- 著者
-
前田 裕昭
川口 佳久
安田 明生
- 出版者
- 一般社団法人 日本航空宇宙学会
- 雑誌
- 宇宙技術 (ISSN:13473832)
- 巻号頁・発行日
- vol.6, pp.31-35, 2007 (Released:2007-09-27)
- 参考文献数
- 5
準天頂衛星測位システム(以下QZSSと呼ぶ)では,地上軌跡が東経135度を中心とし8の字を描く軌道(以下QZOと呼ぶ)に衛星(以下準天頂衛星,あるいは,QZSと呼ぶ)を軌道上に打ち上げて,日本を中心とした東アジアやオセアニアに測位サービスを提供する.
しかし,軌道は,地球質点重力以外に,Zonal項やNon Zonal項等の非球対称地球重力項の影響や,太陽や月の重力,太陽輻射圧の影響を受ける.
そのため,それぞれの影響の大きさがどの程度であって,どれだけの期間でそれらを補正する必要があるか,またその補正に必要な速度増分量がどれくらいかの把握は,QZSS及びQZSの研究開発において主要な課題の一つであった.
この研究課題については,既に幾つかの検討がなされているが,いずれも断片的であったり,視点が異なる.
今回我々は,主に,軌道傾斜角=45deg,離心率=0.099,近地点引数=270deg,及び,地上軌跡の中心を東経135deg(これは昇交点経度=146.5degに相当する)とする軌道が受ける摂動を解析し,その特性を評価した.
2.では,Zonal項について,2体問題と対比させて述べる.Zonal項は,主として昇交点赤経,近地点引数,平均近点離角,及び昇交点赤経と平均近点離角の変動に起因して昇交点経度に影響を与える.
これらZonal項による昇交点赤経,近地点引数,平均近点離角の変動は,永年摂動項としてよく知られている.
ここでは,永年摂動項に関しては,軌道長半径の調整により,昇交点経度がほぼ変動しないようにすることができることを示す.
3.では,地上軌跡変動に主要な影響を与えるNon Zonal項についてその影響が経度に依存することを示す.
Non Zonal項は地球の経度に関係するものであって,主として軌道長半径に影響を与え,その影響の様子は静止衛星に対するものと似ている.
適切な頻度での東西制御が必要である.
4.では太陽輻射圧の影響,太陽と月の重力の影響を,昇交点赤経ごとに評価した.
5.では研究・考察の検討をまとめて,むすびとした.まとめとしては,次のようになる.すなわち,まず,永年摂動項による昇交点経度の変動は,軌道長半径の調整により,変動しないようにすることができる.地上軌跡の東西方向の変動は,その軌道保持運用間隔Pを半年とすると,その時の軌道長半径の毎回の制御量は15kmであり,昇交点経度の変動は4.5deg以内である.10年間の軌道傾斜角の変動幅は最大で7deg程度であり,QZSSのサービス仕様次第では,その変動幅が許容して放置することもできることを示唆した.
同様に,これもQZSSサービス仕様によるが,仮に初期の昇交点赤経が135deg~270degであれば,近地点引数でさえもその変動幅は20deg以下であるので放置が可能である.
なお,離心率の変動は大きいため,軌道保持運用間隔に実施する軌道長半径の毎回の制御と併せて,保持制御されることが望ましいことも分かった.