著者
劉 捷
出版者
山口大学大学院東アジア研究科
雑誌
東アジア研究 (ISSN:13479415)
巻号頁・発行日
no.13, pp.366-356, 2015-03

七世紀の中葉に新羅で編纂された『天地瑞祥志』は,かつて,朝鮮ならびに日本の読書人に広く受け入れられた書物である. その内容は,天地の間に存在するさまざまな符応に関する知識を収集した類書であり,時代が異なり,性質も異なるさまざまな古典文献を引用している. そのうち,動物の符応に関する「禽惣載」と「兽惣載」においては,『山海経』という特別な先秦文献が極めて大きな役割を果たしている. 『山海経』に登場する奇妙な形状や習性を持つ「怪物」たちは,『天地瑞祥志』において政治的な機能を有する「瑞祥」と見なされ,核心的な資料として各項目の記載内容を支えている. 基本的に中国の典籍を引用して編纂された書物であるが,『天地瑞祥志』の『山海経』や儒学についての観点は,同時代の中国の学術界のそれと明らかに異なっている. すなわち,朝鮮の『山海経』学者は,魏晋時代の郭璞や酈道元のように自然主義の観点から『山海経』を研究することはなく,劉向,劉歆といった漢代の学者と同樣の符応の思想を取り入れ,中国の学者によって動物と見なされた「鳥獸」を,国家の命運を左右する「瑞祥」とした. (以下,略)