- 著者
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前嶋 篤志
金子 秀雄
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2014, 2015
【はじめに,目的】昨今,全身振動刺激(Whole body vibration:WBV)は身体に様々な運動効果をもたらすという報告があり,振動マシンを用いたWBVトレーニングが高齢者や様々な疾患に対して試みられている。WBVによる効果として,先行研究では下肢の筋力増強効果が得られたとしたものなどがあるが,これらの先行研究では,トレーニング中の肢位として膝関節を軽度屈曲した立位姿勢で行われているものが多い。しかし,膝関節伸展位でWBVを行うことにより,下肢関節での振動吸収が減少し振動刺激が体幹筋活動を高め,体幹筋に対するトレーニングに応用できる可能性が考えられる。また振動刺激の強度も筋活動に影響することが知られているが,WBV中の姿勢や振動強度が体幹筋活動へ与える影響を調査した研究は見当たらない。そこで本研究では健常成人男性を対象にWBV中の膝関節角度,振動周波数の違いが体幹筋活動に与える影響を調査することを目的とした。【方法】対象は運動に支障をきたす整形外科的疾患,神経疾患を有さない成人男性14名(平均年齢26±5歳,平均BMI19.9±1.4kg/m<sup>2</sup>)を対象とした。測定方法として対象者には,WBVトレーニング装置(Novotec Medical社製Galileo G-900)の振動板上で,2種類の振動周波数(20Hz,30Hz)および膝関節角度(屈曲0°,20°)の組み合わせによる4条件で立位を保持させた。足部の接地位置は,振動板の中心軸から左右に6.5cm離れた位置に足部の中心がくるように接地させ,振幅が1.2mmになるように統一した。足底全体に均等に荷重をかけ,安全のため前方のハンドルを軽く触れさせ,測定中は前方を注視するように説明した。各条件においてWBVを1分間行い,その時の右側の外腹斜筋(EO),内腹斜筋(IO)多裂筋(MF)の筋活動を表面筋電図(Delsys,Bagnoli-8)により測定した。各条件の測定順序はランダムに設定し,各条件間には1分間の休憩を入れた。WBV時の筋活動の計測前に,各3筋それぞれの最大等尺性随意収縮(MVC)を計測した。いずれも随意収縮を5秒間行ってもらい,中央3秒間の積分値(IEMG)を求めた。4条件における筋活動は振動前の5秒間とWBV中の安定した筋活動5秒間を抽出し,それぞれ中央3秒間を解析に用いた。分析に用いた筋電図は,バンドパスフィルター(10~400Hz)にてフィルター処理を行った後,WBV時の筋電図データはバンドストップフィルターにて振動による特定周波数をそれぞれ1.5Hzの範囲で選択的に除去した。その値を整流化し,IEMGを求め,WBV前のIEMGを差し引いた値をWBV中のIEMGとした。最終的にこの値をMVCで除して%IEMGを分析に用いた。統計方法として,WBV前の膝関節角度の違いによる%IEMGを比較するために対応のあるt検定を用いた。WBV中のデータは膝関節角度と振動周波数の2要因について反復測定の分散分析を行った。いずれも有意水準は5%とし,それ未満のものを有意とした。【結果】WBV前の膝関節角度の違いによる立位姿勢の各筋活動に有意差は得られなかった。膝関節角度と振動周波数における比較では,WBV中のEO,IOの筋活動にて膝関節角度要因に主効果を認めたがMFには認められなかった。膝関節角度の違いによる%IEMGの平均値は,EOが膝屈曲0°で19.1%,膝屈曲20°で14.7%,IOが膝屈曲0°で17.5%,膝屈曲20°で13.2%となり,膝屈曲0°の%IEMGが有意に増大した。振動周波数の主効果,交互作用は認められなかった。【考察】今回,WBV前の姿勢の違い,WBV中の振動強度の違いにおける%IEMGに有意差はみられなかった。WBV中の膝関節屈曲角度の違いにおいて屈曲20°と比較し屈曲0°のEOの%IEMGが約5%,IOの%IEMGが約4%大きく,それぞれ有意差がみられた。これは膝関節角度が小さくなるほど身体上部への振動強度は増加するとするAbercrombyらの報告を支持する結果となった。一方でMFの%IEMGには各条件間で有意差はなく立位姿勢条件による影響はないことがわかった。また周波数の違いは3筋の%IEMGに影響がないことがわかった。WBV上での立位姿勢の保持は,EO,IO,MFに対して低強度の筋活動を生じさせ,EO,IOに対しては膝屈曲0°位をとることで相対的に高い筋活動が得られることがわかった。【理学療法学研究としての意義】WBV上での立位姿勢,特に膝伸展位での保持が低強度の体幹筋活動を同時に生じさせること示した本研究は,WBV上での立位姿勢保持が体幹安定性を高めるトレーニングの一つとして活用できる可能性を示唆するものと考える。