著者
劉 礫岩 細馬 宏通
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.46-62, 2017 (Released:2020-07-10)

スポーツのテレビ実況中継において,アナウンサーと解説者は絶えず変化する映像に現れる変化や出来事をことばで迅速に指し示す必要に迫られる。本研究はカーレースのテレビ実況中継をデータに,アナウンサーと解説者はどのようにことばによる指し示しを行い,映像と発話を結び付けるかについて分析を行った。その結果,アナウンサーと解説者は,「あっ」や「ほら」などの間投詞と,「こ」系指示表現を用いて,映像内の変化や出来事を異なる仕方で指し示すことがわかった。発話冒頭に置かれる指示表現「これ」は,現在映像内の状況にほかの参加者の注意を惹きつけるだけでなく,現在の状況について,話者はすでになんらかの仕方で把握していることを指標する。一方間投詞「ほら」は,映像に現れた話者がすでに述べた意見や予想と適合する出来事を指し示すために用いられる。これらのことばによる指し示しは,単に発話と映像を結び付けるだけでなく,実況におけるアナウンサーと解説者の職業的なアイデンティティの実現とも結びついていることがわかった。