著者
劉 暁潔
出版者
一般社団法人日本衛生学会
雑誌
日本衞生學雜誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.544-551, 1999-10-15
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

カドミウム(Cd)土壌汚染地域である長崎県対馬厳原町樫根地区において,1981年に行われた土壌改良工事によって,住民の一日平均Cd摂取量は,工事完了前の215&mu;gから106&mu;gに低下した。本研究では,Cd曝露量減少後の住民の尿&beta;<sub>2</sub>-マイクログロブリン(&beta;<sub>2</sub>-mg)濃度および尿・頭髪・血液Cd濃度の変化とその意義について検討した。<br>1979年に尿&beta;<sub>2</sub>-mg濃度が1,000&mu;g/g creatinine (&mu;g/g cr)以上であった住民9人の幾何平均値は,1996年には約2.5倍の高値となった。一方,1979年に尿&beta;<sub>2</sub>-mg濃度が1,000&mu;g/g cr未満であった26人の幾何平均値は,18年後も変化がなかった。この事実から腎臓障害があった人は土壌改良工事完了によるCd摂取量減少後も,腎臓障害がさらに進行すると結論された。<br>尿Cd濃度の幾何平均値は,1979年では11.0&mu;g/g cr,1996年では6.3&mu;g/g crであり,有意に減少した。1979年の尿&beta;<sub>2</sub>-mg濃度が1,000&mu;g/g cr以上であった群は1,000&mu;g/g cr未満群に比して,減少率は有意に大きかった(p=0.03)。これは腎臓障害が腎皮質中Cd濃度を低下させ,その結果として尿Cd濃度を減少させることを示唆すると考えられた。<br>頭髪Cd濃度の幾何平均値は,1979年の109.1&mu;g/kgから1996年の55.1&mu;g/kgへと49%減少した。体内Cd蓄積量の指標とされる尿Cd濃度も43%減少したので,頭髪Cd濃度の減少がCd摂取量の減少に直接関係するのか,蓄積量の減少によるものか,あるいは,その双方に関係するかは,今回の研究では不明であった。体内Cd蓄積量の指標とされる尿Cd濃度と頭髪Cd濃度との間には,相関係数が0.38&sim;0.44と弱い正の相関が認められた。したがって,頭髪Cd濃度は,体内Cd蓄積量の影響を受けることが示唆された。<br>1996年の血液Cd濃度の幾何平均値は5.7&mu;g/lであった。1979年の尿&beta;<sub>2</sub>-mg濃度が1,000&mu;g/g cr以上であった人の血液Cd濃度の幾何平均値は,1,000&mu;g/g cr未満の人より有意の高値を示した。血液と尿のCd濃度の間に強い正の相関(r=0.70,p<0.01)が認められた。したがって,Cd曝露が軽減して長期間経過した後では,血液Cd濃度は尿Cd濃度と同様に,体内Cd蓄積量に影響を受ける可能性が示唆された。