著者
前川 明彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.66, 2006

<BR><B>1.はじめに</B><BR> 従来より、世界各国で直面している課題として地域コミュニティの再生という問題がある。我が国においても1960年代以降、工業化を中心とする経済成長による都市の膨張と地方の衰退などから地域コミュニティの衰退が叫ばれ、その再生が問われてから久しい。近年のグローバリズムや市場経済化の進展からNPO・NGOなどを始め、新たな市民活動の動きが世界各地で始まっている(前川,2005)。<BR> 一方、従来より地域コミュニティを支えている組織が疲弊し始めている。日本における、これらの組織には、自治会、町内会、老人会、婦人会など多くの地域組織があるが、多くの立場から、これらの組織がさまざまな理由から必ずしも十分に機能していないといわれている。例えば、自治会・町内会は、行政との助成金・会費等の問題、後継者育成の問題などが指摘されている(神戸新聞、2002ほか)。しかし、多くの諸問題が存在するには各組織の問題だけではなく、地域の構造的課題の存在する可能性もある。本報告では、これらの組織のなかで、少子高齢化のなかで構成員の減少が続く「子供会」を中心に、組織の現状と課題、さらには他の地域組織との課題などを市民活動という視点から既存資料と聞き取り調査など再考してみたい。また、同様に新たな市民活動の可能性もあると思われる、地域ネットコミュニティの動向を一部明らかにしていきたい。<BR><BR><B>2.地域コミュニティ組織の現状</B><BR> 子どもを対象に地域コミュニティとして支えている組織として、「子ども会」という組織がある。これには、社団法人「全国子ども連合会」に属する組織と様々な理由からこの組織に所属しない組織があるが、本報告では全書に所属する「子ども会」の現状で再考していきたい。<BR> 子ども会は、地域の子どもの成長を校外活動を中心に、遊びや行事など生かして育成しようということが主目的である。現在の構成員は,幼児、小学生、中学生が中心であるが、中学生、高校生はジュニアリーダーして参加しており、高校生は他の成人と同様に指導者として参加している。幼児、小学生、中学生の総数は、2000年の約462万人から2005年には約413万人、同様に組織(単位子ども会)数も約12.6万から約11.8と、減少傾向に構成員の加入率(2005年構成員/全就学者数)は、全国平均で小学生42.9%、中学生12.1%で、これらの推移も減少傾向にある。地域的な加入率を小学生から概観すると、福井県の93.9%など北関東、甲信越、北陸、九州地域は70%以上の県が多く、逆に最も低い東京都は11.7%と、都市部は低い傾向にある。<BR><BR><B>3.子ども会の課題と他の組織との問題</B><BR> 組織単体の課題として減少傾向があり、この要因として(1)少子化(2)協力者の問題(3)塾などの校外活動の多様化などがあるが、昨今の市町村合併の影響が出始めている。また、組織の活動の魅力から、子どもが中心ではない大人主導の活動、毎年の行事を消化することだけの活動などが挙げられる。<BR> こうした背景として、少子化、外部環境の変化の中で組織を支える親を中心とする協力者の減少や意識の低下などがあげられ、一番下位の子ども会を支える親たちの役員の輪番制から行事を消化することに向けられてしまうという現実などがある。<BR> また、下位のレベルでは、他の組織との課題として、(1)財政も含めた町内会など組織間の関係(2)青年指導員、体育指導員等との連携の課題(3)行政との課題(4)重複する人材難等の他の組織も関係する構造的諸問題が生じており、従来型組織の低迷が都市部を中心に地域コミュニティの低下の1つの要因とも考えられる。<BR><BR><B>4.地域ネットコミュニティによる新たな動き</B><BR> ネットによる「コミュニティサイト」は、現時点で商業的なものも含めると膨大なものになる。地理的空間の意味合いが強い地域コミュニティとは異なり、ネット上の「場」を用いたコミュニティとも解釈できるが、本報告では、地域発信型のコミュニティサイトから考えていきたい。約120の町内会サイトを町内会サイトを機能性と公式性の2つの面を中心に分析した武藤(2003)は、(1)アクセスが少ない(2)個人管理者も多く、作業、費用負担も多く、後継者が存在しないことなどを指摘しているが、新たに開発された住宅地域では今までとはやや異なる地域ポータルサイトの動きもみられる。これらの研究結果については報告時に詳細を述べたい。<BR><BR>参考文献等<BR>前川明彦(2005)コミュニティ・ビジネスの意義と課題。<BR>「コミュニティ・ビジネス&mdash;新しい市民社会に向けた多角的分析」。白桃書房<BR>武藤宏(2003)「町内会webサイトの実態と課題」http://www.hf.rim.or.jp/hmuto/