全てのP40と結合したが、抗DSG3血清は何れのP40とも結合しなかった。SHETAおよびSHETBとニワトリ、ブタおよびマウスP40を反応させた後に抗DSG1血清と反応させたところ、ニワトリP40とブタP40には結合しなくなったが、マウスP40には依然として結合した。以上の成績より、SHETの標的蛋白がDSG1であること、SHETの動物感受性はDSG1細胞外ドメインに対する切断活性に依存することが示唆された。