著者
前田 秀之
出版者
福井大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

遺伝子組換えマウスの維持方法として卵巣移植法がとられることがある。しかし、マウスが突発的な事故により死亡し、レシピエントマウスを購入しなければならない場合には対処できない。緩慢凍結により保存する方法が取られることもあるが、プログラムフリーザーを必要とするので容易に行えるものではない。これらに対処する方法として、また卵巣の低温輸送の実用化を考え、今回はマウス卵巣の短期間の保存を検討することにした。蛍光励起ライトで可視化できるC57BL/6-Tg(CAG-EGFP、以下GFPマウス)5週齢から卵巣を採取した。レシピエントマウスには8週齢のC57BL/6を用い、1個の卵巣を2つに分けて1匹に移植し、回復後にC57BL/6雄マウスと交配し産仔を得た。確認は産仔が、GFP発光するものはドナーマウスであるGFPマウスの卵巣由来と判断した。低温保存の検討は2段階で行い、実験(1)は、生理食塩水、胚の培養に用いるKSOM液、胚の凍結保存剤であるDAP213液、ミネラルオイルを選択して行った。選択した液を1cc入れたチューブの中に、1匹のGFPマウスの卵巣を入れ4℃で12時間保存した。保存後は、室温の生理食塩水で洗浄した後に移植した。この結果により保存液を決定した。実験(2)は、保存液としたものに実験(1)と同様に卵巣を入れ、4QCで24時間、48時間、72時間保存後に移植し保存期間を検討した。なお、対照として保存時間0時間の卵巣を移植した。実験(1)で使用した4種類の保存液では、卵巣を生理食塩水に入れ4℃で12時間保存したものと、コントロールでのドナーマウス由来のGFP仔マウス出生率が34.2%と35.6%と差が少なかったことと出産したレシピエントマウスの数でも、それぞれ6匹と7匹と差が無いことより、生理食塩水を保存液として使用できることが確認できた。実験(2)より24時間保存での出生率は24.4%、48時間のものでは19.8%との結果が得られたこと、72時間保存したものでは出産が確認できていないかったことより、卵巣の4℃での保存は48時間以内と考える。